少子化対策など

 石破 茂 です。
 会期末の衆議院解散の有無を巡って、今週の国会の周辺は浮足立ったような落ち着かない雰囲気が漂っています。
 本来解散は内閣不信任案の可決、信任案の否決、予算案・法律案等政府提出議案の否決等々、衆議院の意思と内閣の意思が異なった場合、主権者である国民の判断を仰ぐために行われるものであり(憲法69条)、政権の延命や「野党の準備が整っていない今なら勝てる」というような党利党略目的で行われるべきものではないと私は考えていますが、現行憲法下での解散のほとんどはいわゆる69条解散で行われているのが実情です。
 英国においては、首相の解散権を制限する議員任期固定法(2011年成立)がジョンソン政権で昨年廃止されましたが、公選ではない上院を第二院として持つ英国と、ほとんど衆議院と同じような選挙制度で議員が選出される参議院を持つ我が国とでは事情が相当に異なります。昨年7月に参議院選挙が行われ、国民の意思が示されてまだ1年も経たず、衆議院議員の任期を2年半も残し、さしたる争点もないままに解散することの意義が私にはよく理解出来ませんが、防衛費の大幅増額や少子化対策の内容と、それに必要な経費はどのように算出され、受益者負担と応能負担をどのようなバランスをとって捻出するかの根拠を明示して国民に信を問うのなら、それは意義のあることです。抽象的な方針だけを示して、後は選挙が終わってから議論する、というようなことがあってはなりません。

 少子化対策は、もっとそれぞれの地域に住む国民が「我がこと」として実感できるようなものにしていくべきです。所得の高い東京の婚姻率は全国一ですが、出生率は全国最低。所得が必ずしも高くはない九州・沖縄・山陰の出生率は常に高く、出生率ベスト10はすべてこの地域です。47都道府県間でも出生率は最高の沖縄が1.80、最低の東京が1.08。これに密接に関連する数値である女性の初婚年齢は最も低い和歌山と山口が28.7歳、最も高い東京が30.5歳。女性の平均帰宅時間は最も早い愛媛が午後4時52分(!)、最も遅い東京が午後6時41分。…等々、いくつかの指標を精緻に見ていくと、その数値が大きく異なることに驚かされると同時に、それらの関連性について多くの気づきが見出されます。これを全国の1937市区町村ごとに見ていくとその差は更に明確となり、同一都道府県内でもその数値は大きく異なります。
 こう考えると、全国一律の施策には、かえって不公平を助長させる面があることは否定できません。重要なのはそれぞれの地域に住む一人一人が少子化を我がこととして考え、講ぜられる施策の効果を実感することです。地方創生交付金の趣旨に類似した、少子化対策に限った使途自由な交付金という発想もありうべきだと思います。
 仮にあらゆる政策を講じて出生率が上昇したとしても、出生数は出産する女性の数が減り続ける限り、増えることは決してありません。少子化の本質は「少母化」であり、これは見通しうる将来、改善されることは見込めません。2022年時点でいわゆる出産適齢期とされる25~39歳の女性の数は約929万人、25年後にこの年齢に達する現在0~14歳の女性の数は25%減の約696万人であり、国立社会保障・人口問題研究所も約100年後の2120年までは出生数は減り続けるとしています。
 数年前にも指摘したことですが、1974(昭和49)年に当時の厚生省や外務省の後援で開催された第1回日本人口会議では、「人口がこのまま増加すれば資源が不足するので、子どもは2人までという国民的合意が必要」とする「少子化政策推進宣言」がなされ、メディアもこれを大いに煽り、その後急激に少子化が進むこととなりました。その政策効果が、悪い意味で半世紀後の今日、はっきりと表れているのです。過去の政策の誤りを認識し、反省しないままに、いかなる方策を講じても効果は乏しいでしょう。第三次ベビーブームが起きなかったことについても、これを「戦後GHQが仕掛けた人口戦に日本が敗北したもの」と捉える向きもあり(河合雅司「日本の少子化 百年の迷走」新潮選書、2015年)、深く頷かされる点が多くあります。
 国民に信を問うならば、「未曽有の国難も全力で対応すれば必ず乗り越えられる」というような精神論を語るのではなく、少子化時代に対応する社会のあり方を示すことが必要であり、そのためには濃密な議論が必要です。

 「自公連立の維持か、自民・維新による新連立か」「自民支持層の57%が自公連立に否定的」「公明党より維新の方が政策的に親和性が高い」などという報道が見受けられるようになりましたが、私自身は懐疑的です。維新の政策に見るべき点が多くあり、立派な議員も多くいることは事実ですが、重視する政策が異なるからこそ連立の妙味があるのですし、高齢化が進んでいるとはいえ、公明党の組織力を侮るべきではありません。「公明党とは憲法観が異なる」「公明党と連立する限り憲法改正は出来ない」などと言う方もおられますが、真正面から真剣に議論もしないままにそのように決めつけるのは、国民に対して不誠実です。自公が政権を失った時も公明党が自民党を見限ることなく共闘を続け、ついに政権を奪還したことを知らない議員が増えたからなのでしょうが、過去を忘れた者はいつか必ずその報いを受けることを肝に銘ずるべきだと思っています。もとより選挙は自分の努力によるべきものであり、その上で公明党や維新の協力が得られるのならばありがたいこと、その基本を忘れてはなりません。

 天皇・皇后両陛下は今月17日から23日までインドネシアをご訪問になりますが、天皇陛下ご不在中に国事行為となる衆議院解散が行われたらどうなるのでしょう。という問いに対して、官房長官は「摂政が代行する行為に制限はなく、解散に問題はない」と述べられましたが、根拠法である「国事行為の臨時代行に関する法律」第2条には「天皇は、精神若しくは身体の疾患又は事故があるときは、摂政を置くべき場合を除き、内閣の助言と承認により、国事に関する行為を…皇族に委任して臨時に代行させることができる」とあり、外国ご訪問はこれには全く該当しないのではないでしょうか。官房長官は「いままでそのような例はない」とも述べられましたが、これは今後もないと言っているわけではありません。天皇陛下の国事行為について、このような議論がなされること自体、畏れ多いことだと思います。

 中央公論7月号の特集「安倍晋三のいない保守」に私へのインタビュー記事が掲載されております。YouTubeの「横田由美子チャンネル」では皇室論と安全保障論を語りました。ご関心のおありの方はご覧くださいませ。

 会期末が近くなったためなのか、国会周辺が大音量のシュプレヒコールや歌声でにわかに騒がしくなってきました。言論や表現の自由が最大限に尊重されねばならないのは当然のことですが、大音量の絶叫だけではそれほどの効果が見込めないのではないでしょうか。高校生の頃に読んだフルブライト米国上院外交委員長の言葉に「憤激の念の強い過激な表現より、静かな表現の方がより効果的であり、それはすなわち保守的なものなのである」というものがあったことを思い出します。

 都心も梅雨入りし、不順な天候が続いています。先般や今次の台風、それに伴う豪雨などで被害に遭われた方に心よりお見舞い申し上げます。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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石破茂
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