各党間の信頼関係など

 石破 茂 です。
 今国会会期末まであと一週間となりましたが、緊張感もないままに日々が過ぎていくように思います。
 調査研究広報滞在費(旧・文書交通費)の使途の公開と残金の返納を義務付ける立法措置を講ずることで、5月31日に自民党・岸田総裁と維新の会・馬場代表との間で合意を見たはずなのですが、この立法措置を講ずる期限が合意文書には書かれていなかったため、自民党が「今国会中の立法は時間的に困難」(浜田国対委員長)としたのに対して、維新の会が「信用してほしいと言ったから合意文書に期限を入れなかったのに、騙された思い。嘘つき内閣だ」(馬場代表)と猛反発、総理は「早期に結論を得たいとの思いは変わらない。今後も誠心誠意対応していく」と述べられて事態の鎮静化を図ろうとしており、仮に維新の賛成が得られなくても、会期の延長のないままに政治資金規正法改正案を成立させることになるのでしょう。内容はともかくとして、せめてこの法案を成立させなければこの国会の意義そのものが問われることになります。今後維新との関係がどのようになるのか、現時点では全くわかりませんが「言った」「言わない」「誠心誠意」「嘘つき」などという、まるで子供の喧嘩のようなやり取りの光景が展開されていること自体に、国民は相当に嫌気がさしているように思われます。

 今国会では見送りとなることがほぼ確実となっている「緊急事態における衆議院議員の任期延長についての憲法改正の条文化」もそうなのですが、課題解決に向けた丁寧で充実した議論を可能とする、各党間の信頼関係が最近随分と希薄になっているように思えてなりません。与党、野党と立場は異なっても、共に国家の将来を思って国会議員になっているのですから、互いの立場を尊重して、理解と信頼を深めることは十分に可能なはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのか。違いを殊更に強調し、侮蔑的な言辞を弄してひたすら憎悪を煽るような政治的な手法は厳に慎まなければなりません。断定はできませんが、もしこれが小選挙区制の特性なのだとすれば、制度そのものをもう一度見直さなければならないのかもしれません。

 会期末が迫り、内閣不信任案の提出、解散の有無などが取り沙汰されていますが、いつも申し上げているとおり、衆議院の解散は内閣不信任案の可決や信任案の否決など、内閣と衆議院の立場の相違が明確となった場合に限り、内閣が主権者である国民の意思を問うために行われるべきものであって(憲法第69条「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」)、単に天皇の国事行為を定めたに過ぎない第7条を根拠として「今解散すれば勝てる」とばかりに衆議院を解散することは、国会を「国権の最高機関」とする憲法第41条の趣旨にも反することになるのではないでしょうか(私は政治的美称説には立っておりません)。
 すべての衆議院議員の身分を瞬時に失わせる解散権の行使は総理の権力の源泉とも言えますが、選挙に不安を抱える衆議院議員がこれに恐れおののく、という姿が、国権の最高機関の構成員の姿として正しいとは思えません。二院制を採る我が国においては参議院議員も三年に一度改選されるため、概ね二年に一度の頻度で国政選挙が行われているのが実情ですが、これでは国政が安定するのは困難でしょう。このテーマは憲法の議論の中でももっとクローズアップされるべきであり、私もより深く考えてみたいと思っております。
 かつて保利茂・衆議院議長は、衆議院の恣意的な解散を厳しく戒めた「解散権について」と題するメモを認められ、これは没後の昭和54年に公表されています。小泉総理の郵政解散の際に議論されたものの、最近はほとんど聞くことがありません。偉大な先輩の知恵を学ぶことの重要性を強く思う昨今です。

 16日日曜日は、自民党衆議院高知県第1選挙区支部の総会で南国市、17日月曜日は、自衛隊援護協力会の講演会で新潟市へ参ります。
 高知龍馬空港のある地には、かつて航空要員の養成を任務とする帝国海軍高知航空隊が所在し、戦争末期には練習機「白菊」も特攻機として用いられました。時速180キロの低速で、武装もほとんど搭載されていない同機は、護衛機も随伴しないままに沖縄特攻作戦に参加、夜間の特攻で戦果を挙げたものの、搭乗員の多くが還らぬ人となりました。
 先週末に地元鳥取市で出版祝賀会が行われた小河守氏の「平和への祈り-出征兵士と家族の記録」を読んだ時も思ったことですが、戦争は人の理性を失わせる狂気の所業であること、そして日本において数々の人命軽視の政策が遂行されたことを、我々は今一度認識し、その背景や理由を深く検証しなければなりません。

 先週より読み始めているのですが「エヴァンジェリカルズ アメリカ外交を動かすキリスト教福音主義」(マーク・R・アムスタッツ著・加藤万里子訳・橋爪大三郎解説・太田出版・2014年)は訳文もかなり難しくて、悪戦苦闘しております。大統領選挙を控えたアメリカのこれからを少しでも理解するために、何とか読了し、理解しようと思います。
 東京は梅雨入りも間近のようです。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

PR
石破茂
PR
石破しげるをフォローする
政治家ブログまとめ