石破 茂 です。
北朝鮮のミサイル発射が依然として続いています。飛翔距離の延伸と、着弾の正確性は着々と実現されつつあると見なければなりません。
我々の反撃能力も一朝一夕にして得られるものではなく、法的な整理と装備品の開発・取得は、今までのやり方を根本から改め、少しでも早い能力の具備に努めねばなりません。反撃を日本単独で行うことはあり得ず、どのようなときにどのような部分を米国や韓国に委ねるのか、運用面の詰めも早急に行う必要があります。
「専守防衛」のもとにあって、「先制攻撃」との批判を回避するためには、第一撃が行われることを所与のものとするのか。イージス艦搭載のSM-3も、SM-3で墜とせなかった場合に備える地上配備のパトリオットも、迎撃が100%確実ということはあり得ず、だからこそ国民保護の確実性を高めるためにシェルターなどの避難施設や民間防衛組織の整備、避難訓練の充実が急務となります。
韓国では全国の地下鉄駅や地下街などが民間防衛避難所に指定され、その数はソウル市内だけでも3000ヵ所にのぼり、核大国の旧ソ連・現ロシアと長大な国境を接するフィンランドでは一定規模の床面積を有する施設にはシェルターの設置が法的に義務付けられ、首都ヘルシンキの大深度地下鉄駅など約5500ヵ所に90万人を収容できるシェルターがあり、スウェーデンも全国各地のシェルターに全国民の7割が収容可能とのことです(古谷知之・慶大教授の論説による)。
世界各国のシェルターがどれほどあり、いかなる機能を有し、法的にどのように位置づけられ、整備に要した費用と期間がどれほどなのか、政府に調査を要請したのはもう数年も前のことですが、まだ整備費用と期間については揃っていません。ソ連が強大な核大国であった冷戦時代に、フィンランドやスウェーデンがNATOにも加盟せず、核武装もせずに独立を保持できたのは、このような営々たる努力があったからに違いありません。他方、ロシア・中国・北朝鮮という核保有国に囲まれた日本は、ひたすら米国の核抑止力に頼り、その実効性の検証も行わず、国民保護の体制もほとんど進まないままに今日を迎えてしまいました。政治の責任は、もちろん私も含めて極めて重大です。
本日も北朝鮮はICBM級と思われるミサイルを発射し、我が国の排他的経済水域内の日本海に落下したものと推定されています。弾頭重量によっては15000キロメートルが射程距離となり、米国全土を含むとされています。
日本政府は「断じて容認できず、我が国として北朝鮮に対し、北京の外交ルートを通じて厳重に抗議し、強く非難した」としていますが、日本政府の誰が、北京の誰にこれを伝え、それが北朝鮮の誰に伝わり、誰からどのような返答があったのか。「北京の外交ルート」とは一体何を指しているのか、中国政府ではないのか。これを本夕急遽開催された自民党国防部会・安全保障調査会合同会議で政府に質したのですが、「手の内を明らかにすることになるので答えられない」とのことでした。
これは最近の政府がよく使うフレーズですが、実は何もしていなくてもわからない。昨日、総理大臣はバンコクで中国の習主席と会談され、その翌日にこのような事態となりました。中国は北朝鮮の後ろ盾であり、ミサイル発射を容認しているのはほぼ確実ですが、その中国を通じて何をどう伝えたのか。政府にはきちんと答える義務があるのではないでしょうか。
その他にも、落下予想地点にいる航空機や船舶に情報を伝達したと言うが、伝えた後にどのような行動をとるべきかについて事前に指示をしていたのか、今回の軌道はおそらくミサイルからの電波をキャッチできるのが北朝鮮国内に限られるからなのであり、実際にはどこに落下したのか、それはどの国がどのように把握するのか、画像情報をとる周回衛星の機数を増やせば、発射の兆候を把握できるようになるのか…等々の私の問いに、誰も明確に答えませんでした。
これは一体どういうことなのでしょうか。北朝鮮側の相手が「手の内を明らかにする」ので言えないというなら、せめて日本側の誰が発信したのかくらいは報告できるはずです。これほどにミサイルを発射されて、今までと同様の対応で良いはずはありません。これは政府が与党をも軽視している、ということなのでしょうか。官僚は国民を見くびっているのか、それともモノを言えば、自分の立場が危うくなるので発言をしないで黙っているのでしょうか。
野党ではなく、自民党こそがもっときちんと監視をしなくては、この傾向は変わらないように思います。相手が政府であろうと、言うべきことを言わないのは、与党議員としての責任を放棄することだと私は思っております。加えて、政府に設けられた「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の内容とされるものが某紙に掲載されていましたが、その内容自体はともかく、なぜ与党への説明や与党との協議がなされる前にこのような記事が出るのでしょう。情報管理の甘さを非難すべきか、意図的に流したと考えるべきか、いずれにしても政府と与党との信頼関係、政府と言論の緊張関係に大きなヒビが入ってしまいます。危機感を持つのは私だけなのでしょうか。
内閣府が発表した7~9月期の国内総生産の速報値は年率換算で1.2%の減少とのことでした。これは主に個人消費の伸び悩みによるものですが、ではなぜ個人消費が伸び悩むのか。結局、「大胆な金融緩和を行い、物価が上昇すれば個人消費は上向く」のではなかった、ということではないでしょうか。原因はやはり、将来不安を払拭できないことにあるのではないでしょうか。
社会保障に裨益することの少ない非正規労働者は、多少の賃金上昇があっても貯蓄に回し、消費に向かわない。これは実は正規労働者も同じなのではないか。多くの企業が最高益を得、賃金として「分配」しても、社会保障制度を改革しない限り、個人消費は上向かないように思います。11月も後半となります。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。