労働運動の本旨など

 石破 茂 です。
 護衛艦「いなづま」の座礁事故から二週間余りが経過しましたが、事故原因について「人為的な事故の可能性が高い」旨を海上幕僚長が会見で述べた後は、何らの発表もありません。これは海上保安庁巡視船「えちご」についても同様です。
 2008年にイージス艦「あたご」と漁船との衝突事故が起こった時、以後艦橋にはレコーダー(画像記録装置)を装着するようにしたはずなのですが、この映像は誰がどのように確認したのでしょう。そもそも装着されていなかったとすれば、「あたご」の事故の際の決定は一体何だったのでしょう。この映像を見れば、事故の状況はかなり明確に判明するように思われます。
 「あたご」の事故の際に防衛大臣を務めていた私は、情報の隠蔽だの歪曲だのと野党やマスコミから散々批判されましたが、国家の独立を守るという任務を与えられている艦が、守るべき国民の乗った漁船に衝突するという、あってはならない事故を起こした以上、捜査機関である海上保安庁を所管する国土交通省の冬柴大臣(当時)にお断りしたうえで、捜査に支障のない範囲において、判明した情報はその日のうちに速やかに公表するという方針で臨みました。軍艦(護衛艦)は国家を体現する艦であり、国民の期待と信頼を一身に集めるべき艦である以上、規律は最も厳正でなくてはならず、僅かなミスもあってはなりません(なお、本事案は刑事裁判では事故発生時の当直士官と、事故直前の当直士官2名に無罪判決、海難審判では事故主因を「あたご」側とする採決が確定しています)。精神論や根性論に堕すことなく、そのための施策に万全を期すのが政治の役割だと私は信じています。

 

 政府は「少子化こそ我が国最大の課題」とし、「子ども予算を倍増する異次元の政策」を打ち出すことを表明しました。方向性は正しいのですが、この問題においては抽象的な「国」というものに意味は少なく、婚姻率や初婚年齢、合計特殊出生数が47都道府県、1718市町村によって大きな開きがあることにもっと着目すべきだと考えています。どの地域にも同じ国策が適用されているのに、このような開きが生じる原因をよく精査した上で、最も効果の高い政策を打ち出さなければ、議論がまた財源論に終始してしまうことになりかねません。
 フランスのように婚外子が社会に定着していない以上、結婚しなければ子どもが生まれない日本の現実において、1970年に男性1.70%、女性3.33%であった生涯未婚率が、2020年には男性28.3%、女性17.8%とそれぞれ16.6倍、5.34倍になったことにも、男性の未婚率の増加が女性のそれより3倍も高いことにも、改めて驚愕させられます。1985年からのこのように急激で大きな変化には必ず社会的な要因があるのであって、結婚したくてもできない低所得層の増加がその最大の要因であることは間違いないでしょう。この方々の雇用を安定させ、所得を増大させることこそが喫緊の課題であり、政策はこれに集中させるべきものと考えます。

 

 最近の若い方々に「以前はストライキで交通機関が止まっていた」という話をすると一様に驚かれますが、実際昭和40年代から50年代にかけて、交通機関に限らず賃金の引き上げを求めてストライキはしばしば行われていました。
 労使協調路線でストが無くなったこと自体は歓迎すべきなのでしょうが、労働組合が労働者の待遇改善を求めて闘わなくなったという面もあるのではないかと思います。政治目的で行うストは迷惑千万ですが、待遇改善を求めて経営者と闘う際には、世論はストライキを通じて、いずれの主張に理があるのかを判断していたようにも思います。労働者のためにも非正規の被雇用者のためにも闘わず、賃金の引き上げ分は減税によって賄うなどという主張があるとすれば、それは労働運動の本旨からは外れているのではないでしょうか。保守的な環境に育ったものの、高校生の頃、石川達三の社会派の作品を愛読していたせいなのか、そのような思いがしてなりません。政治、言論、労働運動などの緊張関係が急速に薄れつつあることに危機感を覚えるのは私だけではないと思います。

 

 今日の日経新聞朝刊によれば、政府は2024年度にもシェルター整備に取り組むとのことです。内容も規模も明らかではありませんが、拒否的抑止力の強化のみならず、大規模災害に対応するためにも、早急に進捗させなければなりません。ここまで来るのに20年近くかかったのかという思いも致しますし、私の主張が受け入れられるまでには相当の時間がかかるのはいつものことですが、遅きに失しないことをひたすら願います。

 

 明日から来週末にかけて、様々な講演やテレビ番組収録などで慌ただしい日々が続きそうです。中には本業とほとんど関係のないものもありますが、政治に無関心な方が興味を持ってくださることに少しでも役立てばよいなと思っております。

 

 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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石破茂
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