「VERDAD」連載「田中康夫の新ニッポン論」Vol.101 「ユナイテッド・インディヴィジュアルズ」

1991年の湾岸戦争勃発直後に開催された「文学者の討論集会」。
責任の所在が曖昧な「我々」で始まる「声明」の主語は「私」にすべきと中上健次さんらと主張し、
主語が異なる2つの「声明」の何れかに参会者は賛同する事となった逸話。
2015年『シャルリ・エブド』編集部襲撃事件を受けて浅田彰氏と「憂国呆談」で、「話しても判り合えない存在だからこそ会話する価値が恋愛でも家庭でも職場でも生まれる」と語り合った対談。
更には『サンデー毎日』で亀井静香氏と共に石原慎太郎氏を語った記事へのリンクも置いた
「田中康夫の新ニッポン論」Vol.101。

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「一橋大学の先輩で作家の東京都知事に関して一言」。信州・長野県知事就任7ヶ月後の2001年5月21日、当時は有楽町にあった日本外国特派員協会で2時間半と最長記録の会見を行った際、質問されました。

「あの人はCoward=カワードだと思います」。理由を聞かれ、僕は続けます。「飽く迄も譬え話(たとえばなし)。彼はホテルのラウンジで葉巻を吸おうとした。従業員がライターを点火するとボーッと高く火が上がる。『君、失敬だな』と彼は激昂(げきこう)。火傷した訳でも無いのに。そういう臆病な方だと」。

星霜(せいそう)を経て諷刺新聞『シャルリ・エブド』掲載の預言者ムハンマド風刺画に脊髄反射したイスラム過激派が2015年初頭、編集部襲撃。すると国連加盟135ヶ国(現在138ヶ国)が国家承認のパレスチナ自治政府をイスラエルが無差別空爆時は、非承認国を理由に具体的手立てを放棄した英仏独伊等の指導者は、仏大統領が呼び掛けたパリ追悼「抗議」行進に参加。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、パレスチナのマフムード・アッバス議長も隊列で、「敵はテロリスト。イスラム教徒に非ず」と唱和。

便所の落書き以下と唾棄(だき)していた筈の為政者が同紙を「権威」として祭り上げる違和感を、編集会議に遅刻して難を逃れた諷刺漫画家が述懐しています。

「上下左右(イデオロギー)」を問わず、大きな声で「正義」を語る向きは往々にして「偽善」を身に纏(まと)っている。“おしゃまな男の子”の僕が10代半ばから“体感”の公理。以下は、1989年=平成元年から30年以上続く浅田彰氏との『憂国呆談』に於ける事件直後の僕の発言。

「話しても完璧には判り合えない存在だからこそ会話する価値が恋愛でも家庭でも職場でも生まれるように、それこそが政治や外交の要諦(ようてい)。なのに最近は洋の東西を問わず問答無用の思考停止状態な指導者が持(も)て囃(はや)される。それと同じ単純思考のベクトル上に移民排斥運動が増えてきている」。

半世紀に亘(わた)ってマサチューセッツ工科大学で教鞭を執ったユダヤ系DNAの言語哲学者ノーム・チョムスキーは「9・11」直後、警句を発しています。「テロとは米国に対する他者の行為であって、どんなに残虐な行為を米国が他者に行っても、それはテロではなく、防衛やテロ防止と呼ばれる」。

「西洋植民地主義」の辛酸(しんさん)を舐めたキリスト教徒のパレスチナ人としてエルサレムで生を受け、レバノンで育った文学批評家エドワード・サイードは1978年、「オリエンタリズム」こそは欧米の帝国主義的な野心を隠匿(いんとく)する惹句(じゃっく)に過ぎぬと看破(かんぱ)。その彼の至言が「Jewish Non-Jew, Non-Jewish Jew」。

カール・マルクスもジークムント・フロイトもアルバート・アインシュタインも定住するべき場所を持ち得ぬユダヤ人たればこそ、「肉体はジューイッシュなれど、精神はノン・ジュー」な世界市民として自らの頭脳を人類の幸福の為に提供する気概の持ち主でした。

昨今はユダヤ人のみならず欧米人も日本人も中国人も、私は国籍を超えたノン・ジューイッシュな肉体の世界市民と嘯(うそぶ)きながら、精神は利己的な私欲=ジューの塊と堕(だ)してはいまいか、と。

湾岸戦争「正義」勃発の1991年2月21日に六本木の国際文化会館で開催の「文学者の討論集会」。

「われわれは、日本が湾岸戦争および今後ありうべき一切の戦争に加担することに反対する。」で締め括る「声明」の「我々」を「私」とすべき。中上健次氏を始め幾人かが申し立て、主語が異なる2つの「声明」の何れかに参会者は賛同する事となります。

真っ当な「百家争鳴(ひゃっかそうめい)」を生業(なりわい)とすべき厄介な存在(ものかき)は、であればこそ「加担しない」という一点に於いて、ユナイテッド・インディヴィジュアルズとして、自縄自縛(じじょうじばく)な「連帯を求めて孤立を恐れず」を超え、「自律に根ざし連携を拒まず」を希求したのです。

「サンデー毎日」2022年2月27日号
「日本凄いぞ」論の残影 石原慎太郎が「戦後」を乱反射する
亀井静香・田中康夫インタヴュー

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「憂国呆談」「ソトコト」2015年3月号
パリのテロ襲撃事件から、「イスラム国」の存在、話題作『21世紀の資本』、戦後70年の節目まで。
https://tanakayasuo.me/archives/13778
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「サンデー毎日」連載「ささやかだけど、たしかなこと。」Vol.7サイードの至言、ド・ビルパンの諫言 パリ同時テロというプロパガンダ
https://tanakayasuo.me/archives/15733
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「田中康夫の新ニッポン論」Vol.31「ボーダーレス・ボーダーフル」
https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2015/11/d384d0e03c6ac990a7b2fdccd752861e.pdf
https://tanakayasuo.me/archives/15733

これまでの小生の発言をサルベージして下さる田中康夫(ヤッシー・康夫ちゃん)bot
https://twitter.com/bot_trane

「田中康夫の新ニッポン論」Vol.100「全体の奉仕者」
https://tanakayasuo.me/archives/31610
「田中康夫の新ニッポン論」Vol.99「『官』対『民』」
https://tanakayasuo.me/archives/31218
「田中康夫の新ニッポン論」Vol.95「消費者資本主義」
https://tanakayasuo.me/archives/29037
「田中康夫の新ニッポン論」バックナンバー
https://tanakayasuo.me/archives/category/verdad

「憂国呆談」「ソトコト」2022年3月号
https://tanakayasuo.me/archives/31663
「アメリカの正義」が「世界の正義」ではなくなってきている。
後手後手で駄目駄目な対応が続く諸悪の根源が「カメレオン尾身茂と愉快な仲間たち」なのは明らかだ。
オミクロン株の出現から、自由のない皇室、北京五輪の開催から、中国との外交問題まで。
浅田彰と田中康夫の「憂国呆談」バックナンバー
https://tanakayasuo.me/archives/category/sotokoto


過去のお宝「憂国呆談」
2016年1月号 五島美術館「一休」展から、シリアの難民問題、日中韓の首脳会談、もんじゅの行く末まで。
https://tanakayasuo.me/archives/15812
https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2015/12/b24e99052c682885882e19229d953747.pdf

2015年5月号 ウィリアム王子の来日から、曾野綾子の人種差別発言、福島原発の汚染水流出、日本人のナルシシズムまで。
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2014年12月号 ディスカバー・ジャパンから、勢いを増すイスラム国、スコットランドの独立騒動、香港の学生デモまで!
http://www.nippon-dream.com/?p=12895
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