敵国条項など

 石破 茂 です。
 1日水曜日に衆議院予算委員会では集中審議が開かれましたが、あまり緊迫した議論もなく、淡々と審議を終えました。テーマは「ウクライナ問題等」でしたが、この「等」が曲者で、これが付くことによって何をテーマとして論じてもよいことになり、議論は相当に拡散気味で内容の薄いものになってしまいました。
 その中で、短時間ながらも内容が濃かったのは今回も野田佳彦元総理の議論で、安倍政権時代の経済・財政政策と外交・安全保障政策を総括する必要性について質したのですが、岸田総理は無難な答弁に終始され、個人的には、安倍政権時代の諸政策について理路整然と語っていただけたらと少し残念でした。
 「アベノミクス」と称された経済政策の三本の矢の一つ、「異次元の金融緩和政策」は、これによって物価が上がることを想定し、国民の中で「それなら物価が上がる前にモノを買っておこう」という機運が高まることによって消費が拡大し、デフレが解消されるという考えに基づくものだったと思っています。しかし結局、国民の将来不安を払しょくすることができず、消費は控えられたままでした。今、コロナやウクライナ情勢を受けて金融情勢も相当に変化している中、政府としてもこの検証を行うべきではないかと思います。

 外交政策についても同様です。2018年11月のシンガポールにおける日露首脳会談で、日本は従来の姿勢を大きく転換し、歯舞・色丹の二島の引き渡し、という「1956年日ソ共同宣言」を基礎とすることになったのですが、その後、ロシアは憲法を改正し、領土について一切譲らない旨を明記しました。この時点で、本来するべきではなかった日本の譲歩は、ほぼ無意味となってしまったように思われます。この検証もしておかなくては、今後の日ロ外交の基盤が脆弱なものとなりかねません。

 参議院選挙が間近に迫り、「選挙まではとにかく安全運転に徹し、議論が分かれるような政策は敢えて提示しない。高い支持率と野党の体たらくぶりで、与党の勝利はほぼ確実視されている。その後、解散・総選挙を行わなければ3年間は安定政権となるので、その間に懸案を処理する方針だ」とまことしやかに語られています。しかし仮にそうだとすれば、国政選挙の持つ意味は何であり、主権者である国民は何を基準に判断すればよいのでしょう。政権選択ではない参議院選挙ではありますが、であれば尚のこと、明確な政策の選択肢を国民の前に提示し、国政選挙の機を捉えて民意を問うべきではないでしょうか。

 やや旧聞に属することで恐縮ですが、先日来日したバイデン米国大統領が首脳会談において日本の国連常任理事国入りを支持する旨を発言し、共同声明にも盛り込まれました。それ自体は結構なことですが、そうであれば国連憲章第53条と107条の「第二次世界大戦中に連合国の敵国であった国(日本・ドイツなどの枢軸国)が侵略行為を行うか、その兆しを見せた場合には、国連安保理を通さなくても軍事的制裁を行うことが出来る」とする敵国条項の削除についても言明していただかなければ、整合が取れないことになります。「敵国条項は既に死文化しているのだから憲章の改正は必要ない」との考えは甘いのであり、明文として残しておくことに積極的な意義を感じる国があるからこそ残っているのです。
 日本側も、本当に常任理事国入りを目指すのであれば、「国連の集団安全保障としての武力行使の参加は、自衛の必要最小限度を超えるので憲法上認められない」との憲法解釈を変更せねばならないでしょう。安全保障理事会の常任理事国として、加盟国に集団安全保障としての武力行使への参加を求めながら、自国は参加しない、などということはあり得ません。そのような自国にのみ都合の良い主張は、必ず国際社会の軽侮を招くことになります。「常任理事国として負うべき義務と責任」を正面から論じなくてはなりません。

 今日の自民党外交部会では、NATOと日本の今後の関係について、鶴岡路人・慶大准教授のスピーチ後、議論が交わされました。
 「ウクライナはNATO加盟国ではないので武力を行使して助けることはしない、とのバイデン大統領の主張は言い訳であり、集団的自衛権の行使に同盟の存在は必須ではない」との同准教授の考えはまさしく至当であり、これをもっと徹底して議論しなければならないと思いました。
 NATOは核共有体制というもう一つの面を持っており、核弾頭の所有権と管理権、使用決定権と拒否権はアメリカが持っていても、その意思決定と政治的な責任をNATO加盟国と共有するのがニュークリア・シェアリングの本質だと思います。

 沈没した知床観光船の「KAZU Ⅰ」の船体引き揚げに関して、一度失敗したことへの非難や政府の責任を問う声が上がったことには随分と違和感を覚えました。明白な過失があったわけでなく、関係者は精一杯取り組んでいたと思いますし、2回目にはきちんと所期の目的を果たしたのですから、もっと労いや称賛の言葉が寄せられるべきではなかったのでしょうか。

 週末は、本日3日に鶴保庸介参院議員の総決起集会(午後7時~・和歌山県民文化会館)。
 4日土曜日は第20回日本ヘルニア学会学術集会で講演(午前10時50分・パシフィコ横浜)。
 5日日曜日は前衆議院議員・門博文君の捲土重来を期する会で講演(午後1時・ダイワロイネットホテル和歌山)。
 6日月曜日は自民党鳥取県連街頭宣伝活動(午前8時~・鳥取市佐治町・用瀬町・河原町・福部町・岩美郡岩美町)、という日程です。
 梅雨入りも間近となりました。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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