青木幹雄先生ご逝去など

 石破 茂 です。 
 解散のないまま、通常国会は閉幕し、永田町にはつかの間の静寂が漂っています。
 不信任案が淡々と否決され、国民に問うべき具体的なテーマもないということであれば、総選挙で国民に審判を仰ぐことに私は賛成しません。
 政権の維持だけを考えれば、先週の金曜日6月16日に解散し、野党(特に維新)の選挙準備が整わないうちに総選挙を断行した方がよかったのではないかとの見方もありました。たしかに維新は政策的にも党の体質も自民党と近似した政党で、この党の候補者が早朝から駅頭で朝立ちし、朝から晩まで1日数百軒のあいさつ回りや数人規模の小集会開催を徹底するという、かつての中選挙区制下での自民党の選挙手法を展開すれば、2012年の政権奪還以来、追い風の選挙しか経験したことのない多くの自民党の候補者は厳しい状況となるのではないでしょうか。
 いかなる選挙制度であれ、選挙の基本はかつて田中角榮先生が仰っておられたように「歩いた家の数しか、握った手の数しか票は出ない」ということに尽きるのであり、どのような逆風下であっても勝てる体制を整えておくことが政党の基本であるべきです。
 また、37年間の議員生活の中で、細川護熙政権、鳩山由紀夫政権という二度の政権交代を経験しましたが、いずれも小沢一郎氏が仕掛けたものであり、その手腕と手法を決して侮ってはなりません。小沢一郎氏の凄さは、田中角榮先生流の選挙を知り尽くしていることに加えて、かつて「総理は軽くてパーがいい」と言い放ったと伝えられるように、総理に据える人物に決して多くを望んでいないことなのだと思っています。「総理は誰でもいい」と割り切れるのは実に恐るべきことです。今後、小沢氏は立憲民主党や維新の会などという政党の枠組みに拘らず、自民党から共産党に至るまで、幅広く政界再編を視野に入れて仕掛けてくることでしょう。これに対抗するためには、自民党は党運営も政策立案もこれ以上ない緊張感をもって臨まねばなりません。政権奪還から10年余、有権者の意識が大きく変化し、日本政治が重大な転換点にあることをひしひしと実感しています。

 24日土曜日は、自民党鳥取県連大会が開催されます(12時45分・倉吉未来中心)。
 2010年5月、下野した深い反省に基づき、自民党は新たに定めた綱領にこのように記しました。
 「勇気を持って自由闊達に真実を語り、協議し、決断する」
 「多様な組織と対話・調整し、国会を公正に運営し、政府を謙虚に機能させる」
 「全ての人に公正な政策や条件づくりに努める」
 今、自民党はこれらを忘れかけているのではないでしょうか。もう一度この原点に立ち返り、鳥取県から自民党が本来あるべき姿を発信する大会となるよう、心掛けてまいります。 

 防衛産業の今後について議論するにあたっては、今までの在り方を総括・検証する作業が必要不可欠です。国産に拘った航空自衛隊のC-2輸送機も、海上自衛隊のP-1哨戒機も、開発者の努力には敬意を払うべきですし、機体の性能についても一定の評価は出来るものの、それが本当にベストの選択であったかどうかは客観的に、感情を交えず検証されなくてはなりません。
 輸送機は出来るだけ遠くまで飛べて、多くの物資が運べるのが理想ですが、C-2は陸上自衛隊の10式戦車が積めず、不整地離着陸能力に難のある高額の機体を敢えて国産で開発・保有し、世界中で活躍するC-17輸送機の導入は見送りました。
 哨戒機は米海軍のP-8を見送り、国産のジェットエンジンを採用した4発機となりました。
 陸上自衛隊のNBC(核・生物・化学)偵察車にしても、ドイツ製のフォックス偵察車を早期に導入しておけば、東日本大震災に伴う福島原発事故の対処は随分と違ったものになったはずです。
 防衛庁長官在任中、単発エンジンの小型機体で拡張性に難があったF-2戦闘機の調達中止を決定した際、ある防衛庁長官経験者から「国産兵器に対する愛情がない!」と批判されたことがありましたが、そういう感情論めいたものが今でもあるように感じます。すべてを国産で賄えるに越したことがないのは当然ですが、安全保障環境が予断を許さないものとなり、時間的にも財政的にも余裕がなくなった現下の情勢では、常にどの装備が最も合理的か、を素早く判断し、できれば月単位で導入ができるような体制を整備することも必要だと考えます。

 元内閣官房長官・元参議院自民党会長の青木幹雄先生が逝去されました。竹下登元総理の流れを正統に受け継ぐ、真に田舎(「地方」ではなく「田舎」という表現を常に使っておられました)を愛する、人心の機微を心得た立派な方でした。あの出雲弁が聞けなくなってしまったことに、強い寂しさを感じております。ご生前に賜った幾多のご厚情に深謝し、御霊の安らかならんことを切にお祈り申し上げます。

 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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石破茂
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