温家宝前総理寄稿など

 石破 茂 です。
 中国の温家宝前総理がマカオの新聞に寄稿した文章が、中国国内のSNSで、閲覧は可能なものの転送を制限されているとの報道に接し、とても嫌な予感がしてなりません。「私の母親」と題する亡き母の思いが綴られたこの文章の中には「永遠に人の心や人道、人の本質が尊重され、永遠に青春や自由の気概があるべきだ」「中国は『公正と正義に満ちた国』であるべきだ」との記述があり、これが今の習近平体制を批判したものと受け止められたため、との推測がなされていますが、仮にそうだとすれば実に憂慮すべきことです。
 2004年、小泉内閣の防衛庁長官在任時に訪中し、曹剛川国防部長(国防相、当時)との初日の会談を終えたとき、温家宝総理の面会の要請が突然あり、急遽翌日の日程を変更して中南海で1時間強ほど会談した時のことを鮮明に覚えています。小泉総理の靖国参拝、有事法制制定、アメリカとのミサイル防衛システムの共同研究・開発の合意、中東情勢への対応等々、当時も日中間には様々な見解の相違があったのですが、私が日本としての見解を述べたところ、極めて誠実で論理的な対応をされたことが印象的でした。
 本日のコメント欄にも「温家宝はこの先どうなるのか。劉少奇の例もあり、その意味で心配だ」と述べた方がおられますが、私も全く同じ思いで、中国の民主化を推進し、天安門事件では学生側に理解を示したことで鄧小平と対立、失脚後は軟禁状態に置かれ、失意の中で亡くなった趙紫陽総書記のことも想起しました。
 「政治は共産党一党独裁、経済は資本主義」という矛盾した中国の国家体制が維持されているのは、国民の軍隊ではなく共産党の軍隊である人民解放軍の存在、徹底した国民の監視と言論統制、国家資本主義による経済発展という三つの要素によるものと概略理解していますが、今回はこの言論統制の怖さをまざまざと見る思いです。
 異論を唱える者、反対する者は絶対に許さないという恐怖の支配体制は、国家の利益より己の利益を優先して阿諛追従する者たちが支配者の周りに集って必ず政策を誤り、国民は不満を募らせて人心は離反し、やがて滅亡に至るというのが歴史の示すところですが、マジョリティ側に身を置いた方が得だという国民の隷従的な心理と同調圧力によって、当面は高い支持が続く、というのがまた恐ろしいところです。
 対立と分断こそが資本主義の究極の姿だとの説がありますが、これをはるかに越えたのが中国の現在なのかもしれませんし、行き詰りの打開、国民の不満の解消、自分のレガシーの確立のために外へ打って出るのも権力者の常套手段です。
 海上保安庁法の改正のみが必要なのではありません。我々はこのような隣国の脅威に、常に備えなくてはなりません。

 4月25日から5月11日まで、東京・大阪・京都・兵庫の4都府県に3回目となる緊急事態宣言が発令されることになるようです。
 「蔓延防止等重点措置」では何が足りなかったのか、「緊急事態宣言」に何を期待するのか、デパートなどの大規模小売店舗やカラオケ店、酒を提供する店が何故休業要請の対象となるのか、何故イベントは無観客でなければならないのか。政府はその実証的なデータに基づいた根拠を示すべきですし、メディアもこれをきちんと確認しなければなりません。
 マスク着用、手洗い、消毒などを徹底したデパートやカラオケ店、声を出すことも禁止しているコンサート会場で、クラスターが発生したという話を寡聞にして聞きませんし、酔って大騒ぎをするのは駄目に決まっていても、一人または少人数での静かな食事を酒とともに提供することや、「一人カラオケ」までが何故営業停止の対象となるのか、その根拠はよくわかりません。
 一方で、鬱、認知症、糖尿病、免疫力低下、家庭内暴力、「産み控え」、果ては自殺が激増し、夜8時以降の閉店・消灯によって街は暗くなり、「路上飲み」とも相まって治安の悪化や犯罪の増加も懸念されています。
 真摯かつ懸命に対応している政府や自治体の政策に反対するものではありませんが、やるからには説明責任を果たすべきですし、国民が納得できない政策は決して持続可能性も実効性も持ちません。
 リスクとは常に相対的なものであり、問題なのは「場所」ではなく「行為の態様」なのではないかと思うところ、行政が民間に対して一律に禁止や要請をすることには少しく違和感を覚えています。

 今週読んだ本では「自衛隊最高幹部が語る令和の国防」(岩田清文・元陸上幕僚長・元陸将、武居智久・元海上幕僚長・元海将、尾上定正・元航空自衛隊補給本部長・元空将、兼原信克・元内閣官房副長官補の座談会。新潮新書新刊)を共感を持って読みました。陸・海・空自衛隊高級幹部を務めたお三方は私と同年代で、見識も能力も極めて優れた方です。
 以前ご紹介した「コロナとがん リスクが見えない日本人」(海竜社・2020年)の著者である中川恵一・東大病院准教授の「知っておきたい『がん講座』」(日経サイエンス社・2019年)からも大きな示唆を受けました。

 早いもので、来週末はもう5月となります。今年も桜の花見が出来ずに残念でしたが、日本列島はやがて藤や紫陽花、花菖蒲の綺麗な季節を順次迎えます。
 移動制限も課されるようですし、私が見られる機会は恐らくないのでしょうが、四季折々の美しさが楽しめる日本の有り難さを思います。
 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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