石破 茂 です。
当選1回生の頃のことで全く記憶にないのですが、昭和63年10月に、自民党国防部会 防衛法制小委員会は自衛隊法第84条(領空侵犯措置)の改正案をまとめ、国会提出寸前までいっていたのだそうです(織田邦男・元航空支援集団司令官・空将の論考による。「安全保障懇話会」機関誌『安全保障を考える』平成28年11月号)。
領空侵犯措置には、海上警備行動や治安出動とは異なり、任務のみが規定され、武器使用についての権限は規定されていません。我が国の領空を侵犯し、警告にも従わず、退去も着陸もしない外国の航空機(戦闘機)に対して航空自衛隊のパイロットがどのように対処するのかについては、いわゆるROE(Rules Of Engagement)が内規として決められているはずですが、これを踏まえて「仮定のことには答えられない」「手の内を明らかには出来ない」との答弁から少しは踏み出すべきではないでしょうか。そうでなければ、国会の議論の意味がなくなってしまいます。
話を戻すと、この昭和63年の改正案は、前回私が提示した案とその趣旨をほとんど同じくするものでした。翌平成元年7月の宇野宗佑内閣時の参議院選挙で自民党が大敗を喫したため、結局国会に提出されることのないままに今日に至っているとのことで、迂闊にもこれを全く知らなかったことを深く反省しております。当時の自民党の先輩には見識のある立派な方がおられたのですね。法律を作ることはまさしく「国家意思の表明」なのであり、立法府の責任です。
平和安全法制を定める際、海空の「グレーゾーン事態」についての法的な整理を併せて行うはずだったのですが、その後「憲法第9条に自衛隊を明記する」ことに膨大な政治的なエネルギーを費やしてしまい、結局何の成果も得られなかったことは痛恨の極みです。
専守防衛も非核三原則も、その本質は堅持しながら、抑止力を強化する方策を考えるべきです。その一つとして核共有の議論があり、拒否的抑止力の一つの大きな柱としてシェルター整備を進めるべく、具体的な目標を定めるべきです。防衛予算を増やしさえすれば、日本の独立と平和がもたらされるわけではありません。
我が国が今後持つことになる「反撃能力」は、報復的抑止力にはなりえず、拒否的抑止力の一部を担うという位置づけになるのか。「日本に飛来する敵のミサイルが迎撃ミサイルの数を超え(飽和攻撃)、反撃する以外に手立てがない」場合への対応が典型的なケースでしょうが、更に精緻な思考が必要です。
今週も衆議院予算委員会は淡々粛々と進み、来週には衆議院を通過して参議院に送付される見通しです。政府・与党としては有り難い限りですが、本当にこれでよいのだろうかとの思いは拭えません。
19日日曜日の早朝、滞在先の倉吉市のホテルで観たNHK-BSの「軍人スポークスマンの戦争 大本営発表の真実」は丁寧に作られたとても良い番組で、権力とメディアが一体となった時、国は滅びるということを肝に銘じなくてはならないと改めて思ったことでした。アーカイブスでまだ視聴が可能かと思います。ご興味のある方は是非ご覧くださいませ。
13日月曜日、漫画家の松本零士氏が逝去されました。対談やイベントなどでご一緒したこともありましたが、平和を真に希求された深い考えをお持ちのとても立派な方でした。初期の作品「潜水艦スーパー99(ナイン・ナイン)」(月刊「冒険王」1964年~65年連載)からのファンでしたが、「銀河鉄道999」のメーテル、「宇宙戦艦ヤマト」の森雪など、竹久夢二の美人画にも似た、清楚で美しくも儚い女性キャラクターがとても好きでした。
残念な訃報が続きます。迂闊にも知らなかったのですが、元駐チリ大使で国際法の第一人者、色摩力夫先生が昨年11月24日に逝去されておられました。ご著書の「国家権力の解剖 軍隊と警察」(総合法令 1994年)、「日本人はなぜ終戦の日付をまちがえたのか 8月15日と9月2日の間のはかりしれない断層」(黙出版 2000年)、「国際連合という神話」(PHP新書 2001年)、「日本の死活問題 国際法・国連・軍隊の真実」(2017年 グッドブックス)はどれも優れた見識と深い考察に満ちた、極めて示唆に富む不朽の名著です。これらの著作を読まなければ、今の私の考えはなかったに相違ないのですが、未だ十分には理解しておらず、一知半解的な議論しか出来ていないことを恥じています。最後のご著書「日本の死活問題」を上梓された時、お目にかかる機会を逸してしまったことが悔やまれてなりません。
深い思考の方が次々と亡くなられ、表層的で勇ましい声高の議論が横行する言論空間になってしまえば、それはとても危ういように思えてなりません。お二方の御霊の安らかならんことを切にお祈り申し上げます。
明日土曜日は、大阪・堺市、熊取町へ参ります。日曜日は自民党大会、内容のある大会となることを期待しております。
皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。