「このザマだ」。
大﨑洋・吉本興業ホールディングズ代表取締役会長が共同通信記者に“唾棄(だき)”したのは6月28日。それは、無担保で少額の資金を貸し出すマイクロクレジットのグラミン銀行を創設し、ノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのムハマド・ユヌス氏と「社会事業に取り組む」、「ユヌス・よしもとソーシャルアクションJV」調印式に訪れたバンコクでの発言です。
「(社長就任翌年の2010年に会社を)非上場とし、反社会勢力の人達には出て行って貰った。関わった役員や先輩も追い出し、コンプライアンスの冊子も作って多数のタレントに年間を通じて説明した」と述べ、経営トップの自覚なき冒頭の科白(せりふ)を吐きました。
創業107年の吉本興業は、朝鮮戦争勃発前年の1949年に上場。2002年から経団連=日本経済団体連合会にも加盟する「企業」。
が、情報開示=ディスクロージャーや法令遵守=コンプライアンスの徹底が求められる上場企業を「非上場にしたからこそ、しっかりやってこれた」と答える“脳内回路”の持ち主は、「こういう時に記者会見して僕も出てとなるとフラッシュと怒号が飛び交い、本質や問題点をきちんとお答えしたり出来にくい。個別にお受けして喋る方がお答え出来る」と週刊誌、月刊誌以外の「誤送船団・記者クラブ」所属メディアから取捨選択。
一騎当千の記者を統合デジタル取材センターに擁する『毎日新聞』も、芸術選奨選考審査員を務めた大衆芸能の専門記者が、ビジネス戦略に「地域・アジア・デジタル」を掲げる吉本興業からの逆指名に応じます。何れの媒体でも大﨑閣下が達弁(たつべん)を振るっています。
曰く「頭を下げるだけで間違いの本質が伝わるとは思えない」。「業務上の問題点があるなら(引責辞任という)進退もあるが今回は業務上ではない」。
「紙で書いた契約書を超えた信頼関係、所属意識があって吉本らしさがある」。「劇場を中心とした家族的な付き合いの中で身内で契約書交わしたって意味ない」。
「会社を通さない直(ちょく・内職)をしたらダメと言ったことはない」が「闇営業って言葉は初めて知った」。「政府の省庁や公的機関と一緒に仕事をすると、芸人達の意思が変わるし、気付きも多い」「問題が表面化してからお詫びとご説明に伺ったが、国連、法務省、経産省、中小企業庁、大阪府、大阪市等も『今回の事は良くなかったけど、大丈夫です』とお言葉を頂いた」。
「社会問題を笑いの力で解決したいと考えていた時に、楽しみながら問題を解決する持続的な仕組み作りを目的とするユヌス氏と出会った」大﨑閣下は、経産省が取り仕切る血税ダダ漏れな官民ファンドのクールジャパン機構=海外需要開拓支援機構から最大122億円の出資を受け、「世界に誇れる遊びと学びのコンテンツ」を沖縄から発信する「教育事業も止める積もりはない」と語ります。
自他共に大﨑閣下の舎弟(しゃてい)を認める岡本昭彦代表取締役社長と藤原寛代表取締役副社長が都合5時間半も「ギネス世界記録」に挑戦した「冗談」のような会見映像も、実は「お笑いの総合商社」が組織の体を成していない薄ら寒い惨状を印象付けました。
経営陣買収=マネジメント・バイアウトMBOで株式上場を廃止し、放送局、広告代理店、金融機関等31社が“物言わぬ”株主に名前を連ねる吉本興業は、“利益相反(りえきそうはん)”との批判もものかは、自社とタレント契約を結ぶ大学教授を座長に起用して経営アドバイザリー委員会を設立するのです。
大阪府が管理する日本万国博覧会記念公園の指定管理者を委託料ゼロ円で10年間も請け負う一方、「いのち輝く未来社会のデザイン」を謳う2025年日本国際博覧会で“損して得取る”吉本興業。令和ニッポンの宿痾(しゅくあ)を体現しています。