石破 茂 です。
一律10万円の定額給付への方針変更はあるべき方向だと思います。リーマン・ショック後の1万2千円の定額給付金は、金額が少なかったことと支払時期が遅くなったことであまり評価はいただけませんでしたが、今回は行政の大原則である「公平性・公正性」よりも「迅速性・簡便性」を重視し、「早くて簡単!」との実感を国民に感じて頂かなくてはなりません。給付金自体は全額国費ですが、実施主体は市町村ですので、マイナンバーカードの普及率や対応する電算システムの整備進捗状況などによって給付時期に差が出ます。私の地元鳥取市でも懸命に作業中で、いつ、どうなるのかを早急に市民に示すようお願いしております。危機管理時の行政に求められるのは、
①「想定外を想定し、平素には周到に準備し、有事には冷静に対応する」
②「政治的な思惑を排し、結果の全てに責任を負うとの決然たる意志をもって、論理的に、分かりやすく説明する」
という2点なのだということを改めて痛感しています。
8500人の人員と170の職種を有するアメリカのCDC(疾病予防管理センター)や、300人の専門家で構成されるスウェーデンの同種組織に類するものを平素から機能させる必要があります。
権限を付与する法律と、事業の執行に必要な予算は議会が確保し、実際の運用(オペレーション)はこの組織が政治的な思惑を一切排して行います。CDCは連邦政府保健福祉省に属していても、意思決定は独立しており、政治に左右されることなく自己完結的に運用されているとのことです(渋谷健司氏の論説・「Voice」5月号による)。軍隊における「軍政と軍令の分離」とよく似た構造で、最終的な責任は民主主義国家である以上、主権者に責任を負いうる唯一の立場にある政治家がとるのは当然です。これも民主主義国家における文民統制のあり方と類似しています。
そのCDCを有するアメリカで世界最多の死者が出ている理由についても諸説あり、構造的問題(都市部の貧困、衛生状態、医療格差など)に加え、現在の米政権がCDCの意見を軽んじ、予算や人員を削減し、秋の大統領選を睨んで楽観的な判断や発言を行っているからだとの指摘もあります。
かねてより申し上げている「防災省」(仮称)に内包するか別組織にするかはともかく、日本版CDCも必須です。また、防災省的なものがあれば、緊急時のロジスティックス(今回でいえば帰国者や軽症者の方々へのお弁当・食事の手配など)のノウハウはほとんどの場合に適用でき、既存の行政組織に必要以上の負荷がかかることもありません。非常時であると否とに関わらず、政府や自治体が施策を講ずるにあたっては「何故この施策を採るのか」「他の選択肢との比較において、どのような長短があるのか」「どのようなリスクが存在し、どのように最小化するか」を論理的・可視的に簡潔に説明しなければなりません。感情的な訴えでは、一時的な人気が集まることはあるかもしれませんが、施策自体に対する信頼は生まれません。
抗体検査も、PCR検査も、体制が整った地域から早急に拡大すべきです。検査を行わなければ、どこで何が起こっているのか把握できませんし、現状が把握できなければ今後の適切な対策は困難です。
国民の皆様にご理解いただくべきなのは、
①日本では新型インフルエンザやSARSの被害が甚大ではなかったこともあり、事前の検査体制が十分には整っていなかった。今後、機器の製造・配備、取扱者の増員、民間による検査実施の拡大、献血時など検査実施機会の拡大等により、これを早急に整備し、各地域における実態を把握する。
②流行初期におけるクラスター対策は有効であったが、感染が拡大した今、その効果は限定的となるため、今後は重傷者・重篤者の治療を感染症指定病院に集中させ、軽症者・未発症感染者は一般病院やホテルなどに収容するトリアージ(治療の優先順位を定めること。識別救急)体制に移行して、医療崩壊を防ぎつつ重篤者の死亡を抑え、もって医療関係者の負担を軽減する。
ということではないでしょうか。
検査件数を増やせば感染者の数は当然増加しますが、医療を受ける適切なタイミングを逃さないことによって時間の経過と共に致死率は下がるものと思われます。大切なのは感染者数の少なさではなく、重篤化率と致死率の低さではないでしょうか。致死率が季節性インフルエンザと同程度の0.1~0.05%まで下がれば、それが一つの目安となるものと考えます。「アビガン」の使用についても、200万人分(70万人分との説もあり)備蓄されているとされるアビガンを早期治療に使うことは有効である、とのご意見は医療関係者には多くあり、これを等閑視してはならないのではないかと思います。
昭和35(1960)年から36年にかけて、国内でポリオウイルスによるポリオ(小児麻痺・5歳以下の罹患率90%)が大流行し、予防に有効であった生ワクチンが国内で不足していた際、当時の池田内閣の厚生大臣であった古井喜実氏は「平時守らなければならない一線を越えて行う非常対策の責任はすべて私にある」と述べて、カナダとソ連から生ワクチンを輸入し、1300万人の子供に投与し、日本からポリオはほとんど姿を消しました。古井先生は私の亡父と同郷・同窓、かつ内務省の大先輩でありました。「責任」という言葉の持つ重さを改めて痛感させられます。
女優の岡江久美子さんが新型コロナウイルスにより63歳で亡くなられました。1956年生まれということで、私と同学年であり、親近感を感じていただけにとても残念です。ガンの治療によって免疫力が低下していたとの報道もあり、因果関係の解明が今後行われることと思います。夫君の大和田獏氏は感染防止の対策を取った上で最後の対面を果たされたとのことで、それすらも叶わなかった志村けんさんの時とは異なる対応であったようです。御霊の安らかならんことを切にお祈り致します。日頃より敬愛してやまない谷公一代議士が、新型コロナによる影響を聴取していた選挙区の養父市で交通事故のため重傷を負われたとの報道がありました。選挙区のみならず、被災地や過疎地の多くの人々が同議員を心より頼りにしています。持ち前の不屈の闘志で一日も早く回復されますよう心よりお祈り致します。
因みに谷議員の選挙区の中心は豊岡市など兵庫県北部の但馬地方です。昭和15年2月、与党の民政党議員でありながら衆議院本会議において有名な「反軍演説」(内容は反軍ではありませんでしたが)を行い、軍を侮辱したとの理由で衆議院を除名された斉藤隆夫議員の地元です。
衆議院議員で斉藤の除名に反対した議員は僅かに7名、圧倒的多数で除名されながらも、昭和17年の総選挙では大政翼賛会の推薦を受けずにトップで当選し、復帰を果たします。但馬の有権者も本当に気概があると思います。演説の多くは現在も議事録から削除されたままなのですが、音声記録が残っていたのか、ネットで全文を読むことが出来ます。是非ご覧ください。今週末も在京の予定です。最近は厚生関係の文献を中心に目を通しております。基礎的な知識の習得のためには「人類VS感染症」(岡田晴恵氏著・岩波ジュニア新書)が役立ちました。「岐路に立つ日本医療」(大村昭人氏著・日刊工業新聞社)からも多くの示唆を受けましたし、厚生関係以外では「私の考え」(三浦瑠麗氏著・新潮選書)を面白く読みました。
皆様どうか引き続きお気をつけて、ご健勝にてお過ごしくださいませ。