南海トラフ地震による被害想定(あらゆる可能性を考慮した最大クラス)によると、冬の午後6 時に地震が発生した場合、名古屋市内で約 21,000棟が消失する可能性があると想定されている。各ご家庭で冬場に広くストーブ等の暖房器具が使われることで、危惧の転倒による火災が多く発生する可能性があるからだ。とりわけ老朽化した木造住宅が密集する地域や道路が狭隘な地域では、火災時に延焼が広がりやすく延焼防止に向けた対策が急務だ。
さて、(木)造住宅が密集し狭隘道路が広がる鳴尾地区(南区天白川沿いの地域)では、初期消火により火災延焼を防止するため耐震性防火水槽の設置を予定していたが、地盤調査の結果、地盤が軟弱なことが判明し、設置しても防火水槽が沈下するなどして機能を果たさない可能性が指摘された。
そこで令和2年度・3年度に調査検討を進めた結果、当初予定していた重いコンクリート製の耐震型防火水槽ではなく、軽量な鋼製の防火水槽を設置すること、また、地下水の浮力による浮き上がりを防止するため、水槽の上部と下部にコンクリートを一体化させ、付近の地盤に適した重量に改良して設置することが決まった。なお、このような工法は名古屋市内では前例がないという。
さらに軟弱地盤では、地面を掘ってもすぐに崩れてしまうため、耐震性防火水槽の設置工事にあたっては、潜函工法を採用することが決まった。潜函工法とは、鋼製防火水槽の側壁を地上で組み立て、内部を掘削しながら徐々に埋めていく工法で、側壁自体が土留めとなり、周囲土壌の崩れを防ぎながら設置することができる。
名古屋市内の防火水槽設置ではかつてないほど軟弱な地盤への耐震性防火水槽の設置工事。初期消火に大いに資する防火水槽の設置は住民からの期待も大きく、1日も早い設置が期待されているが、軟弱地盤にバランスよく耐震性防火水槽を浮かせて設置する工法を考えた技術者には感心するばかり。