石破 茂 です。
自民党税制調査会(以下「税調」と呼びます)は自民党の中でも最も権威と伝統のある組織の一つで、ある意味最も自民党らしい存在かもしれません。
中曽根内閣の売上税構想が頓挫し、竹下内閣において新たに消費税構想が議論された際の光景を鮮烈に覚えています。消費税を内税にするか外税にするかで、「負担感が消費者に実感されにくい内税にすべき」との発言が相次いだ時、税制調査会長であった山中貞則先生が「絶対に内税は認めない。外税にして消費者に負担を実感してもらわなければ、税の使い方もいい加減になってしまう。そんなことは決してあってはならない」と仰ったのを聞いて、当時当選一回生だった私は心から感激し、山中先生は本当に偉い方だと思ったものでした。すでに自民党の大重鎮であられた先生は、我々二代目議員が恐る恐る発言するのを聞かれて、「君の親父は良く知っているが、君よりもっと立派だったぞ。よく勉強しなさい」などと言われ、恐れ入りながらもどこか嬉しく思ったものでした。
暮れの税制改正時に開かれる税調の小委員会はとても政策の勉強になる場でしたが、租税特別措置法の改正に関する議論は「公平・簡素・中立」を旨とする税の基本理念に反するような思いがして、いつしか足が遠のき、当選五回以降はほとんど顔を出すこともなくなりました。
今回、防衛予算の増額分の一部を増税で賄うべきか否かという税調の議論に久々に参加したのは、これを税によらず国債で賄うべきとの意見が多く出されていることに危惧を抱いたからに他なりません。
防衛費について、陸・海・空各自衛隊の要求をそのままホチキスでとめたようなものではなく、運用を前提とした統合的なものかどうか、内容の厳しい精査は不断に行われなくてはなりません。いままで陸上自衛隊のヘリコプターAH-64D(アパッチロングボウ)、海上自衛隊のミサイル艇1号など、導入にあたってもっと精緻な検討が必要であった装備は多くありますし、世界的名機であるⅭ-17輸送機など、より安価でより簡易に調達できたはずの装備を無理に国産にして納税者の負担を増やした例も少なくはありません。ライセンス生産を含む国産の車両や戦闘機の価格が国際価格の数倍することも、その理由もきちんと説明すべきです。
世の中の方々が、ロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにして強い不安を抱き、「今日のウクライナは明日の台湾」「台湾有事は日本有事」との論説に共感し、防衛費の増額に理解を示されるのは当然ですが、そうであるだけに我々政治の任にある者はこれに安易に乗ずることがあってはなりません。
冷静に内容を精査した上で、安定的な財源はやはり法人税を主体にして求めるべきです。
安倍内閣では「日本を企業が最も活躍しやすい国にする」として法人税を軽減してきましたが、これが賃上げや設備投資に回ることはほとんどなく、企業の地方移転も進まず、名だたる大企業が莫大な利益を上げながら法人税を減免され、内部留保が積み上がった、というのがその後の現実でした。
税は「誰が受益者か、誰が負担する能力を持っているのか」を考慮して決せられなければなりません。
国の独立と平和が守られることの第一義的な受益者は今を生きる我々ですが、将来の国民にも効果は及ぶものであり、税の応能負担は、憲法の要請する公平の思想に沿ったものです。その点から、利益を上げ、円安の恩恵を享受している輸出中心の大企業などに負担を求めることは妥当なものと考えます。「企業の賃上げや設備投資の意欲を削ぐものだ」との意見もありましたが、昨日の税調で宮沢会長が「自分が経産相当時、法人減税を実現させたが、賃上げも設備投資もほとんど進まず、大きく失望した」と述べられていたのは誠に示唆的でした。
復興税はこれを防衛費の財源として流用するのではなく、あくまで所得税から求めるという構成ですが、復興に遅滞が生じないことと、復興税自体は税率の引き下げと実施期間の延長がセットになっていることを丁寧に説明すべきです。
たばこ税は「反発が少なく取りやすいところから取る」との考えによるもので、税の負担の公平性からは疑問なしとしません。たばこ税は国税と地方税を合わせて2兆円という大きな財源ですが、このかなりの部分が旧国鉄や国有林野事業の負債の返済に充てられているのも同様です。
先ほどの自民党総務会において、新たな防衛力整備の方針が了承されました。昨日までの熱気が嘘のように、マスコミの注目もなく、何の異論もない静かな光景でしたが、「日本に対する脅威の本質とは何か」「反撃力とはいかなる抑止力か」「その発動はいかにして行われるか」「そのために本当に有効な兵器は何か」「日米同盟の拡大抑止力を強化するために共同の司令部が必要ではないか」「より対等な日米同盟のためには地位協定の改定が必要ではないか」等々の論点は積み残されたままです。引き続き感情論によらない精緻かつ早急な議論が必要です。「まずは外交努力を」という意見は確かにその通りですが、パスカルが語ったとされる「正義なき力は暴圧であり、力なき正義は無効である」というのも一面確かな真実です。
今週は「第三次世界大戦はもう始まっている」(エマニュエル・トッド著・文春文庫)から多くの示唆を受けました。トッド氏の人口減少に対する危機感や、独立主権国家の在り方についてはかねてより共感しております。
年末年始には時間を見つけて「戦争はいかにして終結したか」(千々和泰明著・中公新書・2021年)、「ウクライナ戦争」(小泉悠著・ちくま新書・新刊)、「日本の近現代史述講 歴史をつくるもの 上・下」(坂野潤治他著・中央公論新社・2006年)、「統一教会 何が問題なのか」(文藝春秋編・文春新書・新刊)などを読みたいと思っています。
計画はいつも気宇壮大なのですが、あまり実現したためしはありません。夏休みに膨大な本を読む計画が挫折した受験生を描いた柏原兵蔵の「短い夏」の最後の一節をいつも思い出します。夭逝した芥川賞作家・柏原兵三(1933~1972)。「短い夏」の姉妹作「夏休みの絵」や芥川賞受賞作「徳山道助の帰郷」、「独身者の憂鬱」などはとても好きな作品でした。
今週の都心は寒い日が続きました。今年もあと二週間余り、皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。