ローカル鉄道の今後など

 石破 茂 です。
 地方のローカル鉄道の今後の在り方について、国交省の検討会が7月に提言を取りまとめたこともあって、各地で議論を呼んでいます。「鉄オタ」と見られていることもあって(実際は単なる「乗り鉄・呑み鉄」なのですが)、最近講演やテレビ出演の際にこのテーマでの話を求められる機会が増えています。検討会の有識者の先生方は、政府の立場もあって難しい議論をしておられますが、私には日本総研主席研究員の藻谷浩介氏と、関西大学教授の宇都宮浄人先生の所論が一番わかりやすいように思われます。
 *そもそも鉄道とクルマ(道路)はイコール・フッティングになっていない(車の走る道路は税金で建設され、信号機やガードレールなどの安全施設も税金で設置・維持されているのに対し、鉄道は税金の投入は極めて少なく、ほとんどすべてを民間会社が自社で賄う)。鉄道は赤字になればすぐに廃止の議論になるが、道路の採算性が議論されることはなく、廃止された道路もない。道路は災害で橋が流出した際などは直ちに国交省地方建設局が復旧工事を始めるが、鉄道は長期間放置され、やがて廃止の議論へとつながっていく(只見線など)。同じ公共交通でありながら、どうしてこのように差がついているのか。
 *統計上、直近の24時間以内の交通事故死者は3000人超、内閣府によればその経済的損失は6.7兆円と膨大なものであるが、この議論も全くない。
 *鉄道を維持する負担は利用者が負うべきで、広く税負担で支えるのは不公平というが、実は地域すべての人が受益者であり、いま利用していなくても将来利用する可能性は多くあるのではないか。
 *インバウンド客の鉄道利用を促進すると言っているのに、鉄道の切符はすべて日本語のみであるのはおかしくないか。
 ……等々、今まで気づかなかった多くの論点が提示されており、きわめて興味深いものです。
 
 そもそもお客様を増やす努力をせずに、補助金に頼る経営姿勢そのものも問題です。北海道帯広市を拠点とする「十勝バス」の事例はすべての公共交通機関に適用されるべきものなのに、これが普遍化しないのは、どこかに補助金頼みの無責任体質があるからではないでしょうか。
 なんでもヨーロッパが素晴らしいとは言いませんが、宇都宮先生が紹介しておられたオーストリア・ザルツブルグでは、20年間で自動車の交通分担率を一気に12%引き下げ、これにあたって道路の建設・維持管理予算を鉄道へ再分配する手法を採用したのだそうです。自動車王国でもある同国では反対論が強かった中、「20年後、30年後の町づくりをすることが我々の仕事であり、反対があるからできないというだけでは役人として失格だ」と述べ、住民の説得に力を尽くした同国の官僚の姿に、彼我の差を痛感したことでした。 

 24日土曜日は、宗谷本線活性化協議会令和4年度事業「持続可能な地方と鉄路を創造するために」で講演する予定です(午後5時15分・名寄市・グランドホテル藤花)。これを踏まえてこの問題については再度論じてみたいと思います。
 名寄市での講演の前には、「三浦綾子先生生誕100周年記念講演会 三浦文学と地方創生を考える」で講演する予定です(午後2時半・和寒町・公民館恵み野ホール)。
 和寒町は三浦綾子の代表作の一つである「塩狩峠」の舞台となったまちであり、ここでこのテーマで講演させていただくことに深い感慨を覚えています。高校2年生の冬に「塩狩峠」を読み、あまりの衝撃に2日間ほど部屋から一歩も出られませんでした。読み返すのが怖くて今まで再読していなかったのですが、半世紀近くぶりに読み返しても、深い感動を覚えます。貴重な機会を与えてくださった和寒町の皆様に心より感謝申し上げます。

 来週火曜日27日には安倍元総理の国葬が執り行われます。第二次安倍政権において、幹事長や国務大臣として四年間、安倍総理にお仕えした者として、当然参列し、静かにお見送りしたいと思っております。当選同期で、畏友でもある村上誠一郎議員は国葬への欠席を表明されましたが、村上議員がその見識と責任において判断されたことです。自民党は国民政党であればこそ、国民の意見を反映した闊達な議論があって当然であると思っています。
 英国のエリザベス二世女王陛下の葬儀にまつわる映像の中で、まだ女王に就任される前に「すべてを英国に捧げることを誓う」旨発言しておられたものがありました。「すべての英国国民のために」との思い、「分断を避けるために一身を捧げる」という尊いお心、まさにその通りのご生涯であったからこそ、あのような素晴らしい葬儀になったものと思います。我々政治家も立場は大きく違えど、心して臨まねばならない姿勢だと思いました。
 日本の国葬においては宗教色を一切排すこととなっており、これもまた憲法の要請であるということになっているのですが、それは本当に現行憲法の意図する趣旨に沿ったものなのか、いま一度よく考えたいと思います。

 今週は実働が四日しかなかったため、とても慌ただしい一週間となってしまいました。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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