緊急事態宣言延長など

 緊急事態宣言が47都道府県を対象として延長されました。一方で、未だに解決されていない点も残っています。
 例えば、総理はPCR検査を一日2万人まで増やす、と以前から明言されているのに、一向に増えないのはどうしてなのか。これについては、
①陽性患者が「陰性」と誤判断される確率が3割程度あり、これがウイルスを拡大させる危険性がある
②検査を求めて検査機関に人が殺到して現場が混乱し、医療関係者に感染が拡大する危険性がある
③検査に必要な人員・機器が不足しており、早急な確保は難しい
との3点が指摘されてきましたが、少なくとも③について、2カ月前と同じことを言うのは説得力を持つものではありませんし、②についても方策はあるはずです。①についてはどの検査でもある程度同じことが言えますが、検査をしなければ疫学的に今後の戦略を練ることができません。何が問題で、それをいつまでに、どのようにして改善するのかが見えないことに、国民は不安を感じているのではないでしょうか。

 医療用マスクやガウンも依然として足りないようです。メーカーは増産体制に入り、刑務所でも作業を行うと報道されていますが、これもまた同様に、具体的に、どこでどれだけ足りないのかが把握できていなければ、現場にモノは渡りません。それこそ、緊急事態宣言の下にあるのですから、各知事が県内の状況を具体的に把握し、不足物資について買い上げ、売り渡し要請を行うことが求められます。
 
 このように、緊急事態宣言を延長することの意味は、国民に自粛を求め続けることだけにあるのではありません。それぞれの知事が都道府県内の状況をつぶさに把握し、国任せではなく自らの権限としてこれを最大限に行使するのが本来の趣旨であり、それは医療用器具に限ったことではありません。

 新型コロナウイルスの治療薬として、「レムデシビル」が本日承認にこぎつけました。続いて「アビガン」も5月中の承認に向け作業を加速するとのことです。先週も申し上げた通り、これは一日も早く行うべきです。すでに政府は「観察研究」の枠を拡大すべく通知していますが、病院の倫理委員会の許可などの手続きをさらに簡素化・迅速化するとともに、承認自体の手続きもさらに急ぐ方策を探るべきと考えます。「レムデシビル」の特例承認がこれだけ早いのであれば、海外の治験・承認を端緒として、同様の特例承認とすることもありうるのではないでしょうか。

 アメリカのポンペオ国務長官は6日、「中国の武漢研究所からのウイルス流出説に確たる証拠はない」と述べましたが、これはトランプ大統領の「中国はひどい間違いを犯したが、これを認めたくないので隠蔽を試みた」(5月3日)という発言とどのように整合するのでしょうか。米国大統領の確たる証拠を示すことのない発言で世界が混乱し、米国の信頼が揺らぐことは、世界のためにも日本のためにもなりません。
 他方、古来より中国は、支配者と被支配者が歴然と分かれた「官民乖離」の国と言われています。つまり、中央が地域や民間の状況を十分に把握していない間の初動は遅れるのですが、ひとたび中央の意思が決定すれば、被支配層や地域に対して強権的かつ迅速に対応する国だということです。中国の少なくとも一部には、「このような中国のシステムは危機に迅速に対応できるものだから、世界に広げるべきだ」とする意図があり、この誘惑にとらわれる国が出ることも予想されます。これが、「民主主義への挑戦」と言われる所以です。
 民主主義が正常に機能するためには、3条件、すなわち
①多くの有権者が選挙に参加すること(投票率の向上)
②有権者の判断に必要な情報が公平・公正・正確に提供される言論空間が存在すること
③少数意見が尊重されること
が満たされねばならず、同時に三権分立が正しく機能しなければなりません。
 日本における三権分立は、最高裁判所裁判官国民審査の形骸化、議院内閣制における行政権の優位などにより、近年その機能が低下しつつあると考えます。これを回復するためには、憲法改正において臨時国会召集に必要な期間の明記(自民党改正草案においては「衆・参いずれかの総議員の4分の1以上の要求があった時に20日以内に召集」としています)や最高裁裁判官国民審査の方式の変更(同草案においては立法化を明記しています)などにより、司法や立法の権能の強化を図らなければバランスが取れません。

 外交評論家の岡本行夫氏が4月24日、逝去されました。享年74歳。
 外務省安全保障課長時代からのお付き合いで、小泉内閣において自衛隊のイラク派遣を実施した際には、小泉総理の補佐官であった岡本氏と何度も協議したものでしたし、その後も折に触れて多くのご教示を頂いて参りました。アメリカをはじめとする日本外交を知り尽くした上での冷静な分析力、透徹した確固たる歴史観、祖国日本と人々に対する限りなく温かい眼差しを持った方でしたし、いつの時にも心のこもった見事な文章やスピーチを披露される方でした。特に2003年、イラクにおいて奧克彦・外務省参事官(当時。没後大使に特進)が射殺された際、「君は死んで英雄になったのではない。英雄が死んだのだ」とスピーチされたことは強烈に印象に残っていますし、小坂憲次・元文科大臣が逝去された際、友人代表として述べられた弔辞にも深く感動させられたものでした。
 まだまた多くのことを語り合い、ご教示を頂きたかっただけに本当に残念でなりません。御霊の安らかならんことを切に祈ります。

 連休中、本や資料の精読に努めたのですが、(やはり、というべきか)計画の半分も出来ませんでした。その中で、「首都感染」(高嶋哲夫著・2010年・講談社文庫)には、これをもっと早く読んでおくべきであったと痛感させられました。ご一読を強くお勧めいたします。
 皆様、良い週末をお過ごしくださいませ。

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石破茂
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