政治改革と「政治とカネ」など

 石破 茂 です。
 自民党の政策集団(派閥)のパーティ券売り上げ収入の処理について、「政治資金集めに名を借りた裏金作りではないか」との批判が高まり、岸田自民党総裁は各派閥に対して実態を調べるように指示し、自身も派閥を離脱することを表明したとのことです。
 「カネのかからない政治」と言うのは綺麗事で、民主主義を維持するには当然それなりのコストがかかります。スタッフ(私設秘書)の給与、選挙区内に複数ある事務所の家賃、水道光熱費、有権者に対する事務連絡や活動内容を知らせるための郵便代や電話代、数台ある車の維持費、集会を開催するための諸経費等々は、国から支出される文書通信費や政党助成金だけで賄えるものではありません。本社が地元にあり、東京支店が一か所、地方の支店が数か所あって、従業員が十数人の小企業をイメージすればわかりやすいのではないでしょうか。不足分は企業・団体から頂く浄財やパーティ収入、更には政治家個人の支出で補わなければ、やってはいけません。

 リクルート事件を契機として自民党批判が高まり、政治不信の嵐が吹き荒れた1988(昭和63)年9月に、当時の当選一回生10名で、武村正義代議士を座長として結成した「ユートピア政治研究会」では、それぞれが選挙区でいくら使っているのかを調べ、平均が1億円弱という金額に改めて愕然としたところから始まりました。侃々諤々の議論の末、党内同士討ちでカネのかかる中選挙区制度を小選挙区制に改めるとともに、定数是正、選挙の公営化、資産やパーティ収支の公開を柱とする「政治改革の提言」を取り纏めて、同年12月に安倍晋太郎幹事長をはじめとする当時の自民党執行部に提出したのでした。
 あれから35年、選挙制度の改革など提言のいくつかは実現したものの、再び「政治とカネ」の問題が噴出し、政治不信が高まりつつあるのには、強い既視感に近いものを覚えます。「ユートピア政治研究会」という願望を込めた名称は逆説的な意味で名付けたのですが、やはり「ユートピア」は存在しなかったということでしょうか。

 岸田総裁は自身の派閥離脱、派閥の資金パーティ・忘年会・新年会などの開催自粛などを打ち出されましたが、残念ながら問題の本質的はそこにはないように思います。総裁が派閥を離脱するのなら、党の四役をはじめとする主要役員全てがそうしなければ意味がありませんし、パーティそのものが悪いのではなく(利益率が90%などというのは対価性の観点からいかがなものかと思いますが)、その収支の明確性の確保こそが求められているのです。ゆえに、「検察の捜査の支障になってはいけないのでお話し出来ない」という理由は納得感を得られるとは思えません。当選回数が少ないなどの理由で資金力に乏しい議員は派閥からの資金援助に多くを依存していると思われますが、彼らは今後どうなるのか、閣僚は在任中大規模なパーティは開催しないとの大臣規範は形骸化していないのか、など問題は多々あります。

 30年前に我々が目指したのは、「カネのかからない政治」ではなく、「カネに左右されない政治」(国民有権者の声よりカネを出してくれる企業や個人の言うことを聞くような政治にしないこと)と「世襲、官僚、資産家、タレントでなくとも意欲と能力のある人が政治家になれる制度」の実現でした。
 私は政策集団としての派閥を否定する者では全くありません。一般の企業であれ、新聞社やテレビ局などのメディア、官庁、大学であれ、あらゆる組織には必ず派閥が存在しますし、人が三人いれば必ず派閥は出来るのです。ですが自民党の場合には、「領袖を総理総裁にする」「よりよい政策を作るため研究する」「選挙で互いに助け合い、グループ全員の当選を目指す」という明確な目的があるべきだと思います。
 かつての「三角大福中」時代はまさしくその通りで、私が事務局に籍を置いていた田中派(木曜クラブ)はその典型でした。派閥と全く同じメンバーで「新総合政策研究会」という政策勉強会を定期的に開催し、私はその事務方も務めました。講演や質疑応答を当時のワードプロセッサーで文字化したのは、とても勉強になりました。これらの要素を欠いてしまえば、派閥は単なる資金とポストの配分機構になってしまいます。カネを配り、所属議員を大臣などの政府の役職や党役、政務調査会の役職に就けることだけが政治力なのではありませんが、その意味であるべき派閥の姿を目指した水月会の試みが挫折したのは、多分に私の能力不足によるものではなかったかと反省しております。
 本日の予算委員会のみで国民の疑念が払拭されるはずがありません。事実の解明を検察の手に委ねるのではなく、自民党から積極的に明らかにすることによって、初めて国民の信頼を繋ぎ止めることが出来るのだと思っています。

 今週、今国会最後の衆議院憲法審査会が開催され、自民党においても憲法改正実現本部の総会が岸田総裁の出席のもとに開かれました。「憲法改正に向けた機運が盛り上がりつつある」との党の見解が示されましたが、果たして本当にそうなのでしょうか。衆議院の討議では、有事や大災害などの緊急事態の際に衆議院が解散されて不存在の場合、参議院の緊急集会だけでは二院制である国会の本来の機能が果たせないので、衆議院議員の任期が延長できるような憲法改正を行うべきとの議論が行われていますが、自民党内でも衆議院と参議院の見解に齟齬があるような状態で本当に岸田総裁の任期中に発議まで漕ぎつけられるのか、相当に困難なように思われます。諸外国にほとんど例を見ない参議院の緊急集会の持つ意味をもう一度よく勉強してみなくてはなりません。

 いずれにせよ、臨時国会は来週水曜日に閉会となります。来週は相当な荒れ模様も予想されますが、冷静さを失うことなく、努めてまいりたいと思います。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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