防衛三文書改訂など

 石破 茂 です。
 防衛三文書(国家安全保障戦略・防衛大綱・中期防衛力整備計画)改定に向けた作業が進捗しているらしく、昨日の自民党の会議で内閣官房や防衛省から一通りの説明がありましたが、どうにもよくわかりませんでした。総理が「概ね一年をかけて策定する」と述べられたのは昨年12月のことで、時間が足りなかったというようなことはないはずです。
 ともすればお買い物リストを羅列し、財源をどこに求め、総額をどれほど伸ばすかという議論に終始しがちですが、それで足りるとは全く思いません。政府に設けられた「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」というネーミングの会議も、議事録を読む限り、本質的な議論が十分になされているとは思えません。
 「敵地反撃能力」の保持を決めるからには、「相手から武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略」である専守防衛との関係を明確に整理しなければなりません。
 「武力攻撃を受けた時」とは、「相手方の武力攻撃によって我が国に被害が生じたとき」では遅く、「単に相手方が武力攻撃を行う恐れのあるだけのとき」では早すぎる、ゆえに「相手が武力攻撃に着手したとき」である、とするのが政府答弁の定番で、「相手方が数時間はかかり、中止することが困難な液体燃料の注入を始めるなど、攻撃のプロセスが不可逆的になった時」を指すとしてきましたが、発射台が固定式で、液体燃料を用いていた20年も前ならともかく、現時点でそのようなことがあるとは考えられません。護衛艦から亜音速のトマホークを発射しても、発射台に到達した時点では既に発射を終えて移動していると考えるのが常識でしょう。
 「反撃能力」というからには、相手からの攻撃があることを前提としているのであり、それが弾道ミサイルである場合には、これをもれなく撃ち落とさなくては犠牲や被害が生じてしまいます。だからこそミサイル防衛が重要なのですが、これとてもあらゆる場合に対応できるわけではありません。だからこそ、国民を避難させるシェルターが重要なのであり、これについての議論がほとんど見られないのは怠慢か無責任の誹りを免れないと思います。「お買い物」が大事で、国民保護を等閑視するのでは、「防空法」で市民に空襲時の避難を禁じて消火活動に当たらせ、多くの犠牲者を出した戦前戦中の日本と何ら変わりません。
 一部メディアが「トマホークを保有」と、何だか大層な兵器を保持して攻撃能力が飛躍的に増大するかのごとき幻想に国民を導くのもいかがなものかと思います。巡航ミサイルの基本原理は飛行機と同様なので速度が遅く、迎撃される蓋然性が高いこと、目標に到達したときには既に攻撃目標が移動もしくは潜伏している可能性が高いことに加え、構造上、核を積まない限り貫通力や破壊力に乏しい、というデメリットもあります。全体の構想における「反撃力」の位置づけを明確にしたうえで、他の手段も併せて取得せねばならないのではないでしょうか。
 一部報道にあるような、全幅が戦艦大和よりも大きいイージスアショア代替ミサイル防衛専用艦も、このとおりで進められるのかは不透明です。報道されている新規の装備品には摩訶不思議なものが多いように思います。
 陸・海・空の三自衛隊「統合司令官」の創設や、各国に駐在する防衛駐在官(武官)を現在の外務大臣の指揮監督下から防衛大臣の指揮監督下に移し、本来の役割を果たさせる、などの法改正も急務です。自衛官の最高位である統合幕僚長はあくまで「総理や防衛大臣の最高の専門的助言者としての幕僚の長」であって、司令官ではありませんので、その米軍のカウンターパートは統合参謀本部議長であって、実際に米軍を指揮するインド太平洋軍の司令官ではありません。総理や防衛大臣に助言をしながら、三自衛隊を指揮するなどということはどんなスーパーマンでも不可能です。
 手間がかかるからと法改正を先送りし、装備品の調達と予算の増大に特化した「防衛力の抜本的な見直し」になるのではないか、と危惧の念を持たざるを得ません。これらは防衛庁長官や防衛大臣に在任していた頃から指摘してきたことですが、私の能力不足から賛同が広がらず、今日に至るまで改善を見ませんでした。大きな反省のもとに、今回可能な限りの努力をしたいと思っています。

 

 葉梨法相の交代が報ぜられています。ご本人をよく知っているわけではありませんが、警察官僚出身のとても真面目な方だとの印象を持っていただけに、今回の法相の職務に関する一連の発言はとても残念に思いました。短期間に相次いで閣僚が辞任する事態はかつてのリクルート事件の時の竹下内閣や民主党の野田内閣を彷彿とさせ、この後の展開はかなり厳しくなるのかもしれません。
 死刑制度の存否については、法学部の学生時代以来ずっと悩んでいますが、いまだに自分としての結論が出せないままでおります。団藤重光先生の死刑廃止論や、新しくは平野啓一郎氏の「死刑について」(岩波書店・2022)をもう一度読み直してみたいと思っています。

 

 都心は今週も小春日和が続きました。皆様、お元気でお過ごしくださいませ。

 

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石破茂
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