自宅で最期を迎えたいと願う本人と、
それをかなえるために自宅で看取りたいと願う家族。
その人たちをサポートする訪問診療や訪問看護などの医療・介護関係者。
ただ、そういった願いが崩れてしまう場合があります。
介護負担など様々な要因で最期を病院で迎える場合もあります。
しかし、それらの場合だけでなく、救急要請をしてしまうという場合があります。
癌などの疾病による痛みや不快感などが強いとき、在宅看取りを希望している方は訪問看護師や担当の訪問診療医に連絡し、指示を仰ぐことや、状況によって訪問を依頼することが一般的です。
ただ、意識が不鮮明になる中で本人が家族に救急車を呼ぶように強く要求する場合や、本人の苦痛表情を見るに見かねて家族が119ダイヤルをして救急要請をしてしまう場合などもあります。
それだけではなく、普段あまり関わっていない親族や知人などが訪問した際に、「救急車を呼ばないといけない」と強く説得するなどして、救急要請をすることもあります。
救急隊は要請された以上、救命処置を行わなければいけません。
一度119番通報が行われ、救急車が要請された以上は、医療機関に搬送されるまでは救急隊は救命救急処置を行う必要があります。
蘇生措置を途中でやめることは職務規定に違反し、本人が死亡した場合は保護責任者遺棄致死罪や殺人罪が成立するため、救急隊員は救命措置を止めることができないのです。
最後を自宅で迎えたいと願う本人や家族の願いとは裏腹に、
救急隊員による心臓マッサージやAEDによる電気ショック、
さらに病院搬送後も気管切開や人工呼吸器、点滴による高濃度栄養輸液などが行われます。
本人も家族も望まなかった救命処置が行われ、自宅に戻ることができずに病院で最期を迎えるという事例も増えています。
横浜市の調査によると、横浜市消防局の救急隊員のうち、94%が現場到着後に傷病者の家族等から心肺蘇生を希望しない意思を伝えられたという経験をしています。
緩和医療と救命医療。
ふたつの医療の間で、本人や家族の願いをかなえるためにはどうすればいいのか。
日本臨床救急医学会では、心肺蘇生等を希望しない傷病者への対応に関する基本的なあり方として、標準的活動プロトコルに基づいて救命処置を中止する仕組みづくりが行われています。
救急隊による救命措置を中止するためには、医師の指示が必要になります。
訪問診療医などに直接電話連絡がつながらない場合は、心肺蘇生を求めない旨の医師の指示書で具体的な指示が記載されていれば救命処置を中止することができます。
大切な人の最期を迎えるための時間、誰しも冷静な状態でいられるとは限りません。
どんな状況でも本人や家族のリビングウィルを尊重し、実現することができる医療の実現が求められます。