石破 茂 です。
7日火曜日に「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)が閣議決定されました。私は健康飲料の商品名のような「骨太」という表現には今でもあまり馴染めないのですが、それはさておき、前回も触れたように、ここ10年近くの経済財政運営の総括がほとんど行われないまま、「新しい資本主義」という現政権の方針が示されていることには、違和感を禁じ得ません。
検証や総括がなされていないのは外交・安全保障政策でも同様で、ウクライナ事変への対応もその一例です。ここ10年近くの対露外交の総括もなされず、いきなり防衛費の大幅増額ありき、のような議論が出てくる構図は、似たようなものだと思います。
平和安全法制の制定にあたって、結局「安全保障基本法」的なものをかませることをせず、集団的自衛権行使について従来通り憲法の解釈と直接結びつけ、国際法上認められている権利よりも狭い解釈にしてしまったために、「アメリカだけが唯一の同盟国」という状況は未だに改善できず、アジア太平洋版NATOのようなシステムの創設は望むべくもありません。
防衛費も、「まず増やしましょう」では何が必要なのかまるで分かりません。「いかなる事態に備えるか」「統合運用による作戦行動をどのように想定するか」「そのためにどのような装備が必要か」「弾薬・整備・人員・訓練予算はどれくらいか」「必要総額はどれくらいか」を、現状の検証と総括を徹底的に行った上で、財源と共に示さなくては、国民・納税者に対して誠実とは言えません。
ドイツ政府が国防費をGDP比2%にするために示した予算案においては、2022年から1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を設立し、その財源を新規借り入れによって賄うこと、その償還方法について別途法律で定めることが明記されています。また、国防費を毎年50億クローネ(約550億円)増額することを決定したスウェーデン政府は、その財源としてたばこ税と酒税の引き上げ、大規模金融機関の銀行税の導入を発表しています。
運用(オペレーション、作戦)は陸・海・空(プラス宇宙・サイバー)統合で行われるべきものであり、そうであれば当然、防衛力整備も統合で行われなくてはならないのですが、現在の統合幕僚監部にはそのような部署も機能もなく、結局、陸・海・空の要求をホチキスで止めるような予算になってしまいます。
このような現状を放置しながら、防衛費の増額ありきの議論を行うべきではありません。兵器に命を託す自衛官のためにも、大きな防衛構想を精緻に丁寧に一つ一つの装備や予算へ落とし込むことが必要であり、これを「小役人的発想」と決めつけるべきではありません。
優秀な二人のパイロットの命が失われた小松基地の飛行教導群所属のF-15戦闘機の事故原因について、調査結果が発表されました。「パイロット二人が同時に空間識失調に陥ったため」との結論ですが、2019年にも三沢基地所属のF-35が同じ原因で墜落しており、その後どのような対策が講じられたのか、米空軍機に搭載されている自動地面衝突回避システムの導入計画はどうなっているのか、について検証を依頼しています。
防衛庁長官在任中、4発の国産ジェットエンジンを搭載する新型哨戒機の導入に、私は終始消極的でした。「エンジンが双発だと1発が停止すればもう飛べなくなるが、4発なら2発が停止してもなお飛べる」というよくわからない理屈を展開されたのですが、それはエンジンの信頼性の問題であり、新開発の国産エンジンの信頼性が米国製のそれよりも高いという証左や実績は何処にもありませんでした。これを将来は旅客機として世界に売り込むのだ、などという荒唐無稽な主張もありましたが、旅客機が米国東海岸まで双発で飛ぶ時代にわざわざメンテナンスにコストや時間のかかる4発の旅客機を導入する酔狂な航空会社があるとは全く考えられないことでした。しかし、制服組にも内局にも財務省にも、表立って私を応援してくれる人はほとんどなく(わずかに秘書官室の人々が尽力してくれました)、多勢に無勢で結局P-1の開発が決定しました。
現在も生産中ですが、この高価な哨戒機の稼働率は極めて低く、P-3Cを最大限運用することで何とかミッションをこなしている状態と報道されています。
同じく在任中に、単発エンジンで兵器搭載・電子機器換装の拡張性に乏しいF-2戦闘機の中止を決定した際にも、「平成の零戦とも言われる国産戦闘機の製造をやめるなど愛国心に欠ける」という非難を浴びましたが、兵器の開発や配備は掴みどころのない「愛国心」で進めるべきものではありません。共同研究・開発・生産・運用という世界の潮流に可能な限り乗って、その中において我が国独自の優れた技術力を発揮し、パーゲニングパワーを保持すべきものであり、この点においてスウェーデンには学ぶべき点が多いと思っています。
ウクライナ事変において、戦車の有用性が議論されていますが、戦車は単体で行動するのではなく、随伴する車両や普通科隊員(いわゆる歩兵)が確保されなくてはなりませんし、移動性に乏しい戦車を輸送するトレーラーもそれなりの台数が必要です。また彼我の戦い方の違い(単純化すれば大陸の国境と島国の海洋国境の違い)も大きく、ただ「戦車と携行型対戦車兵器(ジャベリンなど)とのコストパフォーマンスの比較」などで論じられるものではありません。
このような議論は「兵器マニア的」として敬遠されがちですが、その意識自体が間違っていると思います。本来は細部にわたるまで、国会議員と制服自衛官が国会において議論すべきことであり、それが本来の文民統制に適うものです。「日本は平和主義だから制服組は国会に来てはいけない、発言してはいけない」という誤った考えは、早急に正されなくてはなりません。
昨日、内閣と衆議院議長に対する不信任案が否決され、国会は最終盤となりました。あまり闊達な議論が盛り上がらなかったことを残念に思います。
また、宮城県岩沼市長選挙は、自民党・公明党推薦の村上智之前県議が落選するという意外な結果となり、これもとても残念なことでした。好漢の捲土重来を祈るばかりです。
本日10日金曜日は「プライムニュース」出演(BSフジ・午後8時~)。
11日土曜日は自民党鳥取県連・青年局全国一斉街頭演説会(午前9時・米子コンベンションセンター前)、赤澤亮正衆議院議員国政報告会(午前10時・米子コンベンションセンター)、石破後援会女性部・青年部主催「どうする日本2022」(午後1時半~・倉吉未来中心小ホール・倉吉市駄経寺町、午後4時半~・とりぎん文化会館梨花ホール・鳥取市尚徳町)。
12日日曜日は自民党鳥取県連・東部地区支部長・幹事長会議(午前9時半・白兎会館・鳥取市末広温泉町)、自民党鳥取県連・青年部・青年局・女性局合同大会(午前11時~・倉吉シティホテル)、上杉栄一鳥取市議会議員・市政報告会(午後1時半~・白兎会館)、という日程です。
東京は6日月曜日に、平年より1日、昨年より8日早く梅雨入りしました。参院選挙の投開票日と言われている7月10日頃には梅雨も明けているのかもしれませんね。天候不順の折、皆様どうかご健勝にてお過ごしくださいませ。