22歳の女性が国を相手に裁判【第2回口頭弁論】準備書面

令和元年(ワ)第11910号 鎌ヶ谷市議会議員選挙の被選挙権に関する国家賠償請求事件 原告 粟飯原 美佳 被告 国 原告準備書面1 令和元年10月15日 東京地方裁判所民事第44部合議2A 係 御中 原告訴訟代理人 弁護士 小井土 直樹 第1 地方自治法19条1項,公職選挙法10条1項5号において市町村議会 の議員の被選挙権の年齢要件を満25年以上としていることについては何ら合 理性がないこと 地方自治法19条1項及び公職選挙法10条1項5号は,市町村議会の議員 の被選挙権に関し,年齢要件について満25年以上としているが,何ら合理性 を有しておらず憲法に違反している。 1 若年者の立候補を認めないことは国民主権の原則に反すること 憲法44条は,国会議員の資格について,「両議院の議員及びその選挙人の 資格は,法律でこれを定める。但し,人種,信条,性別,社会的身分,門地, 教育,財産又は収入によつて差別してはならない。」と規定するところである。 他方,憲法26条2項は,「すべて国民は,法律の定めるところにより,その 保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は,これを無償と する。」と規定する。 すなわち,憲法は国会議員の資格について,社会的身分,教育によって差別 2 してはならないと規定しているところ,一定の学歴を求めたり,職業に従事し たりしていることを理由に被選挙権を制限することは認めていない。これは, 教育の程度によって議員の資格を制限することは,結局のところ特定の階層の 者とりわけ経済的,身体的な事情により厳しい者が議員になる道を閉ざすこと になり,普通選挙制度の趣旨に反することになるからである。 もっとも,議員になるために一定の政治的知見を有することは求められるこ とは当然である。憲法は義務教育の存在を前提として,国民全てが一定の教育 レベルに到達することが想定されており,教育の程度によって議員になること を制約しなくても,十分議会制民主主義が機能するとしてその制約を設けなか ったものといえる。このことは,地方議会の議員の被選挙権を設定する場合に も当てはまるというべきである。 被選挙権年齢に選挙権年齢よりもさらに高く設定するのは,類型的に18歳 以上25歳未満の者について市町村議会議員に求められる社会的経験や能力が 不十分であることを理由に制限するものである。これは社会的身分や教育の程 度によって被選挙権を与えないのと同様,若年者については公務に従事する経 験や能力が類型的にないことを理由とするのと同様の立法目的を持つものであ る。 しかし,18歳以上25歳未満の者であっても,憲法30条に基づき納税の 義務を負い,その他地方自治法10条2項に基づき住民は法律の定めるところ によりその負担を分任することが求められている。これらの者が直接選挙に立 候補して条例等の改正を通じてその改正を求める機会が与えられることはなく, 被選挙権が与えられていない者に不利な決定がなされる危険性が高くなる。 学界からも,樋口陽一東京大学名誉教授が,近代憲法は被治者である選挙権 者と治者である被選挙権者との同一性を理念としていることから,被選挙権年 3 齢の下限を選挙権年齢の下限より高くしていることは憲法違反の疑いがあると 指摘しているところである。 その結果,若年者が議員になる機会を奪われる結果,若年者自身が直接的に 地方政治に反映する機会を奪うことになり,選挙権の行使という間接的な意思 の表明の機会した与えられないことになる。 特に,年齢制限が不合理であることは地方自治が住民に身近な行政を取り扱 うことに照らして,一層妥当する。 憲法92条は,「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は,地方自治の本 旨に基づいて,法律でこれを定める。」と規定する。ここでいう「地方自治の本 旨」とは住民自治と団体自治を指す。住民自治とは,その地方の政治が,その 地方の住民の意思と責任に基づいてなされることをさす。 その上で,憲法93条1項は,「地方公共団体には,法律の定めるところによ り,その議事機関として議会を設置する。」と規定し,同条2項において「地方 公共団体の長,その議会の議員及び法律の定まるその他の吏員は,その地方公 共団体の住民が,直接これを選挙する。」と規定する。 市町村議会の議員は,条例の制定,予算の決定,決算の認定,その他地方公 共団体における財産上の議決等といった住民の権利義務や生活に密接に関わる 事項の決定を行なう議事機関の構成員である。 特に地方自治に関しては,住民自治の観点からすれば,地方議員の資格に関 しては可能な限り住民の意思を反映させるべく幅広く取るのが適切というべき その制約は最小限のものに留めるべきである 実際,地方自治法94条は「町村は,条例で,第89条の規定にかかわらず, 議会を置かず,選挙権を有する者の総会を設けることができる。」と規定してお り,町村総会の権限は町村議会のそれと同一である。 4 すなわち,町村総会については,選挙権を有する者すなわち満18歳以上の 住民全員が「議員」として活動することが想定されるところ,18歳以上の者 であれば,地方議会で議決する事項について十分に理解し判断する能力がある ことを前提としているものということができる。 また,平成30年の漁業法改正により公選制の廃止が決まった海区漁業調整 委員会についても,漁業法において漁業調整委員の被選挙人資格が18歳以上 の者とされ,平成27年まで公選制度が取られていた農業委員会委員について も20歳以上の者に被選挙権が与えられているなど,25歳未満の者であって も行政委員会の委員について十分公務に従事する能力がある前提で立法がされ ている。 くじで選出される裁判員や検察審査会委員も18歳以上の者に選任資格が与 えられ,就職禁止事由として当分の間18歳以上20歳未満の者の就任ができ ないこととされている。 そもそも市役所の一般職の職員について,地方公務員法上年齢要件が定めら えておらず,採用試験の受験資格の要件として18歳以上の者としており,採 用されれば行政職として市の有する公権力の行使を担うことになるのである。 この点でも,現行の議員の被選挙権を満25歳以上の者に限定している点で 矛盾しており,被選挙権年齢の制限が不合理であることは明らかであり,憲法 が採用している基本原則である国民主権の原則に反するものである。 2 若年の立候補者が議員にふさわしいか否かは有権者が判断すべきであるこ と 被告は,市町村議会の議員に関して,内務省編『改正地方制度資料第一部』 を引用して,「議員となり・・・の公職に就いて,複雑多岐な公務に携り誤りな きを期さしむる爲には相當の知識や豊富な經験を必要とし,特殊の者は別とし 5 て,一般に成年に達したといふだけでは未だ不充分と考へられる」と主張する。 しかし,そもそも,立候補した者が市町村議会議員としてふさわしいか否か はまさに有権者の判断に委ねるべきものであって,成人以上の年齢に関して法 律で制限すべきものでない。25歳未満の者でも当該文献において「特殊の者 は別として」と留保しているとおり,個人差があるのである。 実際,諸外国の中には我が国より被選挙権年齢が低い国が多くあり,例えば 議会制民主主義発祥の地と言われるイギリスにおいて,被選挙権年齢は18歳 に引き下がられており,実際20歳の女子大生が下院議員として当選した実績 がある。もっとも,「若すぎる」議員が当選したことで,国政の運営に支障が生 じたという事態になっておらず特段の支障は生じていないとのことである。 現在,若者の低投票率がしばしば問題となっているが,イギリスでは被選挙 権年齢を21歳から18歳に引き下げたことにより,若者の投票率が向上した という実例も報告されている。現在の被選挙権年齢制限は,自分たちと同世代 ないしそれに近い世代の候補者に投票する権限を奪い,18歳以上25歳未満 の国民に関しては選挙には立候補できない,単に投票をすることしかできない 受け身の存在として扱われ,2級国民扱いをされているのである。 そのことが有権者の政治離れを加速しているといっても過言ではない。 法律によって,有権者の選択肢を奪うことは,憲法15条1項で保障する公 務員の選定権を侵害する行為に外ならないのである。 実際,鎌ヶ谷市議会議員選挙では26歳の候補者であるとくの涼氏が第2位 の2145票を獲得して当選しており,有権者における若い候補者に投票した いというニーズの強さが十分うかがえるのであり,鎌ヶ谷市民の選択の機会を 奪っている。 原告自身も,25歳未満の候補者である自らに対して投票をする機会を奪わ 6 れ,選挙人としての立場でも憲法15条1項の公務員選定権が侵害されている。 併せて,原告自身が鎌ヶ谷市議会議員になるという職業選択の自由も不合理 な年齢差別により奪われており,憲法22条1項にも違反するものである。 この裁判の内容について紹介した YouTube 上に立花孝志党首がアップロード してアンケートを取ったところ7327人の方が回答し,この裁判について賛 成が6826人で93%と圧倒的であり,反対が303人で4%,分からない が198人で2%に過ぎないのである。多くの国民が25歳未満の人が選挙に 出て当選することができない制度に不満を感じているという有権者の怒りを受 け止めるべきである。なお,このアンケート機能について Google アカウントご とに1回しか投じることができないこと,令和元年8月18日に安倍内閣の支 持率について立花孝志党首の YouTube 上で取ったところ,概ね各種報道機関が 実施する世論調査の結果に近い支持43%不支持35%わからない20%にな ったことを踏まえると,統計的に見ても国民の世論の動向を反映している信頼 できる結果といえる。 3 選挙で自らの政見を訴える機会を奪われ憲法21条に違反すること 憲法21条は,集会の自由や言論,表現の自由を保障している。とりわけ選 挙においては,有権者が候補者の政見を正しく知る機会を与える必要があると ともに,候補者においても自らの政見を効果的に周知宣伝することができる絶 好の機会である。このような公職の候補者であるという立場で自らの政見等を 表現する機会を,現行公職選挙法は25歳以上の者に限って限定しており,1 8歳以上25歳未満の者についてはそのような機会を与えられていない。 特に,選挙においては,各種法令で通常の政治活動に比べて,公職の候補者 に対し特別の便宜を享受する機会を与えている。すなわち,鎌ヶ谷市議会議員 選挙において公営ポスター掲示場が設けられ,選挙公報の発行がなされるとと 7 もに,無料で公選はがきを発出することができたりする。選挙運動用自動車の 駐車や運行等の特例,設備外積載の許可の特例,街頭演説の開催における道路 使用許可手続の適用除外,学校等の公共施設における個人演説会の開催など選 挙でなければ特例が広く認められている。ポスターやビラの作成,選挙運動用 自動車の借り上げ費用や燃料費,運転手に要する費用に関しては,供託金没収 点を超えた公職の候補者に関しては当該地方自治体からその費用を負担しても らうこと可能とされている。 また,候補者になるからこそ有権者に真剣に自らの政見について聞いてもら うことができるという副次的な機能もあり,選挙を通じて自己の有する政見に 共感してもらえる国民を増やすことにとても重要な機能がある。 原告は,鎌ケ谷市において20代前半の若者世代として選挙に出ることで, 政治経験がない自分でも選挙に戦うことができるのだという国民の皆様への勇 気づけになるという強い動機のもとに出馬を決意している。 このように公職の候補者となって,選挙を通じて自らの政見等を表現する機 会を25歳未満の者に関して認めないというのは憲法14条1項,21条に反 する。 4 地方議会議員の被選挙権年齢は法律で一律定めるのでなく条例によって定 める道を閉ざしている点で憲法92条,94条に反する 憲法92条は,「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は,地方自治の本 旨に基づいて,法律でこれを定める。」と規定し,地方公共団体における議会の 組織,権限等の基本的な事項に関しては法律で定めることは予定はされている。 しかし,他方憲法94条で「地方公共団体は,・・・法律の範囲内で条例を定め ることができる。」と規定し,各地方公共団体が住民自治に基づき条例を制定し 地方自治を行うことができる。 8 そうすると,地方議会における被選挙権年齢についても,国会は法律で憲法 が保障する被選挙権を踏まえ,ミニマムスタンダードとして法律上地方議会の 被選挙権年齢を定めることは求められているが,その具体的な被選挙権年齢に ついては,各地方公共団体の議会が法律の枠内で,条例で規定することが憲法 上要請されているというべきである。 仮に,地方議会の被選挙権年齢を25歳以上に設定することが憲法違反でな いとしても,それが法律で全国一律適用され,各地方公共団体が条例で年齢要 件を緩和することを一切認めていない点で憲法92条,94条に違反する。 現行地方自治法19条1項,公職選挙法10条1項5号は一律25歳以上の 選挙権を有する者に限定している,しかし,各地方自治体の裁量により,条例 で地域の実情に応じて,例えば20歳以上,18歳以上の者に被選挙権を認め たり,議員の成り手不足の自治体において居住要件を緩和したりするなど,各 地方議会が自らの裁量で議会の構成について,自主的に緩和することが全く許 されていないのである。議会の組織一つとっても,法律によって縛られ,実質 的には,総務省(旧内務省,旧自治省)の役人による中央集権的な上意下達体 制がなお温存されていることの一例になっているのである。 実際,アメリカやドイツの州では州法によって具体的な選挙権年齢や被選挙 権年齢が定められており,国が法律で一律に規制しているわけではないのであ る。 また,国家戦略特区ワーキンググループにおいて平成25年に若者の政治参 加を通じた地域活性化に係る特区提案が出され,市町村議会などの選挙に関し 選挙権,被選挙権年齢などの制度を独自に設定できる制度が提案され議論され ている。また,構造改革特区提案において平成15年に埼玉県北本市,その後 広島県三次市から選挙権年齢・被選挙権年齢の引下げの提案があるなど,地方 9 自治体の側からも国が一律に選挙権年齢,被選挙権年齢を一律定める制度への 改革を求める動きが出ているのである。 国が一律被選挙権年齢を法律で規定した結果,鎌ヶ谷市において自主的に条 例で被選挙権年齢を定めることが奪われ,原告が同市議会議員選挙に立候補し て議員になる道を閉ざされてしまったのである。 以下,我が国における立法経緯と被選挙権年齢を取りまく世界の状況,国会 における被選挙権引き下げの議論の状況や被選挙権引き下げがもたらす政治の 変化を踏まえて,具体的に地方自治法19条1項,公選法10条1項5号が違 憲であることに以下詳述する。 第2 地方議会議員の被選挙権年齢が25歳とされた歴史的,社会的背景 成人年齢に関し,ローマ法においては25歳,コモンローにおいては21歳 と伝統的にされてきた。21歳以上を成人年齢としているのは,騎馬用の重い 防具を身につけ乗馬し戦闘できる年齢が21歳以上であったことに由来してい るとのことである。 我が国においては現行民法では成人年齢が20歳とされているが,これ8世 紀初頭に制定された大宝令が数え年の21歳を「丁年」と定められていたこと にかんがみ,これにほぼ対応する満20歳を明治9年に制定した太政官第41 号布告において満20歳をもって「丁年」と定めたことに由来し,これが明治 23年に制定された旧民法を経て,現行民法の規定に踏襲されたものとされて いる。 なお,満20歳という成人年齢は,民法起草者の一人である梅謙次郎が日本 人の世間的知識の発達が他の西洋諸国より早いことなどを背景に20歳に定め たと説明している。 なお,民法の成人年齢は令和4年4月に18歳に引き下げられることになっ 10 ている。 男子普通選挙制実現によって導入された,大正14年の衆議院議員選挙法改 正(府県制,市制,町村制の改正は大正15年)において選挙権年齢は衆議院 議員,地方議会ともに満25歳であるとともに被選挙権年齢については,衆議 院議員については満30歳,地方議会の議員の被選挙権年齢は満25歳と定め られた。 衆議院議員の被選挙権について当時の帝国議会では「被選挙権は国家の重大 な公職を奉じる者を選ぶから年齢制限に差異があるのは不当でない」などとい うあいまいなものに留まっていた。 なお,戦前の帝国議会でも議員立法として衆議院議員の被選挙権年齢を満3 0歳から満25歳ないし満20歳に引き下げる法案が複数回にわたり提出され たものの成立は見なかった。 その後,敗戦を経て,衆議院議員について昭和20年に被選挙権年齢が現在 の25歳に引き下げられた。しかし,地方議員の被選挙年齢は25歳のまま維 持されたままであった。 選挙権年齢を引き下げた理由として,最近の教育文化の普及向上,近時の成 年の社会経済的活動の実際に徴し,また戦争中前線銃後を通じた各方面におけ る純真にして熱烈な活動から考えて,成年に達した国民は国政参加の能力と責 任観念においてもいささかも欠けるところがなく,また清心溌剌たる青年が政 治に参加することは,政界の空気を一新し国家の再興に寄与することが期待さ れるとされている。 しかし,被選挙権年齢の引き下げについては衆議院議員の引き下げのみに留 まった。 第3 諸外国における選挙権年齢,被選挙権年齢引き下げの動き 11 1970年代ころになって,欧米諸国を中心にこれまで21歳とされていた 選挙権年齢が18歳に引き下げられる動きが広がった。 ベトナム戦争等を背景として徴兵年齢が18歳であるにもかかわらず,選挙 権年齢が21歳であるのはおかしいといったことを背景に,世界各地で学生運 動が盛り上がったことを背景に選挙権年齢の引き下げが欧米諸国を中心になさ れた。 イギリスでは,1969年4月に1969年国民代表法により選挙権年齢が 引き下げ,成人年齢も同年7月に1969年家族法改正法が制定され,それぞ れ18歳に引き下げられた。選挙権年齢の引き下げに関して,キャラハン内相 は,最近は,青年は肉体的にも早く成熟し,若くして結婚し,大人としての社 会的責任を負っていること,教育も昔より進み知識も豊富であること,若い者 に参政権を与えることで,政治に活気を与え,新しい考えを吹き込むこと,若 者への偏見が少ないこと,18歳への引き下げは,若者への「参加」の感覚を 植え付けるのに大いに役立つこと,18歳で成人に達し,社会的に大人並みの 責任を負わなければならないのに,これに選挙権を与えないのは不均衡である ことを挙げている。 2004年に選挙委員会が,被選挙権年齢について従来の21歳から18歳 に引き下げることを勧告した。その理由は,21歳未満でも選挙による代表が 十分務まる若者がいるし,有権者を選挙を通じて候補者を選別することができ るということを理由とするものであった。そして,2006年選挙法により被 選挙権年齢が18歳に引き下げられ,実際2015年5月の総選挙で20歳の 女子大生の下院議員が誕生している。 なお,被選挙権年齢を引き下げた結果,18歳から24歳までの有権者の投 票率が上昇している。こうした点が,平成30年5月には我が国の与党である 12 自由民主党内の選挙制度調査会においても検討が行われている。 ドイツでは選挙権年齢が21歳,被選挙権年齢が25歳とされていたが,l 1970年に基本法の改正により選挙権年齢を18歳に引き下げるとともに, 被選挙権年齢を成人年齢に引き下げる基本法改正がなされた。当時の成人年齢 は21歳であったが,1974年に成年年齢が18歳に引き下げる法改正がさ れる同時に,被選挙権年齢も18歳に引き下げられた。 その背景として学生運動の影響や,兵役年齢が18歳からであることなどが 背景にある。 フランスでは,1960年から21歳であった選挙権年齢の引き下げの議論 があったが,1974年の大統領選挙でジスカールデスタン候補が「青年に政 治参加の機会を与えるために選挙権年齢を引き下げる」との公約を掲げ当選し, 1974年7月5日の法律第631号によって成人年齢の18歳引き下げとと もに選挙権年齢も18歳に引き下げられた。そして,下院議員や大統領,地方 議員の被選挙権年齢が2011年の法改正により23歳から年齢要件が削られ 選挙権を有する者改められ,被選挙権年齢が18歳に引き下げられた。あわせ て,上院議員の被選挙権年齢も満24歳に引き下げられた。 アメリカについては,連邦憲法上,被選挙権について上院議員は30歳,下 院議員は25歳,大統領及び副大統領は35歳と規定している。 選挙権に関しては,教育レベルの向上,市民としての自覚責任感養成,ベト ナム戦争を背景とした徴兵年齢との均衡,選挙民の質的改善を理由として19 70年に連邦法で選挙権年齢を18歳に引き下げた。しかし,連邦最高裁判所 は連邦法で連邦議会議員及び大統領選挙について規定することは州および地方 の参政権に関し規定することは違憲とされ(Oregon v. Mitchell, 400 U.S. 112), 1971年7月に合衆国憲法の修正26条によって州,地方についても選挙権 13 年齢が18歳以上と定められた。 しかし,州レベルの被選挙権でみると州議会下院において21歳以上が25 州,18歳以上が19州であり,24歳以上が3州,日本と同じ25歳以上は わずか3州にとどまっている。 さらに地方レベルでは現に18歳の市長が誕生した事例も存在するという。 平成27年に列国議会連盟等の調査を踏まえた結果,被選挙権年齢が判明し た194か国のうち,18歳が54か国,21歳が60か国,25歳が57か 国と日本の被選挙権年齢は世界的には少数派の高い部類に位置づけられること になっている。 第4 国会における被選挙権年齢引き下げの議論とその停滞 国民投票法が平成19年に制定されたが,当初与党案が投票権年齢が20歳 以上を,民主党案が18歳以上,場合によっては16歳以上とした法案が出さ れ,その後修正協議等の結果自民,公明側から本則で18歳以上とするも附則 3条1項で「国は,この法律が施行されるまでの間に,年齢満18年以上満2 0年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう,選挙権を 有する者の年齢を定める公職選挙法,成年年齢を定める民法(明治29年法律 第89号)その他の法令の制定について検討を加え,必要な法制上の措置を講 ずるものとする。」と規定し,選挙権年齢が18歳に引き下げがされるまで,2 0歳以上の者を,投票権を有する者とした。 その後平成26年に国民投票法改正案が成立し,平成30年6月21日以後 の国民投票においては投票権年齢が満18歳に引き下げられた。 選挙権年齢の18歳への引き下げについては平成27年6月4日に衆議院本 会議で可決,同月19日に参議院本会議で可決成立し,平成28年6月19日 施行され,同年実施される参院選の公示日以後公示ないし告示される選挙から 14 適用されている。 その議論の過程で,与野党の超党派の議員から被選挙権年齢引き下げについ て委員会等の場において言及されるようになった。国会における参考人質疑に おいても杉浦真理参考人から「参議院議員の被選挙権年齢が30歳というのは 世界的にもちょっと高いのではないかと考えられるので,25歳ぐらいは普通 にして,地方はもうちょっと若くてもよいという形がいいのではないか。」原田 謙介参考人から「地方と国政は違う年齢にしてもいいかなと思う。例えば,思 い切って18歳に被選挙権年齢を引き下げたときに,大学の4年間はそこで議 員をやっていると,その後就職して別のところにいけば,今度は議員ではない 立場として民間社会に残るということは十分考えられるので,若い人の移動を 考えたときは,まずは地方だけ一つ下げるということは大いにある。」,高橋亮 平参考人から,被選挙権年齢も含めて「地方選挙権については地方で決められ るように公職選挙法を改正した上で,個々の自治体がそれぞれ条例で適齢年年 齢を決めるという形にすればよいのではないか。」という意見もなされている。 平成29年の衆院選における自由民主党が出した政権公約2017において, 「選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことを踏まえ,被選挙権年齢につ いて引き下げの方向性で検討します。対象・適用年齢は若者団体等広く意見を 聴いた上で結論を出します。」としている。公明党が出した衆院選重点政策にお いて「若者世代の政治参加をさらに進めるため,被選挙権年齢の引き下げを目 指します。」としている。 平成28年11月28日に衆議院において当時の民進党,自由党,社民党か らの共同提案により被選挙権年齢を5歳引き下げる「公職選挙法及び地方自治 法の一部を改正する法律案」(第192回国会衆法第7号)が提出されたが,そ の後継続審議のうえ,平成29年9月28日の解散により廃案となった。その 15 後平成30年11月22日に同趣旨の法案「公職選挙法及び地方自治法の一部 を改正する法律案」(第197回国会衆法第3号)が立憲,国民,無所属の会(当 時),社民所属の議員から衆議院に提出され,継続審議のうえ,現在まで実質的 な審議がされないまま放置されている。 平成29年3月9日には参議院において日本維新の会からすべての公職につ いて被選挙権年齢を18歳に引き下げることを内容とする「公職選挙法及び地 方自治法の一部を改正する法律案」(第193回国会参法第14号)が提出され たが,委員会付託をされないまま同国会の閉会とともに審議未了のまま廃案と なっている。 このように,国会において一定の議論や法案提出がされているものの,結局 本件選挙に至るまで被選挙権引き下げに至っていない。 第5 国家賠償法上の立法不作為も認められること 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が 個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加 えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するもの である。したがって,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法 となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負 う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は 立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又 は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議 員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しか しながら,立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違 法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権 利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり, 16 それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれ を怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家 賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである(最 高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁)。 立候補の自由が憲法上認められることは,三井美唄炭鉱労組事件で最高裁が 昭和43年12月4日大法廷判決・刑集22巻13号1425頁で判示してい るところである。 憲法一五条一項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有 の権利である。」と規定し、選挙権が基本的人権の一つであることを明らかにし ているが、被選挙権または立候補の自由については、特に明記するところはな い。 ところで、選挙は、本来、自由かつ公正に行なわれるべきものであり、この ことは、民主主義の基盤をなす選挙制度の目的を達成するための基本的要請で ある。この見地から、選挙人は、自由に表明する意思によつてその代表者を選 ぶことにより、自ら国家(または地方公共団体等)の意思の形成に参与するの であり、誰を選ぶかも、元来、選挙人の自由であるべきであるが、多数の選挙 人の存する選挙においては、これを各選挙人の完全な自由に放任したのでは選 挙の目的を達成することが困難であるため、公職選挙法は、自ら代表者になろ うとする者が自由な意思で立候補し、選挙人は立候補者の中から自己の希望す る代表者を選ぶという立候補制度を採用しているわけである。したがつて、も し、被選挙権を有し、選挙に立候補しようとする者がその立候補について不当 に制約を受けるようなことがあれば、そのことは、ひいては、選挙人の自由な 意思の表明を阻害することとなり、自由かつ公正な選挙の本旨に反することと 17 ならざるを得ない。この意味において、立候補の自由は、選挙権の自由な行使 と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要で ある。このような見地からいえば、憲法一五条一項には、被選挙権者、特にそ の立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項 の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。さればこそ、公職選挙 法に、選挙人に対すると同様、公職の候補者または候補者となろうとする者に 対する選挙に関する自由を妨害する行為を処罰することにしているのである (同法二二五条一号三号参照)。 同判決でも自ら代表者になろうとする者が自由な意思で立候補できる環境が 憲法上求められているというべきである。 最高裁平成11年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1704頁にお いても「被選挙権又は立候補の自由が選挙権の自由な行使と表裏の関係にある 重要な基本的人権であること」を確認している。 しかし,原告が単に選挙当時22歳であってすでに民法上も成人に達してお り,25歳に満たないことを理由に立候補を認めないことは,原告が有する被 選挙権及び立候補の自由という憲法上の権利を侵害することは明白というべき である。 そして,これは国会による立法行為によってもたらされたものであることか ら,国会議員が職務上の義務違反を怠ったものとして,国家賠償法1条1項に いう違法があったものとして,被告は原告に対し国家賠償義務を負う。 そして,原告が鎌ヶ谷市議会議員選挙に立候補できなかったことで精神的損 害を受けたのみならず,議員として当選する可能性に関しては,26歳で立候 補した候補者であるとくの涼氏が2位で当選していること,同選挙の最下位当 18 選者が729票であるところ,別に NHK から国民を守る党の公認候補である杉 山和春が696票を獲得し惜敗率が95.74%で彼が34票取れば当選でき る状態であり,女性の若い候補である原告が立候補すれば十分当選できた可能 性は高いといえる。 なお,訴状においての請求は一部請求である。逸失利益としての議員報酬2 064万円(4年分)(訴状の記載の議員報酬455,000円は副議長の報酬 であったので,正しくは1月あたり430,000円に訂正する。),期末手当 810万1759円の逸失利益合計2874万1759円並びに立候補の自由 を奪われたことによる精神的慰謝料として100万円の合計損害額2974万 1759円の一部請求として50万円を請求するものである。 以 上