石破 茂 です。
鳥取県東部における台風7号の被害に対するお見舞いを多くの方々から頂戴致しましたことに厚くお礼申し上げます。幸い、死傷者等の人的被害は今のところ報告されていないようですが(避難所で食べ物を喉に詰まらせて亡くなった高齢の女性が一名おられたのと、用瀬町で行方不明の方が一名おられます)、橋の流出、道路の崩壊、孤立集落の発生、収穫間近の二十世紀梨の落果等々の被害が発生しており、早急に対応すべく努力したいと思っております。
今回、千代川(せんだいがわ)の氾濫を防ぐため、上流のダムからの放流を早めに行う措置(事前放流)も実施されたようですが、それでも被害を完全に防ぐことは出来ませんでした。建設省出身の亡父が、昭和33年から49年までの県知事在任中に随分とダムの整備を進めていたことを記憶していますが、近年の異常気象の頻発に鑑み、今後はダムの能力向上も図っていかねばならないように思います。
近年の異常気象はおそらく温室効果ガスによる地球温暖化に起因するものと思われますが(一部に異説があることは承知しております)、この解決には時間を要し、その間の災害に対応することを考えると、防災インフラの整備だけでは不十分ではないでしょうか。中国やロシア、アメリカ等では気象制御の研究がかなり進んでいると聞いており、我が国においても研究の必要性が災害対策基本法に明記され、一部で進められているようです。先般、台風の進路を変更する研究についてご教示をいただいたことがあります。
気象制御技術は活用次第では大きな軍事的脅威にもなり得るものであり、環境改変技術敵対的使用禁止条約には我が国も批准していますが、この分野についてさらなる知見をお持ちの方は是非お知らせくださいませ。
数日のお休みの間、何冊か本は読んでみたものの、あまり目覚ましい成果が上がらなかったのは偏に怠惰と能力不足によるもので、深く反省しております。
「課題図書」ではありませんでしたが、書棚の中から見つけた「山口多聞 空母飛龍に殉じた果断の提督」(星亮一著・PHP文庫・1998年)は示唆に富むもので、大変感銘深く読みました。本書の中で出てくる日米開戦直前の山口多聞と山本五十六との対話の場面は極めて印象的です。
「負ける戦を何故やるのですか、司令長官、やめることは出来ないのですか」
「外交はもはや無力だ。皆逃げておる」
「そこを何とか」
「それを言うな。君の命は預かるぞ。軍人は国家の命令には従わねばならぬ。仮に俺が止めても次が選ばれ、戦争に突入しよう。まだしも俺の方が、戦争を早く終結させることが出来るかもしれぬ。君は親父が島根だから分らぬだろうが、結局、明治という国のゆがみが一気に噴き出たんだ。無理に戦争を起こして、長岡や会津に攻め入り、略奪の限りを尽くした。そうして出来上がった明治国家が暴走したんだ。人の苦しみがわからない、そういう国を作ったんだ。俺は蔣介石の気持ちがよくわかる。その明治国家の後始末を、長岡の俺とか、仙台の井上(成美)とか、米沢の南雲(忠一)がやらされるんだ。盛岡の米内さんはつぶれてしまったがな」
山本の眼に涙が光った。御前会議で開戦が決まったのだ。もはや火の玉となって真珠湾の攻撃に向かうしかない。
「長官、やらせていただきます」
山口は頭を下げた。
小説ですから実際にこのようなやり取りがあったかどうかも定かではありませんが、開戦に至るまでの苦悩は察するに余りあるものがあります。随分の昔に読んだ阿川弘之の「山本五十六」「米内光政」「井上成美」の三部作をもう一度読み返してみたいと強く思ったことでした。
また、これも「課題図書」外なのですが、お休み中に久しぶりに読み返した三島由紀夫の「午後の曳航」(新潮文庫)には、改めて強烈な衝撃を受けました。独創的なストーリーと絢爛豪華な文体は全く余人の追随を許すものではなく、本当の天才は、やはり三島だけだったのではないかと強く思います。
残暑厳しき折、皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。