石破 茂 です。
解散・総選挙が早まり、今月14日解散、19日公示(日本国憲法による天皇陛下の国事行為。地方の首長や議員の選挙は「告示」という)、31日投開票という日程が報道されております。最も遅い11月28日投開票という日程も取り沙汰されておりましたので、衆議院議員は東京も地元も恐ろしく慌ただしい雰囲気になっています。今期の衆議院議員の任期は10月21日までですので、あまりこれを過ぎるのも好ましくないとの判断なのかもしれません。一方では、「本会議の代表質問だけではなく予算委員会の論戦を経るべきだったのではないか」との批判や、「新政権への期待とご祝儀相場が冷めないうちに選挙すべきということか」との冷ややかな見方もあります。
長く議員を務めて、解散・総選挙もこれまで10回経験していますが、これほど慌ただしいのは初めてで、地元の選挙体制作りや応援日程の調整に追われており、せめて初日と最終日は半日ずつでも地元に帰りたいと思っています。
また結成以来、苦労を共にして下さっている水月会の皆さんをはじめとして、この総裁選で思いを同じくした候補の応援には、出来る限りの時間を割きたいと思っております。
当選6回以降、選挙期間中に地元に居られることが少なくなりましたが、公示日から最終日まで全日選挙区にいて、朝6時から夜の10時過ぎまで(拡声器を使わなければ、午前8時以前と午後8時以降も選挙運動は可能です)全力で自分の選挙をしていた頃のことが懐かしく思い出されます。
選挙も今度で12回目となります。地元、後援者の皆様、スタッフ、家族に恵まれてここまでやってこられたことに心から感謝しています。今度も誠心誠意、取り組みたいと思っております。総裁選挙は、「負けに不思議の負けなし」というように、やはり負けるべくして負けたということです。
党員票で圧倒して議員票の伸びに繋げるとの構想でしたが、この伸びが今ひとつだったことですべてが崩れてしまったように思いました。街頭演説が出来なかったことも大きな痛手でしたが、総裁選挙は有権者である党員・党友に早めに候補者と自分自身の心のこもった手紙を送る、自分の事務所からも電話依頼を徹底する、地域や職域の支部長や幹事長には丁寧に依頼の挨拶回りをする、というのが基本的な手法であり、これがうまく共有されず、河野候補の知名度や、彼に対する期待を十分に生かせなかったのではないかと反省しています。総裁選挙も終わり、いよいよ主権者の審判が下される総選挙を迎えます。総裁選で自民党が変わることに期待したが駄目だった、さりとて野党に任せるわけにもいかない、もう今回は選挙に行くのをやめよう、という種類の「棄権」が増えることを怖れています。
小選挙区制は、投票率が50%の場合、その半分(つまり全有権者の25%)を取れば当選できるという制度であり、自民党に対する積極的な支持は3割以下でも7割以上の議席を持つことができます。このことに対する怖れを我々は忘れてはならないのですが、「棄権」は「消極的支持」と見做されるため、この怖れの気持ちはどうしても失われがちになります。これは自民党、日本国、民主主義すべてにとって決して良いことではありません。小選挙区制導入時にこの視点が欠落していたことにも、深い反省の念を持っています。(ちなみに「白票」を投じることはこれと異なり、積極的な批判となりえます。)「自民党はもはや変わらない」との失望感からか、「新党を結成せよ」とのご意見が多く寄せられています。
平成5年,集団的自衛権の容認、消費税の拡充など本来あるべき真の保守政党を目指していた新生党に自民党を離党して参加し、翌年には政権交代可能な二大政党としての新進党へと移行していくのですが、この時に味わった挫折感を私は終生忘れることはありません。
確かに小沢・羽田両氏を中心とした新生党は細川内閣という政権交代を実現させてその中核を占めたのですが、細川政権やこれに次ぐ羽田政権は短命に終わり、村山富市社会党委員長を首班とする自社さ政権の誕生を許すことになってしまいました。
自民党離党者による新党は、一時期旋風を巻き起こすことが出来ても、結局長続きはしないものです。
鳥取県においても新進党として自民党に敗けないだけの勢力を作ることが出来たのですが、党はその後、路線闘争や権力闘争に明け暮れて全国的には伸び悩み、自分は一体何のために政治家になったのかという思いが日々募り、無所属で立候補した平成8年の総選挙を経て、平成9年に自民党に復党しました。「青い鳥」は何処にもいないのです。
自民党の強さの理由は、自民党が日本社会をそのまま体現した多様な政党であることと、強固な地方組織を有していることです。そして自民党の問題は、野党時代の真摯な反省を忘れてしまったことであり、これをもう一度思い起こして再生させることは可能なのだと思っています。
これらについて、新刊の「自民党失敗の本質」(宝島社新書)に一文を載せましたので、ご関心がおありの方はご一読ください。本日午後の新総理の所信表明演説は、論点を網羅した卒のないものでしたが、これが岸田流、ということでしょう。
今を「国難」とおっしゃる危機意識を私は共有するものですが、その本質は何であるのか、それをどのように解決するのか、国民にも広く共有してもらえるように与党としても努力しなければなりません。経済政策に多くの時間を費やされましたが、ここ10年で賃金はわずか1.02%の伸び、韓国の1.35%増、アメリカや欧州諸国の1.2%増に比しても非常に低率で、OECD加盟国中第5位から第30位へと後退しています。円安によって円に換算した輸出企業の利益は上がっても、労働者の所得は上がらず技術革新も進んでいません。東京の中間世帯の可処分所得は全国最下位、出生率も全国最低でありながら一極集中は止まりません。これらがまさに危機の本質であり、これを直視してこそ新たな経済も国の形も構築できるのだと思います。岸田総理は的確な問題意識を持っておられると思いますので、今後の論戦に期待しています。新政権の体制が論功行賞や政権の利益のためではないことは極めて重要なことです。国家国民のため、このポストにはこの人しかいない、という考え抜かれた体制でなければ、不幸になるのは国民であり、次代の人々です。民間の組織でももちろんそうだとは思いますが、政府や与党の人事においてはこの点はより重視されるべきです。
週末は選挙区へ帰り、選挙期間中には行けないであろう地域を予め丁寧に回っておきたいと思います。
皆様、良い秋の週末をお過ごしくださいませ。