細田博之先生ご逝去など

 石破 茂 です。
 油断は禁物ですが、コロナ禍も収束に向かいつつあり、鳥取県内でも4年振りに各種の会合やお祭りが開催され、どこも相当な賑わいです。久しぶりに対面で多くの方々と懇談する機会が出来てとても有り難いことなのですが、現政権に対する批判的な見方が多いことに驚かされます。年内の解散・総選挙は見送りとなるとの報道ですが、先延ばしをしている間に国民の不満が更に鬱積して、いつかは必ず到来する総選挙の機会に決定的な審判が下されないとも限りません。自民党議員は、とにかく選挙区を丁寧に歩き、街頭演説や小規模集会を繰り返して自分の支持を拡大する他はないのであって、選挙の厳しさを政権の所為にするのは責任転嫁というものです。政権が順風の時は誉めそやし、逆風になると一転して批判に転じるのはあまり感心致しません。いかなる逆風下であっても選挙はあくまで自分でやるものだと私はかねてより思っております。

 

 本日の総務会において新たな経済対策の柱となる補正予算案が承認されましたが、席上で幹事長も言及していたように、国民の皆様の理解は未だに不十分です。毎回指摘して恐縮ですが、物価高による消費税、名目賃金の上昇や株高による所得税、一部輸出関連製造業の好業績による法人税の増収によるところが大きい税収増を「経済成長の成果」とすることに対する疑念や、物価高の影響は行政サービスを提供する政府にも当然及ぶことを無視して「還元」とすることの疑問、物価高の主たる要因である円安に対してどのように対処するのか等々、人々が抱く素朴な疑問に正面から答える姿勢を持たねばなりません。不人気な政策を実行するときこそ、政府・与党は国民に正面から向き合い、わかりやすい説明に努めなくてはなりません。かつて福田康夫内閣で、インド洋の海上自衛隊による各国艦船への補給活動を継続するためのテロ特措法を延長する際、町村官房長官、高村外務大臣と共に防衛大臣として渋谷や新宿の街頭に立ったことを思い出します。動員したわけでもないのに多くの人が足を止め、聞いてくださった光景が忘れられません。決して逃げることなく国民に正面から向き合い、雄弁饒舌でなくとも誠心誠意説明すれば、多くの人にわかっていただけるはずです。

 

 国民はむしろ、負担の不公平さに違和感を持っているように感じます。純金融資産が1億円以上の「富裕層」はここ10年でほぼ倍増の148万世帯、全世帯の2.5%となっていますが、一方において資産がゼロの世帯は2人以上世帯の22%、単身世帯では33%を占めるに至っており、格差の拡大が近年鮮明になりつつあります。税を納める力のある人がそれに相応しい納税を果たすという、日本国憲法の定める「法の下の平等」に基づく「応能負担の原則」が我が国においてどれほど実施されているのか、きちんとした検証が行われなくてはなりません。「増税」と批判されてただ怯えることなく、あるべき公平な税制の姿を訴えることが肝要です。

 

 必要があって日本における医療麻薬の適正な使用について調べているのですが、国際麻薬統制委員会の統計によれば、日本の1日当たりのモルヒネの使用料はイギリス、アメリカ、カナダの約30分の1、フランス、ドイツの約20分の1から10分の1、イタリアの半分以下なのだそうです。医療用麻薬は医師の厳正な管理のもとに使用されるので、常習性による中毒などが起こるはずもないのですが、何故このようになっているのか、どうにも判然と致しません。40年以上前に亡くなった私の父は膵臓癌でしたが、亡くなる前の痛みは相当のものでした。日本の医療界では「1分でも1秒でも長く生かすことが医学の勝利」なのだそうですが、Quality Of Life という考え方をもっと生かすべきなのではないか、ととても疑問に思っております。
 高校生の頃に読んだ渡辺淳一氏の初期の作品である「無影灯」(1971年)の中に、主人公である癌に侵された医師が「医者は本来殺し屋なのだ。日本の大学医学部に死なせ方の講座はないが、もしあったら俺が教授になるのだった」と語る場面があるのですが、それ以来これがずっと気になっています。武谷牧子氏の日経小説大賞受賞作「テムズのあぶく」(2006年)にも、余命いくばくもない癌患者である機械メーカーのロンドン駐在員である主人公が、薬局でモルヒネの錠剤を購入して使用し、穏やかな最期を迎えるという場面が描かれますが、これを読んだ際にも同じ思いを抱きました。齢を重ねてくると、自分の周りにも亡くなっていく人がだんだんと見られるようになってきて、人生の終わり方についても、日本には突き詰めた議論がなお足りないことを痛感しています。

 

 前衆議院議長の細田博之衆議院議員が急逝されました。享年79。当選は私が一期上でしたが、隣県の島根選出でもあり、内閣や党の執行部で一緒に仕事をしたことも多々ありましたので、極めて残念に思っています。明晰な頭脳を持ち、常に冷静であった在りし日のお姿を偲び、御霊の安らかならんことを祈ります。
 島田三郎参院議員、竹下亘元総務会長、青木幹雄元参議院議員会長、そして今度の細田先生と、島根の政治家のご逝去が続き、とても寂しい思いが致します。山陰の田舎の想いを、我々残った者たちが受け継いでいかなくてはなりません。

 

 宝島社より「没後30年 田中角栄100の言葉」の新版が発刊されました。巻頭企画に私のインタビューも載っていますが、改めて田中角栄先生の一言一言の重さと温かさを感じさせられます。私は実際にご活躍されていた田中角栄先生を知る最後の議員として、魔神、鬼神、天才としか表しようのない先生の教えを現代に述べ伝える責任の一端でも果たしたいと思います。

 

 11月も半ばとなり、今週後半の都心はようやく寒さが感じられるようになった日々でした。
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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石破茂
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