セクハラ問題と軍法など

 石破 茂 です。
 北朝鮮が異例の頻度でミサイルの発射を続けている意図は不明ですが、その能力が確実に高まりつつあることに対する我が国の対応は十分とは言い難いものがあります。「許されざる暴挙であり最大限に非難する」といくら言ってみても、相手は何ら痛痒を感じないのであり、問題はこれだけ安全保障環境が激変する中で、日本の「専守防衛に徹する」「非核三原則は堅持する」等の根本的な姿勢を維持したままでよいのかが問われます。
 「専守防衛」は畢竟、国土が戦場になることを所与のものとする最も難しい防衛姿勢であり、持久戦を本質とするため、人員・弾薬・燃料・食糧等々が十分に確保され、継戦能力が維持されていなければそもそも成り立つものではありませんし、国土の縦深性を欠いている我が国においてはその困難性がさらに高いことを正確に認識しなければなりません。政府は一貫して専守防衛を「憲法の精神にのっとった防衛戦略」(安倍内閣答弁書・平成27年3月24日)と言い切っており、ここにいう「憲法の精神」とは、憲法の三大原則の一つである「平和主義」のことである以上、これを変更するのは容易なことではありませんが、平和主義と専守防衛はいかなる論理的整合性を持つのかを根本から議論すべき時期に来ていると思います。
 これに比べれば核兵器の保有については、政府として「(必要最小限度に留まるものがあるとすれば)保有することは必ずしも憲法の禁止するところではない」(同・平成28年4月1日)との考えで一貫しており、必要最小限度論に若干の無理はあるものの、憲法的な制約は少ないと言うべきですが、核共有についてさえ議論がほとんど進捗していないことは極めて由々しき問題です。
 今回の北朝鮮のミサイルは4600キロを飛翔し、グアムまで届くことを実証したのであり、アメリカ西海岸、東海岸まで到達する能力を持つのも時間の問題です。ここで拡大抑止(核の傘)の実効性を高めることを議論しないでどうするのか。
 4日火曜日早朝に発せられたJアラートも、不正確で遅いと批判されました。5年前にも類似の事態があり改善を求めたのですが、その後政府としてどのような対応をとったのか、何故今回、官房長官が「システムの不具合があった」などと弁明するようなこととなったのか。シェルター整備の決定的な遅れも本質は同じですが、国民保護についての政府の見識が問われており、与党としてこれを早急に正さねばなりません。

 自衛隊内でのセクシャル・ハラスメント問題の本質は「軍隊(自衛隊)内の規律をいかに維持すべきか」ということだと思います。被害にあった女性自衛官は防衛大臣の直属組織である警務隊に訴えたのですが、検察が「被疑者を有罪にする十分な証拠がない」として不起訴処分としたため(検察審査会は9月12日に不起訴不当と議決)、今回の告発に至ったとのことです。
 近代において、どこの国の軍隊にも軍刑法と軍法会議をセットとする「軍司法」が存在しているのは、軍隊が「国の独立の保持」という目的の実現を図る重要な組織であることに加え、他のいかなる組織も抗えない実力を持つ軍隊が、国家体制(民主主義国家においては民主主義体制)の破壊や人権の蹂躙などの重大な事態を引き起こすことを防ぐためである、とされています。そのため、軍司法の主目的は「軍の秩序の維持」であり、副目的として「軍人の人権の保全」が挙げられますし、性格上、迅速性と専門性も要求されます。
 今の日本においては「そもそも『軍』は存在しない」「憲法第76条の定める特別裁判所禁止の規定に抵触する」との理由により設置されておらず、その取扱いはすべて刑法(行政刑法などの特別刑法を含む)と一般の司法に委ねられています。本当にそれでよいのか、真剣な議論が必要です。
 自衛隊は日本国における最高の実力組織であるが故に最高の規律が求められるのはむしろ当然のことです。国民の基本的人権が侵害されたときに、これを守ってくれるのは国家しかありえないのですが、国家自体が存亡の危機に瀕した時に国の独立を守る組織には最高の規律が保たれていなければなりません。そしてこれに携わる人たちには最高の栄誉が与えられてしかるべきです。
 このような考えの下、自民党の平成24年憲法改正草案は「国防軍に審判所を置く」と定めましたが「命令違反した者を重罰に処そうとしている」「旧憲法下の軍法会議の復活を目論んでいる」などとマスコミや世間の評判は極めて悪く、その後の議論は全く進展していません。ご理解が得られていないのは私の説明能力不足と不徳の致すところですが、軍隊の本質を看過することはむしろ極めて危険なことだと思います。言うまでもなく、「非公開・一審制・弁護人なし」などという旧軍法会議の欠陥は改めることが前提です。
 自衛隊や自衛官に憧れて入隊した隊員に、失望感を与えてしまったことは実に残念なことであり、私を含めて政治の責任も極めて重いことを深く認識しています。今回の事案において、この視点から論ずるものが全く無いので、敢えて書かせて頂いた次第です。
 なお、このテーマに関しては「軍法会議のない『軍隊』」(霞信彦 慶大名誉教授著・慶應義塾大学出版会刊・2017年)で詳しく論じられていますので、是非ご参照ください。

 本日、日本橋室町の三井ホールで開催された「木づかいシンポジウム2022」に「CLTで地方創生を実現する議員連盟」の会長として参加して短い講演を致しましたが、多くの参加者を得て盛況でした。
 日本の国土面積に占める森林率がフィンランド、スウェーデンに次いで世界第3位であること、木の体積である森林総蓄積量がカナダ、アメリカ、コロンビアに次いで世界第4位であること、は知っていたのですが、主に木材利用に供される目的で植えられた人工林の総蓄積量がアメリカに次ぐ世界第2位であることは今回初めて知りました。
 北欧や北米に比べて不利な条件も多々ありますが、日本の森林資源を最大限に活用するのは、地方創生の観点からも極めて重要かつ有望なことであると改めて認識致しました。建設・建築のみならず、銀行・保険などの金融界からも多くの参加がありましたが、東京海上日動の隅相談役(元社長・元会長))のお話からは今回も大きな示唆を受けたことでした。

 今日の都心は冷たい雨模様の一日となりました。季節の変わり目、皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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