石破 茂 です。
気がかりだった5月9日のロシアの独ソ戦(大祖国戦争)戦勝記念日には、懸念されていた核兵器の使用も、戦争体制(戦争は国際法的に違法化されているので、正確には国民の召集や権利の制限、物資の収用などを可能とする戒厳体制)への移行宣言も無く、淡々と諸行事が行われました。それだけに、この戦闘状態は逆に長期化するのではないかとも思われます。
ロシアの暴挙は決して容認できない、プーチンを戦争犯罪人として軍事裁判にかけるべきだ、などという「暴露膺懲」的な議論もありますが、戦闘の勝利をもってこの結果を求めようとすれば、無辜のウクライナ市民や何も知らされないままに命令に従って行動しているロシア兵がさらに傷つき、その命が失われていく現状が続くことを認識せねばなりません。
今一番重要なのはとにかく戦闘状態を止めることの一点に尽きるのであり、それはプーチンに味方することとは全く別のものです。戦闘で正義を追求する限り、核の使用を防衛戦略に明記しているロシアの核使用のリスクを孕みながら死傷者が増え続けることになってしまいます。国連はこれを念頭に置いて行動すべきですし、インドが微妙な立場を堅持していることにも注目が必要です。
プーチン大統領はグテーレス国連事務総長との会談において、「ロシアは国連憲章第51条の集団的自衛権を行使している」と述べていますが、ロシアが一方的に「独立」させた「ドネツク人民共和国」や「ルガンスク人民共和国」がウクライナから急迫不正の武力攻撃を受けたわけでもなく、傀儡国家による救援要請は集団的自衛権行使の要件を満たさないのであって、この主張は国際法的に明らかな誤りです。それが分かっているからこそ、「特別軍事作戦」という耳慣れない言葉を使っているものと思われます。
間違っているのは明らかにロシアであり、徹底的に糾弾されるべきものですが、それはこれ以上人命が失われる事態を防いでからでも可能なはずです。
この連休中、いくつかのテレビやネットメディアに、核シェアリングと、シェルター整備を中心とする国民保護体制に関連して出演したのですが、私の年来の言い方が不十分だったためか、世論の認識の低さには驚くばかりでした。
核シェアリングは核の使用に関し、拡大抑止(「核の傘」)を提供する国との間で、意思決定過程と政治責任を共有する体制を本質とするものであり、正確には「核シェアリング体制」と称すべきものです。これについて何ら議論をしないままに「アメリカの拡大抑止の信頼性を向上させる」といくら言ってみたところでほとんど意味はありません。
拡大抑止の実効性を確保する体制も、国民保護の整備も、制服軍人の確保も(政策的な当否は別として北欧やスイスをはじめとする諸国は徴兵制を採っています)、民間防衛組織も全く不十分なままに今の危機的状況を迎えてしまったことは、一にかかって我々政治、なかんずく安全保障に長く関わってきた私自身の責任が極めて重いことを、改めて痛切に感じております。
有事法制を成立させた後しばらくは、テレビなどでも多く説明の機会を与えられ、これに応えて国民保護の避難訓練などを行った自治体もあったのですが、その後残念ながらこの動きは全くなくなってしまいました。
欧州諸国では法律や予算の裏付けのもと、核抑止や国民保護の体制を構築してきました。それよりはるかに安全保障環境が厳しい我が国において、今早急にこれらの課題に取り組まなければならないことは自明すぎるほど自明のことです。近々予定されているバイデン米国大統領の訪日の際、首脳会談においてこのテーマは是非とも日本側から提起してもらいたいものですし、それが大きな抑止力の向上に直結するものと考えています。
さる4日、元産経新聞ロンドン支局長・九州総局長で、安全保障政策に高い見識を持っていた軍事・外交ジャーナリストの野口裕之氏が63歳の若さで急逝されました。在学中は存じ上げなかったのですが、慶應義塾高校・大学で私の2級下にあたりました。
「タカ派の中のタカ派」との異名をとっておられましたが、産経新聞に連載していたコラムは偏狭な精神論を排した冷静かつ国際的な広い視野に裏付けられたもので、随分と示唆を受けたものでした。数年前に「専守防衛の本質は持久戦であり、米軍の来援までの間、人員・弾薬・燃料・食料が十分になければ、そもそも成り立たない。加えて国土が狭隘で縦深性に欠ける日本においてこれを行うのは極めて困難だが、日本にはその意識が無いままに『専守防衛』さえ唱えていれば大丈夫だと思っている政治家が多いのではないか」という趣旨のコラムを読み、まさしく然りと思ったことでした。「野口裕之の安全保障読本」(PHP研究所・2014年)を再読してみたいと思います。
一昨日ミサが執り行われ、参列させていただきましたが、実に安らかなお顔をしておられました。御霊の安らかならんことを心よりお祈り申し上げます。
連休中、あれもこれもと随分と読むべき本を積み上げたのですが、ほとんど読まないまま、もしくはよく理解出来ないままに終わってしまいました。雑誌では「『プーチンの戦争』が揺らした世界の秩序」(鈴木一人・小泉悠・細谷雄一・奈良岡聡智の4教授による座談会・「公研」4月号・公益産業研究調査会)、「令和の『敵基地攻撃能力』の全貌」(尾上定正元空将・「軍事研究」6月号・ジャパン・ミリタリー・レビュー)から貴重な示唆を受けました。
「日本は第二のウクライナになるか」(第二海援隊刊)、「戦略の地政学」(秋元千明著・ウェッジ刊・2017年)も、随分と参考になりました。
「核兵器の拡散 終わりなき論争」(スコット・セーガン、ケネス・ウォルツ著・川上高司監訳・勁草書房)はとても内容の深い本ですが、未だ読了しておりません。今月中に何とか読み切ってしまいたいと思っていますが、難しすぎて無理かなと危惧しております。
週末は、14日土曜日が「参議院千葉選挙区・臼井正一候補予定者 総決起大会in安孫子」で応援演説(午後2時・アビイホール・我孫子市本町)、「中部大志会 令和4年度第1回例会」(午後6時半・倉吉市内)。
15日日曜日は自民党鳥取県連 県中部 街頭宣伝行動(午前8時半・JA河北支所、午前9時10分・三朝町役場、午前9時50分・JA満菜館・倉吉市西倉吉町)、政府主催 沖縄復帰50周年記念式典(午後2時・グランドプリンスホテル新高輪)、との日程となっております。
大型連休も終わり、7月18日の海の日まで祝日はありません。日本の祝日数16日は世界第3位の多さだそうですが(1位はインドとコロンビアの年間18日)、6月は12月とともに祝日のない月なのですね。祝祭日といっても本当に休める日はごく僅かなのですが、やはり気分的には楽な思いが致します。
今週火曜日あたりから永田町も平常の日々が戻ってきました。連休に英気を養われた方も、変わらずにお仕事をなさった方も、どうかご健勝にてお過ごしくださいませ。