東日本大震災・大津波・原発事故10年など

 石破 茂 です。
 東日本大震災・大津波・原発事故から10年、改めて粛然たる思いにさせられます。
 発災1年後、初めての追悼式典が天皇・皇后両陛下ご臨席のもと国立劇場で執り行われた際の、岩手・宮城・福島の遺族代表の方々のご挨拶は今も耳朶に残って離れることはなく、あれが自民党政権復帰への決意の原点であったと今も私は思っています。
 「あの震災の少し前に、皆が宝物のように思っていた孫の誕生日を家族、親族が集まって祝った。ささやかでも、幸せというものがあるのだととても嬉しかったが、3月11日にその多くが消えてしまった。この世に神も仏もないと思った」(岩手県代表の男性)
 「命からがら避難した丘の上から瓦礫の山となった自分の街を見たとき、地獄とはまさしくここのことなのだと思った」(宮城県代表の女性)
 「津波が来ると必死に逃げて走っていたら反対側から来た車が停まり、窓からお父さんが顔を出して『みんな無事か?お父さんは消防団員だから、これから現場に向かうぞ』と言った。それがお父さんを見た最後だった。冷たくなってお父さんは帰ってきた。お父さん、頑張ったんだね、でももう私と遊んでくれないんだね、と思うと悲しくて涙がとまらなかった」(福島県代表の女子中学生)
 大意このようなことだったと記憶しますが、これらの挨拶を聞いて、その場の多くの人が涙しました。当時野党だった我々は民主党政権の拙劣な対応を強く批判してはいたのですが、このような政権を国民に選択させてしまった責任は、驕った立ち居振る舞いで人心の離反を招いた我々自民党にあり、一日も早く党の体質を刷新して政権に復帰し、被災地の復興と被災者の支援に力を尽くせる立場にならねばならない、それが犠牲者や被災者の方々に対するせめてもの償いなのだ、との思いを強く持ったことが思い出されます。

 10周年にあたって、時間の許す限り関連する文献に目を通してみたのですが、「ゼロリスク幻想と安全神話のゆらぎ」(今田高俊・東工大大学院教授、西山昇・千葉商科大学客員教授 千葉商科大学CUC View&Vision 2012年9月)は、今読んでみても示唆に富むものです。
 「日本はゼロリスクを要求する個人によって構成された社会であり、政府や企業は風評被害の発生を怖れて情報を隠匿し、メディアもパニックが発生する恐れのある報道には慎重になる。人々のゼロリスク要求が適切な情報共有を妨げており、今後のエネルギー政策を議論するためには原発推進か脱原発かの二者択一ではなく、専門家から提示された多数の選択肢の持つそれぞれのリスクを十分に理解した上での熟議を市民レベルで進めることが不可欠である」と論じます(大学の紀要などに掲載される、この種の希少な論考にアクセス出来ることが国立国会図書館の持つ利点のひとつであり、我々がこれを活用しなければ納税者に申し訳がないと思います)。
 新型コロナウイルス対応を巡っての議論の混乱も、命か経済か、という二者択一性に起因するところが大きいように思います。
 直近のものでは、石橋克彦・神戸大学名誉教授(地震学)へのインタビュー(朝日新聞3月11日付朝刊)が参考になりました。「原発に対する指摘が生かされてこなかったのは、根拠のない自己過信や失敗を率直に認めない態度、起きて困ることは起きないことにするなどという、敗戦の時と変わらない当事者の体質が大きな要因である」これも実に耳の痛い指摘です。
 
 一連の復興施策は、被災地においてあるべき日本の未来像を示すことを目指したものでした。災害に対する地域の強靭化など、達成されたか、されつつあるものも多く、関係者の尽力に深く敬意を表しますが、一方で人口急減、急速な高齢化と孤独化の進行、被災地・被災者間の格差の拡大など、危惧される将来の姿が逆に先取りされる形で進行していることも直視しなければならない現実です。
 被災地復興の考え方は地方創生とも通底するもので、ハードだけではなく、その地域においてどれほど特色を生かした他地域にはない魅力を発信するかが極めて重要です。
 昨晩のBS番組に出演する準備の際に知ったのですが、原発事故によって甚大な被害を受け、今なお多くの方が帰還出来ない状態が続いている福島県浪江町で、「道の駅なみえ」が今月20日に全面オープンする予定だそうです。同町の請戸(うけど)漁港で水揚げされる絶品のヒラメや白魚を使った料理(白魚は今が旬)、名物の浪江ソース焼きそば(麺の太さは平均的な焼きそばの3倍)などが提供され、地元の料理には地元の酒を、ということで再建された全国でも珍しい駅構内の酒蔵もあるようです。「チーム浪江G&B」(じいさま・ばあさま)という、子供たちを支援する高齢者の組織などもユニークなもので、県内外から観光客や移住者を呼び込むための地元の熱意を今回知ることが出来たことを、とても嬉しく思いました。
 同番組でご一緒した五百簱頭眞先生が座長となって「7つの提言」を取りまとめられた復興構想会議は、提言を提出した後に解散してしまいましたが、本来は形を変えて存続させ、政策の検証を不断に行うべきものであったと思います。
 新型コロナ対応との類似性も含めて、様々な点で省みることの多い10周年でした。

 東京の桜の開花は今月16日、満開は22日と予想されており、本格的な春も間近です。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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石破茂
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