石破 茂 です。
一昨日淡々と通常国会は閉幕し、参院選モードに入ります。
予算成立後は衆参の予算委員会も開催されず、党首討論も短時間、御代代わりの一連のフィーバー、米国大統領来日や災害、悲惨な事件などが立て続けに起こり、世の中の耳目が政治に集まらなかったという印象です。人口減少と急速な高齢化、年金に限らず介護・医療などの社会保障制度の持続可能性、政府に対する信頼の回復、日米同盟の今後の在り方、日米貿易交渉の行方など、国会で議論すべき課題はなお多くあったはずですが、議論よりも対立と分断が際立った国会でした。先般「テラスプレス」なるサイトの記事をもとにした「フェイク情報が蝕むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識」と題する小冊子が自民党所属議員宛に配布され、党本部はこれを政治活動の参考に、との意向のようです。
選挙なのですから、他党への批判や攻撃を強めるのは当然のことですが、内容自体はともかくとして、どこの誰が書いたのか判らず「自民党とは直接関係がありません」という責任の所在を明確にしない姿勢が私には理解できません。このようなやり方は決してフェアではありませんし、冊子に描かれた枝野氏、玉木氏、志位氏と思われる人物のイラストは悪意に満ちた、人の嫌悪感や憎悪感を煽るもので、品位が感じられません。いかに立場や主張を異にしようとも、いやしくも「全国民の代表者」である国会議員や政党の党首に敬意を払わず侮蔑・嘲笑するかのごとき態度は、本来、日本人の感性からは遠いものではないでしょうか。
日本を担う責任政党である自民党は、公正で品位のある政党であるべきであり、参考資料も正々堂々と自民党の責任において作成すべきものでしょう。対立と分断を是とするような姿勢では、広範な国民の共感は得られません。トランプ大統領が26日、FOXビジネスのインタビューで日米同盟について「我々が攻撃されても日本は我々を助ける必要はない。彼らが出来るのは攻撃をソニーのテレビで見ることだ」と述べ、条約は不平等だと主張したと報じられました。ブルームバーグは同大統領が側近に対して同趣旨の発言をしたと報じており、この二つは連動しているとみるべきでしょう。要は「集団的自衛権の行使を全面的に容認せよ」「それが嫌なら米軍駐留経費を大幅に増額せよ」と言いたいのでしょう。これは日米同盟の本質そのものに関わる発言であり、極めて重大なことなのですが、日本国内での扱いはとても小さいのは何故なのでしょうか。
昭和30(1955)年、「日本は集団的自衛権を行使し、グァムまで米国を守るので在日米軍は撤退せられたい」と申し入れた鳩山一郎内閣の重光葵外相に対して、これを拒否したジョン・フォスター・ダレス米国国務長官は「日本がフィリピンのようなことを言い出しているが、日米安全保障体制によって米国が得る利益は日本に米国を守らせることではなく、米国が望む場所に、望む期間、望むだけの兵力を駐留させる権利を持つことである」と述べたと言われています(「これは、我々が兵力と基地を日本に維持する権利⦅権利の原文部分はイタリック⦆を捨てねばならなくなることを意味するであろう。そしてそういう特権は日本政府の同意に依存することになるであろう」)。
ダレスによれば、日本が「米国防衛の義務」を負わない代わりに負担すべき義務は「米国が望む期間、望む場所に、望むだけの兵力を駐留させる」というものであり、実際に日米安全保障条約は「防衛義務」と「基地提供義務」という、互いに負う義務が異なる「非対称的双務条約」と呼ばれるものとなっています。
私は日米同盟の重要性も、米軍駐留の必要性も理解しますが、ダレスが「特権」として「権利」を強調し、「日本政府の同意に依存しない」と述べていることに米国の強い意志を感じます。その後64年が経過しても未だに基本的構造は何も変わっていません。
日米安保体制は日本だけが一方的に裨益しているのではなく、日本の持つ地政学的位置、高い工業力、良好な治安に支えられて米国の世界戦略は初めて成り立つものです。そして、国家主権の主要な要素である「領土」を他国に提供する「義務」を負っている条約の例は他にありません。これを独立主権国家と呼べるのか。日米安保の本質を国民に正確に理解して頂く努力をしないままの防衛論議は、危険極まりないものだとの確信の下、今後とも地道に努力を重ねて参ります。集団的自衛権の行使の可否はあくまで政策判断であるべきであって、これを憲法判断にすり替えたところに根本的な問題があり、憲法上集団的自衛権は全面的に行使しうるとした上で、行使の要件は新たに制定する安全保障基本法によって厳格に定める、としたのが政権奪還選挙における自民党の公約でした。
今日のG20での日米首脳会談でこの点が議論になったかどうかはわかりませんが、来年の在日米軍駐留負担の見直しでこれが大きな論点になることを見越して、米国大統領がディールを仕掛けてきたように思えてなりませんし、これにはUSTRの別の意味での意向が関与しているのかもしれません。
この発言をむしろ好機として「大統領の『日米安保体制の非対称的双務性は解消されるべきである』との見解に同意する。当然のこととして、日本側としても、現在米国が有する基地使用の権利についての見直しを提起する」と言えるようにするためにも、党内の憲法議論および安全保障の議論は丁寧に、しかし徹底的に行われるべきであると考えます。週末は、29日土曜日が木村義雄参議院議員総決起大会で講演(午後2時・ホテル日航福岡・福岡市博多駅前)。
30日日曜日が道の駅「西いなば気楽里(きらり)」開業記念式典(午前10時・鳥取市鹿野町)、社会福祉法人敬仁会・敬友会例会で講演と懇談会(午後6時・松江市内)、という日程です。木村義雄参議院議員は昭和61年衆議院当選同期で、平成25年から参議院比例区に転出されました。46人いた当選同期で今も国会に議席を有しているのは、衆議院では逢沢一郎氏(岡山1区)、村上誠一郎氏(愛媛2区)、渡海紀三朗氏(兵庫10区)、三原朝彦氏(福岡9区)と私、そして参議院に転じた木村氏の6人だけとなってしまいました。派閥や専門分野は違っても、年齢的に近く、昭和・平成・令和の激動の時代を共に政治の世界で過ごしてきた仲間には同志的意識を感じています。
全国比例区の当選は、候補者名記載票の多い順から決まるので、投票は「自民党」の党名ではなく、候補者名を書いて頂かなければ当選には直接結びつきません(「党名を書いても候補者名を書いてもよいが、候補者名を書くことで党の得票にも候補者の順位を決めることにもなる」という比例区の仕組みがなかなか理解されず、党名を書かれる方がいつも7~8割おられます)。
私も昨年の総裁選挙でお世話になった議員や職域団体の候補者、国政選挙でご支援いただいている公明党など、きめ細かく活動しなくてはなりませんが、木村議員に対するご支援の輪も広がるよう努めて参ります。今週の都心は不安定な天候が続きました。私の選挙区である鳥取県を含む中国四国、近畿、九州北部は統計開始以来最も遅い26日に梅雨入りとなり、農作物に対する影響を懸念しています。
皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。