北朝鮮による衛星打ち上げなど

 石破 茂 です。
 先月31日の北朝鮮の一連の行動については、偵察衛星の打ち上げに失敗したと見るべきであり、当初の「衛星と称する弾道ミサイル」との表現にはいささか違和感を覚えました。北朝鮮の弾道ミサイル技術は既に相当の水準に達しており、「何時でも、どこからでも、何発でも撃てる」状態になっているものと思われます。であれば、今更大々的に予告して弾道ミサイルを発射する必然性は乏しく、在日米軍や米第七艦隊空母打撃群の動向を把握する偵察衛星実用化の初歩的段階に入ったと見るのが妥当と思います。その後、メディアの表現ぶりは「弾道ミサイルの技術を用いた衛星」と修正されたようですが、ミサイルと偵察衛星とは全く異なる脅威なのですから、混同させるような表現は慎むべきです。防衛大臣から破壊命令が発出されたため、弾道ミサイルが落下するように感じた方も多かったようですが、それは実態とは異なるものだったと思います。国民がこのような事態に慣れてしまい、危機感が希薄になることを危惧しています。

 ミサイルとロケットの原理は基本的に同じものですが、ミサイルとは異なり、重量のある衛星を地球の周回軌道に乗せるには第一宇宙速度(時速約28800㎞)に到達させることが必要で、そのためには地球の自転速度(時速約1500㎞)を最大限に利用できる真東に打ち上げるのが常套ですが、今回は何故南方向に打ったのでしょう。よくわからない点が多くあります。
 今から25年以上も前、日本が独自の偵察衛星の打ち上げを計画した際、アメリカから「わざわざ日本が初歩的な三輪車のような技術から始めなくても、自動車ほどの技術のあるアメリカの衛星の情報を使えばよい、日本が偵察衛星を持つ必要はない」と言われたことをよく覚えています。我々はアメリカからの情報にすべてを依存するべきではないと考え、当時の政権の判断と技術者たちの大変な努力によって情報収集衛星を保有するに至りました。それでも今日なお、ミサイル防衛システムに不可欠な静止軌道上の早期警戒衛星は保有しておらず、アメリカ頼みの状況が続いています。法的にも技術的にも問題はないはずで、保有に向けて本格的な検討を開始すべきものと思います。同盟国であるアメリカを信頼することは重要ですが、情報の収集・分析や防衛システムの自己完結性は可能な限り追求すべきものです。

 広島サミットは概ね成功裏に終わりました。他方、広島・長崎への原子爆弾の投下、東京をはじめとする諸都市に対する無差別爆撃・大量殺戮を国際法上どのように考えるかという課題は依然として残されたままです。1907年のハーグ陸戦法規第23条には禁止事項が列挙してありますが、無差別爆撃や大量殺戮がこれに該当するのかどうかについて大きな議論がありました。その後、こういった行為を禁止する条約ができましたが、我が国としての研究の必要があるものと思います。

 自民党と公明党の協力関係の変化について、連立政権とは、単に権力の獲得・維持が目的ではありません。政策や政治姿勢、支持層が異なるからこそ違う政党なのであり、その一致点がどこにあり、何を目指して連立するのかを常に明確にせねばならず、そうでなければ単なる野合との批判を浴びることになります。
 私の地元において、公明党の主な支持団体である創価学会の会員さんが、政治を評するにあたり、「政教分離は当然の前提だが、自分の信仰の理念や信条を判断の基礎として正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると考えるのだ」と述べておられたことをよく覚えています。政党にとって支持層の意向は重要であり、今回の問題を単なる打算や利害得失のみによるものと捉えると、大きな誤りを犯してしまうのではないでしょうか。与党間のみならず、政党間にあって、互いがリスペクトの念を持つことは重要です。憎悪と分断をあえて煽るような政治があってはなりません。報道にもそのような傾向が散見されますが、皮相的で安直な見方は慎むべきです。

 昨日、超党派の議員による「石橋湛山研究会」が発足し、湛山の経済論評の英訳を進めておられるアメリカ人実業家・リチャード・ダイク氏の記念講演を拝聴しました。同氏は毎朝5時から8時までを湛山の論評を読むことに費やすと言っておられ、全集を揃えながらほとんど読んでいない自分を大いに恥じたことでした。石橋内閣はわずか65日の短命政権でしたが、保坂正康氏は石橋政権を「最短の在任、最大の業績」と評しておられます(「石橋湛山の65日」東洋経済新報社刊・2021年)。日米・日露・日中関係が新たな局面を迎え、政党政治や民主主義が問い直されている今、「保守主義の本質は思想ではなく寛容である」と説き、「小日本主義」を唱えた気骨のリベラリスト、石橋湛山に学ぶべきことは多いと思います。

 総理大臣公邸における「身内の忘年会」について批判がありますが、この上ない激務に追われる総理が公邸で気のおけないご家族と少しでも団らんできる時間をつくること自体はむしろ必要なことです。セキュリティの確保を前提として、総理大臣が心身ともに良好なコンディションで活動できる環境を整えることは国益に資するものと考えます。
 議員宿舎に住まう我々も含め、留意しなければならないのは、納税者の税金で運営されている場所に居住する以上、納税者に疑念や不快な思いを抱かせることがないようにすることです。
 むしろ問題は、このような身内のみのはずの画像が外部に流出した事実にこそあります。誰がどのようにしてこれを週刊誌に流したのかは知る由もありませんが、その経緯は危機管理の意識の観点からよく検証されなくてはなりません。

 101年の歴史を持つ「週刊朝日」が6月9日号をもって休刊(事実上の廃刊?)となりました。私が育った鳥取の家では何故か週刊朝日を定期購読しており、同じく定期購読していた月刊誌「文藝春秋」「諸君!」「正論」などと併読しながら、世の中には様々な見方があると思ったものでした。週刊読売、サンデー毎日、週刊サンケイと、かつて新聞社はすべて週刊誌を発行していたのですが、残るはサンデー毎日だけになってしまいました。数々の思い出のある週刊朝日の休刊を惜しむとともに、活字文化がこれ以上衰退しないことを切に願います。

 都心は台風の接近で、荒れ模様の週末となりました。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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