石破 茂 です。
アメリカの次期大統領はバイデン氏で確定と考えて良いようですが、トランプ大統領が敗北を認めていないため、政権移行手続きが順調に進んでいないことは気掛かりです。トランプ支持者はバイデン政権発足後も、なんらかの活動を活発化させるのかもしれませんし、バイデン氏がそれに配慮すれば民主党支持者が収まらないかもしれない。そう考えると、バイデン政権の前途はしばらくは多難と言わざるを得ません。
アメリカは1861年の南北戦争に見られるように、大陸から信仰の自由を求めて入植した清教徒やクエーカー教徒などの多い北部と、土地が肥沃で、英国王の承認のもとに入植した貴族やその関係者の多い南部とは、州(STATE。日本の都道府県よりも、むしろ「国」に近い概念)の成り立ちや文化・風土がまったく異なっており、もともと多様な価値観を包含しなければ成り立ちえない国だと思います。ここ数日、必要があってグレアム・アリソン(ハーバード大学ケネディ行政大学院初代院長)の「米中開戦前夜」(ダイヤモンド社刊・2017年)を読み返しているのですが、その中で紹介されているシンガポール初代リー・クアンユー首相の中国評は実に印象的です。
「中国のとどまるところを知らない野心は、過去の栄光を取り戻すという断固たる決意に突き動かされている」「彼らがアジアで、世界でナンバーワンを目指さないわけがない」「ここ数世紀の西洋の台頭は、長い歴史の中で、中国の軍事的・技術的な遅れにより一時的に生じた例外に過ぎないと彼らは考えている」
最も優れたチャイナ・ウオッチャーの一人で、習近平氏をもよく知る同首相の言葉には強い説得力があります。
アリソンはこの本の中で、過去500年、台頭する新興国と覇権国との16件の対立のうち、戦争を避けられたのは僅か4件だけであったと指摘しており、米中がその例外である確証はないと論じています。
朝鮮半島情勢や台湾海峡情勢を一つの契機として、米中が全面戦争あるいは局地紛争に突入しないために、日本は何を為すべきなのか。
かつて日清戦争後、清から割譲を受けた台湾も、日露戦争後に併合した朝鮮半島も、日本はその今日に大きな責任を負っているはずであり、安全保障が他律的であってよいはずがありません。尖閣海域におけるグレーゾーン事態に対応する法制の整備や、日朝間に正式な交渉ルートを開設することなど、喫緊に為すべきことは多くあるはずです。19日木曜日に衆議院憲法審査会が開かれ、自由討議における発言の機会を得ましたので、大意次のようなことを申し述べました。
「既に論点が出尽くした国民投票法の改正案は早急に成立させるべきであるが、コマーシャル規制について、資金量の多寡によって差が生じないようにする措置や、情緒的に偏ったり本質を看過したりといったコマーシャルに対する規制は行われるべきである」
「改正すべき条文は、多くの党の賛成が得られ、衆参の総議員の三分の二の賛成が得られやすいものを優先すべきである。例えば、『一定の議員の要求があった場合の臨時国会の開催を20日以内とする』といったことに反対の党があるとは思われない」
「この憲法審査会は週一回、数時間かけて開催されるべきであり、出来れば地方においても開催されることが望ましい」
特に二点目については、憲法改正自体とどう向き合うかを考える上でも有益な提案ではないかと思っております。週末は三連休となりますが、安全保障関係の日韓Web会議、ラジオ番組出演、秋田での自民党の諸会合への出席などを予定しております。
今週の都心は暖かな日が続きました。皆様、新型コロナウイルスの感染拡大にお気をつけて、ご健勝にてお過ごしください。