第三 被告の反論
1 本件契約は弁護士法72条違反による契約のため無効
原告が主張している平成24年12月9日付けの衛星の放送受信契約(以下「本件契約」と言う。)は、原告と被告が直接締結した契約ではなく、原告の受託会社(以下、「受託会社」という)と被告が締結した契約である。
よって、本件契約は弁護士法72条であり、無効である。
以下詳述する。
原告NHKと原告の受託会社が①放送受信料の代理契約を委託した業務委託契約、及び②収納業務を委託した業務委託契約とは、それぞれ弁護士法72条の構成要件を満たし、違法である。
当該弁護士法72条違反により、被告と受託会社とが、行った各法律行為等は、公序良俗に反するためにいずれも無効である(民法90条)。
つまり、本件においては、①被告が、受託会社の間で締結した受信料の代理契約は、無権限者との間の代理契約であり無効である(民法113条1項)。
第四 弁護士法違反の構成要件(要件事実)該当性について
1 弁護士法72条の構成要件は以下のとおりである。
(1) 「弁護士又は弁護士法人でない者」
(2) 「報酬を得る目的」があること
(3) 「その他一般の法律事件に関し」、「その事務を取り扱う」こと
(4) 「業」とすること
(5) 「この法律(弁護士法)又は他の法律に別段の定めが」ないこと
2 本件の構成要件(要件事実)該当性
(1) 弁護士又は弁護法人でない者
NHKの受託会社が、弁護士又は弁護士法人でないことは、受託会社の商号に、「法律事務所」「弁護士法人」という文言が付されていないことから、明らかである。
(2) 「報酬を得る目的」があること
ア NHKの受託会社が受信料の契約及び収納業務を行うにつき、「報酬を得る目的があること」は、その業務の性質上明らかであり、NHKおよび受託会社ともに否定しえない事実である。
イ なお、この点について、原告が弁護士法違反を争うのであれば、こうした事実をより明らかにするために、原告と受託会社との間の業務委託契約書の提出を求める。
(3) 「その他一般の法律事件に関し」、「その事務を取り扱う」こと
ア NHKと受託会社とが、NHKの放送受信料の(代理)契約及び受信料の支払いを含む収納業務を行っていることは、同社らが自認する事実である。
イ そして、東京高裁昭和39年9月29日判決の裁判例の示すところでは、弁護士法72条に規定する「その他一般の法律事件」とは、同条例示の事件以外の、権利義務に関し争があり若しくは権利義務に関し疑義があり又は新たな権利義務関係を発生する案件を差し、右規定にいわゆる「その他の法律事務」とは、法律上の効果を発生、変更する事項の処理をいうのである。
ウ すると本件では、①受託会社と一般国民との間で締結される受信料代理契約は、一般国民とNHKとの間に放送受信契約を締結し、受信料の納付義務を発生させる点で、新たな権利義務関係を発生させる案件であり、法律上の効果を発生する事項の処理にあたることが、明らかである。
エ 以上より、上記業務は、「その他の一般の法律事件」であり、かつ、「その他の法律事務」に該当する。
カ なお、本件と同種・類似の事案として、弁護士法違反を認めた裁判例を列記すると、「法律事務」に該当するとされたものとして、債権の取立て委任を受けてなす請求、弁済の受領、債務免除行為をなすこと、自動車損害賠償保険金の請求、受領の行為をなすこと(福岡高判昭和28年3月30日)、交通事故の相手方との示談交渉をなすこと(札幌高判昭和46年11月30日)、建物立退交渉・実現、地目の転用・変更手続等をなすこと(横浜地判昭和59年10月24日)、建物賃貸借契約の解除及び賃借人の立退交渉をなすこと(広島高決平成4年3月6日)、不動産の占有者と明け渡に関する和解交渉を行うこと(東京高判平成19年4月26日)などがある。なお、その多くが刑事事件として有罪という結論である。
(4) 放送受信料の(代理)契約及び収納業務が「業」として行われていること
NHKの受託会社が、受信料の契約及び収納業務を、反復継続し「業」として行っていることは、NHKおよび受託会社ともに、「業務委託契約」を締結していると自認している事実から、明らかである。
(5) 「この法律(弁護士法)又は他の法律に別段の定め」がないこと
弁護士法又は他の法律に、NHKおよび受託会社が、法律事務を取り扱うことを特別に許可する法律が存在しないことは、公知の事実である。
この論点につき改めて、NHKが公にしている主張を踏まえ、違法性の論点と合わせて、後述し、検討する。
3 結論
ア よって、NHKが、受託会社に対し、①NHKと一般国民との間における放送受信料の(代理)契約、および②収納業務を業務委託する各業務委託契約は、弁護士法72条の構成要件(要件事実)を満たし、弁護士法72条に違反する。ゆえに、NHKと受託会社との各業務委託契約は、いずれも公序良俗に反し、無効である。
イ この結果から、①受託会社と被告との間の受信料代理契約は無権限者との間の代理契約であり無効である。
ウ なお、本件は、刑事処罰を求める刑事事件ではないものの、同時に、NHKと受託会社とが弁護士法違反の共同正犯が成立していることも明らかであることを付言する。
第五 違法性(法益侵害があり、かつ社会的に不相当であること)
NHK及びNHKの受託会社によって、国民の法律生活上の利益が、現実に侵害された状態にあること
1 刑法35条1項「正当な業務」性の検討
これまでNHKと受託会社との間で数年以上にわたり行われてきた業務委託契約が、違法性の観点から認められる余地があるか、これら業務委託契約を許容する社会的慣習など、違法性阻却事由としての「正当な業務」性があるか検討する。
2 弁護士法72条の立法趣旨(最大判昭和46年7月14日)
弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行うことをその職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とする例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである(最大判昭和46年7月14日)。
3 違法性阻却事由の明文化
上述の国民の法律生活上の利益の保護の観点から、弁護士法72条の法律事務取扱の例外として許容される行為は、司法書士法、宅地建物取引業法、税理士法、弁理士法、行政書士法、社会保険労務士法、債権管理回収業における特別法において、厳格に要件が定められ、その全てが弁護士の関与を必要とするか、国家試験という資格の下に許容される場合に限られ、それらの各試験において厳しい法律試験科目が課されている。
つまり、弁護士法72条但し書に規定する「他の法律に別段の定めがある場合」とは、当該業務を行う法益侵害性が乏しい法律の専門家のみに認められることを例外なく条件としているのである。
4 NHK側の主張する放送法23条1項について
(1) では、これに対し、NHKはどうか。
被告の調査したところ、原告NHKは、自らが受託会社を用いて受信料代理契約及び収納業務を行う権限は、放送法23条1項(改正前放送法9条の3)を根拠に許容されると、主張していたことから検討する。
(2)ア 日本放送協会(NHK)とは、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする特殊法人である。
そして、NHKの行う業務は、放送法15条の目的を達成するため、放送法20条に定める業務を行うことと規定されており、その業務は、放送法15条の定める目的範囲に限られている。
イ 放送法23条1項は、こうした特殊法人の業務範囲の限りにおいて、協会は、①放送法第20条1項の必須業務、②第65条1項の総務大臣の要請による国際放送等の業務、③第66条1項の総務大臣の命令による放送及びその受信の進歩発展を図るために必要な業務について、協会が定める基準に従う場合に限り、その一部を委託することができると定めているのであり(放送法23条1項)、これらはその文言のとおり、すべてNHKの特殊法人として与えられた業務の範囲に限定されている。
ウ また、放送法23条1項を受け、同法23条2項は、「委託することにより、当該委託業務が効率的に行われ、かつ、第20条1項の業務等の円滑な遂行に支障が生じないようにするものでなければならない。」と規定し、委託する結果の業務の合理性、効率性を要件とする。
(3) こうした放送法の定める趣旨と法律要件から考えるに、放送法23条1項に許容される委託業務とは、あくまで①放送法20条1項の必須業務、②総務大臣の要請による国際放送等の業務、③総務大臣の命令による放送及びその受信の進歩発展を図るために必要な業務を指すものであることは明らかで、前述の厳格な法律家としての国家資格を求める他の例外法規とは明らかに異なることは言うまでもなく、また、何の資格も持たない民間会社に法律事務を委託することは、何らの業務の合理性、効率性を認めるものでもない。
一般法と特別法の観点からしても、弁護士法72条の特別法として位置づけられる司法書士法などは、その法律の規定のされ方などから厳格な要件の下に認めていることが明らかで、放送法23条1項のように「協会が定める基準に従うなど」裁量性を持たせることは、NHKに弁護士法72条の例外事由を創設する権限を与えたに等しく、法の予定するものでは決してない。
別の観点から言えば、NHKの主張は、民法99条以下において、「代理」制度が規定されていることを根拠に、一般国民や法人が、法律代理業務を行うことが許容されていると主張するに等しく、弁護士法72条の趣旨や保護法益を考慮しない、全く筋違いの主張であると言わざるを得ない。
(4) 以上のことから、NHKの主張する弁護士法72条の「その他の法律に別段の定めがある場合」として、放送法23条1項を根拠とすることは、全くの独自の見解であり、我が国において、NHKの主張を認める余地は全くない。
よって、放送法23条1項は、弁護士法72条の例外規定とは、決してなり得ない。
5 NHKの受託会社による犯罪事案(著しい法益侵害事実)
さらに、NHKが受託会社を用いて受信代理契約業務、収納業務を行わせることが、我が国において多くの人権侵害、犯罪を生み出す温床となっており、まさに、弁護士法72条の法益侵害が高く、社会的にも不相当であることを主張し、立証する。
(1) NHKの受託会社の社員による犯罪事案
NHKの受託会社による地位を濫用した犯罪事案
① 顧客情報の不正流出・窃盗罪事案
NHKが受信料の契約・収納業務を委託していた法人の社長が、共犯者と共謀して82歳の女性からキャッシュカードを窃取した窃盗の罪で、逮捕・起訴され、令和2年2月14日、名古屋地裁(岩田澄江裁判官)で懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役3年)の判決が言い渡された。
判決理由で岩田裁判官は、「報酬ほしさで実行役の誘いに応じ、高齢女性と思われる契約者の氏名や住所を伝えた。情報がなければ犯行はなし得ず、被告が果たした役割は重大だ」「契約者の信頼を裏切って個人情報を犯罪に用いており、刑事責任は重い」と指摘。
② 顧客情報の不正流出・恐喝罪事案
NHKが受信料の契約・収納業務を委託していた法人の社員で、姫路地区の約230人の住所や氏名、電話番号の個人情報を取得した男性(29)が、別の男性(56)に同情報を提供した。
56歳の男性は、NHKの職員2人を呼びつけ、不正に入手した顧客情報の書面を示し、「誠意を見せろ」、「お宅さんで買っていただけたら」などと金銭を要求し、恐喝容疑で逮捕される。
平成28年7月19日、神戸地裁姫路支部(高畑桂花裁判官)は、「個人情報を取り扱う企業の弱みに付け込んだ悪質な犯行」として、男性被告(56)に、懲役1年4月(求刑懲役2年6月)、男性被告(29)(受託会社社員)に、懲役1年(求刑懲役1年6月)の実刑判決を言い渡した。
NHKの受託会社の代理契約・収納業務下における犯罪
③ 女子寮への住居侵入の疑いのある事案
NHKの受託会社の男性社員2名が、鹿児島県内の大学の女子寮に赴き、「衛星放送の説明をしたい」と申し出たところ、寮母から「寮は男子禁制」と拒否されたが、「調査は法律で認められている」などと譲らず、寮母から明確な了解を得ないまま寮内に入り、入居学生に受信料の説明をした。
④ 集金時における傷害事案
NHKの受託会社の男性社員が、集金のため訪れた川口市内のアパートで、会社員の男性に、「帰れ」と言われ口論になった。受託会社の男性社員は、被害者の胸のあたりを殴り、顔につばを吐きかけ、被害者に5日間のけがを負わせた。
⑤ 集金時におけるわいせつ事案
NHKの受託会社の男性社員が、集金業務で訪問したマンションで、女性被害者の上半身や下半身を無理やりさわるなどのわいせつな行為をした疑いで、緊急逮捕された。
(2) NHKの受託会社やその社員らの属性が反社会的勢力化傾向にあること
ア NHKの受託会社の反社会性傾向
受託会社の役員・社員ら全てが反社会的勢力とは断言できないものの、代理契約業務や収納業務が、個人情報を取り扱う点や、個人の自宅へ訪問し、その私的領域に踏み入れる点で、これを受忍せざるを得ない人間らにとっては、不測の損害や犯罪に巻き込まれるおそれの高い業務である。
現実に、国民の多くは、NHKの集金業務に恐怖や迷惑心を抱いていることは公知の事実であり、上述のNHKの受託会社の犯罪事例は数限りなく、枚挙にいとまがない。
そして、こうしたNHKの受託会社の行為は、多くの国民から様々な違法性を指摘され、Youtubeでも数多くの動画がアップされている。
また、コンプライアンスを遵守する優良企業からは、こうした代理業務、収納業務は敬遠される傾向となり、受託業者の低俗化。反社会化傾向に歯止めが効いていないことは、上述の犯罪事案などから明らかである。
イ 代替手段の有効性や可能かつ容易性
一方で、弁護士や弁護士法人、債権回収会社は、厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきことは、前述の最高裁判例の示すとおりである。つまり、弁護士や弁護士法人、債権回収会社は、安易な個人宅への債権回収は避ける傾向にあり、その手段をとる場合は、必要やむを得ない最小限の範囲に制限される。また、個人情報の取扱いについては、厳格な規律に服し、これに違反した場合には、懲戒処分などの一般人とは加重された処罰も受ける。当然、弁護士は、違法な回収行為を行わない。
そして、何よりも、他の大手企業などはすべて、代理契約や、収納業務を第三者に行わせる場合、弁護士又は弁護士法人に委託するか、または、債権回収会社を利用しており、NHKのみが民間の会社に委託する必要性は全くない。
この点において、NHKの行っている民間委託は、代替手段を用いることが、容易かつ可能であり、直ちにこうした違法行為を是正するに何の障害もないのである。
ウ NHKが受託会社を利用して代理契約・収納業務を行う目的
では、なぜNHKのみが、自ら受信契約や収納業務を行わず、弁護士や弁護士法人、債権回収会社に委託すればよい業務を、あえて民間会社に委託するのか。
その答えは極めて単純である。
NHKは、まさに弁護士法72条の保護する日本国民の法律生活上の利益を侵害し、自らは責任を問われることなく、受託会社の責任として尻尾切りができる環境を保ちつつ、反社会的勢力同様の会社らを利用し、個人宅へ押しかけ、不正、不当な圧迫を行い、威圧的に受信代理契約の締結や、債権回収を行うことに、その目的を持つに他ならない。
これこそまさに、NHKという日本有数の巨大組織が、堂々と法の禁止する行為を犯し、国民の人権や法益を著しく侵害していることであり、我が国の政府組織は速やかに是正を促す措置を取らなければならない事象なのである。
エ 本件が法治主義の破壊につながるおそれ
これまで、以下のとおり、多くの人間らが、本件と同種・類似の事案において、弁護士法72条違反の罪により起訴され、有罪となってきた歴史があることは、公知の事実である。
改めて例示すれば、債権の取立て委任を受けてなす請求、弁済の受領、債務免除行為をなすこと、自動車損害賠償保険金の請求、受領の行為をなすこと(福岡高判昭和28年3月30日)、交通事故の相手方との示談交渉をなすこと(札幌高判昭和46年11月30日)、建物立退交渉・実現、地目の転用・変更手続等をなすこと(横浜地判昭和59年10月24日)、建物賃貸借契約の解除及び賃借人の立退交渉をなすこと(広島高決平成4年3月6日)、不動産の占有者と明渡しに関する和解交渉を行うこと(東京高判平成19年4月26日)などはすべて、刑事事件として起訴され、有罪である。
NHKという巨大組織という理由だけで、これが許される根拠はどこにもない。
我が国の法治主義を破壊するNHKによる弁護士法72条違反の犯罪について、強くNHKの違法行為を正されることを裁判所へ強く訴えたい。
以 上