「VERDAD」連載 「田中康夫の新ニッポン論」Vol.102「黄色いバナナ」

弱体化するのはロシアだけでなく、ヨーロッパもアメリカも例外ではない。
その中で“漁夫の利”を得るであろう中国、インド。
良くも悪くも“バルカン政治家”を演じるイスラエル、トルコ、更にはサウジアラビア、UARアラブ首長国連邦の指導者。
世界は多極化しているにも拘らず、アメリカ一本足打法を続ける日本。
前回Vol.101「ユナイテッド・インディヴィジュアルズ」に続くVol.102「黄色いバナナ」

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「今回の『侵攻』が認められないのは明々白々。それは大前提。その上で我々は“脊髄(せきずい)反射”で熱(いき)り立つのでなく、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの東スラヴ地域での『戦争』状態を早期に終結させ、同じスラヴ系であるが故にロシアを“近親憎悪”的に敵視しがちな他の隣接国との関係も調整すべき」。都合33年に及ぶ浅田彰氏との「憂国呆談」最新回で僕は述べました。
シンガポール国立大学アジア研究所キショール・マンブバニ名誉フェローも「Washington’s Russia Policy Won’t Work in Asia」論考の中で、ジョージ・ケナンやヘンリー・キッシンジャーの「地政学的実践主義(ジオポリティカル・プラグマティズム)」を援用。「ウクライナのNATO加盟を無謀に主張し、西側諸国からの武器供与を加速させた面々は、ウクライナの地政学的な子羊を虐殺に導き、大規模な世界的不安定を生み出した道徳的責任を負うべき」と看破(かんぱ)しています。
実は2月25日の安全保障理事会でロシア非難決議案に中国、インドと共にUAEアラブ首長国連邦が棄権し、衝撃が広がりました。而(しか)して3月2日の国連総会ではBRICKSのインド・中国・南アフリカ、親日国のモンゴル・ヴェトナム・ラオス、更にパキスタン・バングラデシュ・スリランカの南アジア諸国も棄権。加えて24日の2度目の決議にはブルネイを含むASEAN加盟10か国中の3か国(ヴェトナム・ラオス・ブルネイ)が棄権。BRICKS構成国ながら当初は非難決議に賛成したブラジルも、「ロシアを名指しせず」人道の範囲に限定する南アフリカ提案決議案に賛同した50か国の中に名前を連ねています。
「中国に対抗して米国による関与の強化を示す」とJETRO日本貿易振興機構HPには記されている「インド太平洋戦略」をワシントンD.C.で発表後、「This Man Cannot Remain in Power.」とウラジミール・プーチン体制転換を高言して釈明に追われる「天気曇天ニシテ波高キ」ジョー・バイデン政権。
54基もの原子力発電所の維持管理すら儘(まま)ならぬにも拘らず、「核シェアリング」議論を米国と加速せよと熱(いき)る日本の従米・屈米派。80機の核弾頭を有する、きな臭い中近東で標的となる蓋然性(がいぜんせい)を認識し、原発を保有しないイスラエルの狡猾な安全保障の智慧(ちえ)。
そのイスラエルのナフタリ・ベネット首相はロシア、ウクライナの仲介に乗り出し、トルコのレジェップ・エルドアン大統領も露ウ両国対面協議の場を4度も提供。他方、サウジアラビアとUAEに原油増産を求めて首脳電話会談を打診するも袖にされた米国。イスラム教徒のシリア難民と異なり、諸手を挙げて白色人種のウクライナ難民を受け入れるEU。
「今回の戦争で世界秩序の再編が起こり、米国の力が後退、中国の台頭が進む。故にロシアは米国と距離を置くインド、トルコ、イラン等の国々とのネットワークを強化すべく、SCO上海協力機構を最大限活用するであろう」。外務省欧州局長を務めた東郷和彦氏の述懐(じゅっかい)と平仄(ひょうそく)が合います。
SCOには中露、印パ、中央アジア4か国のカザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン計8か国が加盟。オブザーバー参加がモンゴル、ベラルーシ、アフガニスタン、イラン4か国。そのイランの正式加盟を昨年9月に承認。トルコ、スリランカ、アゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパール6か国が対話パートナー。加えてイスラエル、サウジアラビア、バーレーン、シリア、モルディブ、エジプト、カタール、イラク等も参加申請しています。
豈図(あにはか)らんや資源輸入国な筈の中国のエネルギー自給率は8割。穀物自給率に至っては9割を超えます。露ウ合わせて世界市場で小麦の3割、大麦の3割、トウモロコシの2割、ヒマワリの75%を供給しています。
「アングロ=サクソン民族のエリート正会員で在りたい強い願望を抱く日本国民。即ち欧米人への劣等感、亜細亜に於ける近代人は自分達のみで中国人、朝鮮人、露西亜人よりも優越していると自負する両面価値観(アンビヴァレンス)を巧妙に利用せよ。然(さ)すれば連中は我々白色人種に従属し、黄色人種のアジアで孤立する」。
ドワイト・アイゼンハワー政権時代の国務長官で日米安全保障条約の産みの親として知られる反共の旗手ジョン・フォスター・ダレスの“妄言(もうげん)”です。
本来は、太平洋を挟んで向き合う米国と中国の“同時通訳国家”を目指すべきなのに、未だにアメリカ一本足打法を続ける非資源国ニッポン。嗚呼(ああ)、「黄色いバナナ」の「名誉白人」よ。
「黄色いバナナ」とは、ディズニーランドやマクドナルドに象徴される精神としての「ホワイト」に憧れながらも肉体は「イエロー」な敗戦後の日本人を指す符牒(ふちょう)です。


以下はメモ
「地政学的実用主義」
プラグマティズム
物事には戦略と戦術が有るように、時々刻々の戦況の先に如何なる様相が訪れるかを伝えてこそ

「ユナイテッド・インディヴィジュアルズ」と題する前稿Vol.101で、自縄自縛な「連帯を求めて孤立を恐れず」を超え、「自律に根ざし連携を拒まず」を希求すべきと述べました。まさしく37兆個もの人間の細胞が、そうであるように。
にも拘らず

1985年
恐らくは20代「矜恃と諦観」
「This Man Cannot Remain in Power.」
「Washington’s Russia Policy Won’t Work in Asia」

〔ギリシャ語の pragma(行動)から〕○1 一九世紀後半以降,アメリカを中心に展開された反形而上学的な哲学思想。デカルト以来の意識中心の立場を批判して,行動を重視し,思考・観念の真理性は環境に対する行動の結果の有効性から実験的検証を通じて帰納的に導かれるとする立場。パース・ジェームズ・デューイらによって創始され,現在では分析哲学との結びつきを強めてクワイン・ローティらのネオ‐プラグマティズムに引き継がれている。実用主義。○2 実際的な考え方。実用主義。

日米欧等67か国が採決に反対する一方、ロシア、中国、ブラジル、イラン等50か国が賛成。棄権36か国。

「田中康夫の新ニッポン論」Vol.101「ユナイテッド・インディヴィジュアルズ」
https://tanakayasuo.me/archives/31754
https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2022/02/dc52b9364e0343ecefb9ab4619bd2866.pdf

4月5日発売「ソトコト」連載「憂国呆談」での「ウクライナ」に関するY’assy発言部分を連続Tweetしています
⏩ https://twitter.com/loveyassy/status/1505277199498489856
ツイノートでもスレッドをお読み頂けます
⏩ https://twinotes.com/th/1505277199498489856

「ソトコト」誌面は発売後に
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