石破 茂 です。
新型コロナウイルス対応ワクチンの接種も徐々に進みつつあります。
会場まで行く手段の確保が困難な高齢者への接種をより容易にするとともに、予約を取る手間暇を更に簡便にするためにも、近くの「かかりつけ医」による接種の機会をより拡大すべきです。
イタリアにおいては、薬局で入手したワクチンを自分で打つことも可能だそうです(「コロナとがん」海竜社刊収録・中川恵一東大病院准教授とヤマザキマリ氏の対談より)。それは日本では困難だとしても、まだ工夫の余地は多くあるはずです。「ワクチン敗戦」と非難喧伝されますが、個人や団体に対する批判に終始している限り、解決はあり得ません。問題の根幹は、以前から申し上げている通り、平時を前提とした、弾力性と機動性に乏しい医療制度にあるものと考えております。
防衛省・自衛隊が中心となって運営される大規模接種会場の予約システムについて、一部メディアがあまり適切でない方法で不備を指摘したことも、それに対して揶揄的・挑発的な反論がなされていることも、残念な光景です。題名は忘れてしまったのですが、高校生の頃読んだ政治論の本に「悲痛や憤激の念の強い言葉よりも、冷静で抑制的な言葉、すなわち保守的な表現の方が説得力を持つ」というようなフルブライト米国上院外交委員長の言葉が紹介されていて、深く納得したことをよく覚えています。余裕が無くなったのか、選民意識の故なのか、今の日本ではそのような風潮が随分と失われてしまいましたが、対立と分断からは何も生まれないことを今一度自覚せねばなりません。
今では語る人もほとんどいませんが、小学校六年生から高校一年生の女生徒を対象として2013年に始まった子宮頸がんワクチンの接種率は、ピーク時には7割に達していたのに、副反応についてのセンセーショナルな報道によって、今や0.3%にまで下がってしまいました(ヨーロッパではほぼ8割の接種率です)。男女を問わず多くの人が感染し、罹患者は年間約1万人、死者は2800人という病気であり、その後、ワクチン接種後の症状とワクチンとの間には因果関係がないことが明らかになったにもかかわらず、接種率は回復していません。
この問題がほとんど等閑視されているのは何故なのでしょう。そして散々危険性を煽った一部のメディアが今、全然知らぬ顔をしていることにも大いに疑問を感じます。子宮頸がんで苦しむ女性は多くおられるのであり、これはコロナと同じく現在進行形の問題です。いささか刺激的なタイトルですが、「コロナ禍の9割は情報災害」(長尾和宏著・山と渓谷社)という指摘も否定はしづらいように思われます。
出入国管理法の改正案が取り下げられたことは、昨年の検察庁法の改正とよく似た構図で、政府・与党として厳しく受け止めなくてはなりません。
都議選や衆議院選を控えた今、敢えて強行すれば支持率が下がることを怖れた判断、と報道されていますが、この法案の企図したそもそもの意味が国民に全く理解されなかったこと、本来全く別の問題であったはずのスリランカ女性の死亡事案が法案審議と一緒にされてしまったことは、極めて残念でした。
政府として、多くの国民や国際社会が理解し、納得できるような丁寧な説明が決定的に欠けていたことは、率直に反省すべきだと思います。
何故日本の難民認定率は先進国で最低なのか。「政治的難民」に限定した認定では範囲が狭いのではないか。また、その立証は極めて困難なのではないか。難民条約との整合性は本当にとれているか。難民認定の手続きにおける司法の果たす役割を強化すべきではないか。収容期間が不当に長期に及んでいるのではないか。収容施設内の生活は人権に配慮したものになっているのか。亡くなられたスリランカ女性の「監視」下の映像は、どのような法的根拠によって公開されないのか。等々、まだまだ多くの問題が残されており、廃案にして「なかったこと」にすればそれでよい、というものでは全くありませんし、このままでは「弱者に冷たく厳しい国」とのイメージが内外に拡がってしまうことにもなりかねません。
「そのうちに忘れるだろう」などとタカをくくっているうちに、国民の間に不信や不満が澱のように鬱積しつつあることを軽視してはなりません。
この週末は、新書大賞で第1位となった「人新世の『資本論』」(斉藤幸平著・集英社新書)を何とか読んでみたいと思っています。人新世(ひと・しんせい)とは「人類が地球を破壊しつくす時代」との意味だそうですが、これが20万部のベストセラーになっていることも驚きです。
書店に行くと、並んでいる本の99.9%は読んだことのない本で、絶望的な気分にもなりますが、世の中には意識の高い人が大勢おられるのであり、政治に携わる者が不勉強であってはならないと改めて反省させられます。
近畿地方や東海地方まで梅雨入りし、東京の梅雨入りも間近のようで、例年よりも季節の運びがかなり早くなっています。
皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。