リスクの相対化、リスク・コミュニケーションの強化など

 石破 茂 です。
 「高齢者に宛てたワクチン接種券」が先日、住民票のある鳥取市役所から届きました。来年3月までに65歳となる者に送付されたため、いまだその年齢には達していない私も対象となったものですが、開封してみると接種券本体の他に予診票や諸案内など計7種類の書類が入っており、市役所の事務作業はさぞ膨大かつ煩雑だっただろうと思うとともに、80代や90代の一人暮らしの高齢者の方々の身になってみると、この内容を理解するのは相当に難儀なのではないかと思いました。
 公平性と正確性の確保が行政の本質ですが、居住地近隣の「かかりつけ医」から接種を受けられる機会をさらに拡大することが今後一層求められます。

 いくつかの自治体で、町長や教育長などの地方行政の責任者が優先的にワクチン接種を受けていたことが報道され、問題となっています。「地位を利用した優先摂取など許し難い!」との批判は十分に理解できますし、自分たちだけが助かろうという動機であればそれはその通りです。他方、休日返上・不眠不休で地元住民へのワクチン接種計画に取り組んでいる行政の責任者が新型コロナに罹患して行政が停滞するようなことがあれば、これも地域の大きな損失となりえます。また、余ってしまったワクチンを無駄にしない、という観点もあり、実はとても難しい問題なのだと思います。
 リスクの相対化とリスク・コミュニケーションの強化は、コロナ禍を機に日本に与えられた大きな課題ですが、これは何も今に始まったことではなく、私が農水大臣在任中にBSEの全頭検査を継続するか否かを検討した時も同じ構図でした。
 国民全体を分母として計算した最悪の発症リスクは0.9人とかなりゼロに近く、実際に発症した人も全くいなかったのですが、全頭検査をやめれば国民の不安が再燃しかねないという判断から、これを継続することになったように記憶しています。科学的にリスクはゼロに近いと判明しても、あの牛がよろめいて倒れる英国の映像が与えた印象があまりに強烈であったために、国民の不安感は払拭されることがなく、「安全」よりも「安心」を確保するために多大のコストを払うこととなりました。
 結局は国民がどれほど政府、およびその発信する情報を信頼することができるかに尽きるのですが、これこそ一朝一夕にできることではありません。この観点からも、新型コロナと原発処理水への対応は本当に難しいと思います。
 
 専門家会議の意見を受けて緊急事態宣言の対象に北海道、岡山、広島が追加されたとのことですが、前回記したように、同会議は単なるお墨付き機関や追認機関ではないのですから、本来あるべき姿が体現されたものであって、決して批判の対象とすべきものではありません。野党が「朝令暮改ならぬ暮令朝改だ」などと批判するのは的外れです。
 立憲民主党の枝野代表は「今国会で内閣不信任案が野党から出されたら衆議院を解散すると明言されている以上、コロナ拡大の現状から考えて提出は出来ない」と述べたとも伝えられていますが、いつでも解散を受けて立つとの構えを野党が持たなくてどうするのでしょうか。自民党の野党時代には、「たとえどのように批判されても、不信任案を提出して解散総選挙に追い込むのが野党の務めだ」と先輩から教わったものですが、そのような気迫が野党に全く感じられないのは今の日本政治の大きな不幸です。

 今朝、私が代表世話人を務める超党派の「海洋基本法戦略研究会」が2018年7月以来、3年振りに開催されました。
 次回の海洋基本計画改定が2023年春であることを踏まえ、今から議論を再開しておかねばならないとの思いによるものであり、カーボンニュートラルの実現に向けた洋上風力発電や船舶の新たな動力源の開発、気象変動に起因すると思われる災害の状態化と大規模化への対応、中国の急速な海洋進出への国際的な対処など課題は山積しており、これらに真摯に取り組まねばなりません。

 入学シーズンで、いくつかの大学のサークルの新入生歓迎講演会の講師をオンラインで務めたのですが、質疑応答での質問を聞いていると、最近の大学生のレベルは確実に上がっていることを実感します。今の若い世代を「夢がない、欲がない、やる気がない」の「3Y世代」と揶揄・酷評する向きもありますが、彼ら・彼女らにどう向き合うのかが問われているのはむしろ、我々大人の世代なのだと思います。私も偉そうに言えた義理では決してありませんが、今の世界が抱える課題、学生時代に読んでおくべき本など、私自身の失敗や反省を糧として、可能な限り伝えたいと願っています。
 来週はもう5月も後半に入ります。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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石破茂
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