亡父の読書など

 石破 茂 です。
 安全保障三文書の改訂も最終段階に入り、今週は関係部会・調査会の幹部会や全体会議が何度か開催されました。公明党との協議もあり、私の意見が全面的に反映されるなどとは当然思っておりませんが、「統合幕僚監部に防衛力整備部門を創設すべき」という二十年来の主張は今のところ明文に記してもらえそうにはありません。しかし、陸・海・空の三自衛隊がそれぞれに要求する装備の総和が全体の最適装備なのではない、運用が統合であるのなら防衛力整備も統合でなされなくてはならない、というのはかなり根源的な問題だと私は思っております。

 

 イージス・アショアの代替についても、議論の方向はおかしなままです。ミサイル防衛能力を持ったイージス艦を2隻、24時間365日展開させている負担があまりにも大きい、だから陸上にシステムを置き、陸上自衛隊に運用してもらおう、というのがイージス・アショアの構想でした。「迎撃ミサイルのブースターが落下する危険がある」との摩訶不思議な理由で計画がキャンセルになったとしても、当初の海自の負担は変わっていないのですから、「ミサイル防衛任務艦」なるものを建造して逆に負担を増やすようなことになるのは全く理解が出来ません。
 この「任務艦」はまだ構想段階ということですが、一部報道によれば、基準排水量1万9950トン、全長210メートル、全幅40メートルの巨艦で、建造費はイージス・アショアを上回る4000億円、これを2隻建造すると言われています。速度も遅く、対潜水艦能力もない、なので洋上に進出した際にはこれを護衛する潜水艦やイージス艦が必要となるはずで、それらの艦や人員は一体何処から捻出するのでしょう。「令和の戦艦大和」と揶揄する向きもありますが、私は「令和の空母・信濃」になることのないよう、細心の注意が必要だと思っています(不完全なままに就役した世界最大の空母・信濃は、昭和19年11月29日、横須賀から呉へ回航する初航海で米潜水艦の攻撃を受けて沈没、世界軍艦史上最短命の14日間の生涯となりました)。
 大和型戦艦は極秘裏に建造され、多くの国民は戦後までその存在すら知りませんでした。計画を察知されないために帝国議会に提出された予算案では駆逐艦の建造費として計上され、納税者の知るところともならなかったそうですが、今の時代にそのようなことはあり得ません。
 要は我々納税者の代表たる議員のチェック機能が十分に機能していないということであり、「自衛隊の制服組が国会で一切答弁しないことこそが平和国家日本の証である」というような根本的に誤った考えを流布してきた勢力の姿勢も極めて問題です。文民統制の主体であり、納税者の代表である国会議員と制服組が国会の場で議論しなくて、なにが文民統制なのか。機密の漏洩を危惧するのであれば、罰則を伴う機密保護の体制を強化するとともに、憲法に定められた国会の秘密会を本来の形で運営する体制を整えるべきでしょう。

 

 ご自身が日中戦争に従軍された故・田中角栄元総理は生前、「戦争に行ったヤツが国の中心にいる間は日本は大丈夫だが、そうでなくなった時が怖い。だからよく勉強してもらわなくてはならない」と語っておられたそうですが、まさしくそのような時代になったのでしょう。
 昭和32年生まれの私も、勿論戦争に行ったこともなく、被災した経験もありませんが、陸軍司政官としてスマトラに赴任していた亡父・石破二朗が強烈な反戦論者であった影響は強く受けています。彼は同時に「人間・石破二朗として天皇陛下ほど誇りうる方はおられない」と語っていた、と伝えられる天皇崇拝者でもありました。亡父は戦争について語ったことは一度もありませんでしたが、私が中学に上がると吉村昭の「零式戦闘機」や「戦艦武蔵」、江藤淳やイザヤ・ベンダサンの著作などを黙って渡してくれるような人でした。大学に進学した際に何を読んだらよいかを尋ねた時、「漱石と鴎外は全部読め。あとは読まなくてもよい」と言ったことも強烈に印象に残っています(実は、父が遺した鴎外全集ははまだ三分の一も読めていません)。年が明ければ父の享年まであと7年、自分の内容の希薄さに、焦燥感と絶望感を強く感じる今日この頃です。

 

 今週は「小室直樹の学問と思想」(橋爪大三郎・副島隆彦の対談、ビジネス社・2022年)を面白く読みました。小室直樹博士はやはり端倪すべからざる大学者だったのだと改めて思わされます。「日朝首脳会談20年 失われつつある東アジアの展望」(田中均・元外務審議官インタビュー「世界」2023年1月号)は、短いながらも本質を鋭く突いた記事でした。是非ご一読くださいませ。
 明日10日土曜日は、極めて異例の衆参の委員会と本会議が開かれます。国会会期末とはいえ、長い議員生活でもほとんど例のない異例の日程で、何が背景にあるのかよくわかりませんが、何かが本質的に変わりつつあるような思いがしてなりません。面白おかしく解散・総選挙や内閣改造が取り沙汰されていますが、国家国民のために何か意味があるならともかくも、今の時点でそのようなことがあるべきだとは全く思いません。

 

 都心は寒い一週間でした。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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石破茂
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