山口享先生、森田実氏、田勢康弘氏ご逝去など

 石破 茂 です。
 1月31日、元鳥取県議会議長 山口享(すすむ)先生が逝去されました。享年88。全国都道府県議会議長会長、自民党鳥取県支部連合会長などの要職を歴任され、私が鳥取県に帰った昭和59年以来、長きにわたって後援会長もお務めいただきました。
 亡父・石破二朗が鳥取県知事を退任後、参議院議員に転じ、近寄る人が格段に少なくなってもずっと傍で支えてくださり、昭和55年7月、鈴木善幸内閣で自治相に就任した時も、政務秘書官人事や地元の祝賀会などを取り仕切っていただきました。病気で大臣を辞任し、翌56年9月に地元鳥取で逝去した時も最期を看取ってくださり、田中角栄先生の鶴の一声で私が衆議院に出馬することになって以来、本当にお世話様になりました。
 衆議院選挙、参議院選挙、県知事選挙等々幾多の選挙がありましたが、鳥取県政治の転換点にはいつも山口先生の存在があり、先生なくしては私も、片山善博県政も、現在の平井伸治県政もあり得なかったことでした。
 当時全国最年少での初当選、候補者中ただ一人消費税賛成を訴えて戦った2回目の選挙、宮沢内閣不信任に賛成票を投じて無所属での立候補となった3回目の選挙…一番厳しいときに支えていただいたご恩を終生忘れることはありません。
 政治家の常として毀誉褒貶は相半ばするものでしょうが、選挙に対する執念とも言える熱意と、会った人の顔と名前を決して忘れない驚異的な記憶力、一度決めたら決して中途で迷うことなく最後まで突っ走る行動力は、決して他の人が真似できないものでした。ダミ声で語られるあの八頭(やず)弁をもう聞くこともないと思うと、寂しさで一杯になります。
 ご葬儀は故人のご遺言によりごく内輪のご親戚と関係者のみで2月4日、出身地の鳥取市河原町(旧八頭郡河原町)北村のご自宅で執り行われました。豪放磊落な印象でしたが、とても細心で賑やか好きな寂しがり屋の一面もお持ちでした。統一地方選が終わった後、しめやかな中にも賑やかで心のこもった偲ぶ会を開けたら良いなと思っております。
 初当選から37年、当時お世話様になった重鎮の方々はこれですべて居られなくなってしまいました。来し方を思うとともに、自分に残された時間もそう長くはないことを痛感したことでした。

 厳寒の季節のせいか、訃報が相次ぎます。決して権力に阿ることのない気骨の言論人、ジャーナリストであった森田実氏、田勢康弘氏が今週相次いで亡くなられました。
 森田先生に親しくご指導頂いたのは最晩年の数年でしたが、深い教養と鋭い洞察力、ひたすら平和を希求される高い志にいつも感動させられたものでした。政治家は中国の古典、特に論語を再学習しなければならないと再三口にしておられたのが強く印象に残っています。昨年末の長寿をお祝いする会でお姿を拝見したばかりでしたので、信じられない思いが致します。本日、森田先生より遺稿となった「ふくしま 地球文明の未来を」が送られてまいりました。最後まで本当にご立派な方であったと思います。
 田勢康弘さんとはテレビ東京の対談番組「田勢康弘の週刊ニュース新書」で何度もご一緒し、多くのことを教えられました。対談中のスタジオ内を「まーご」という名の猫が歩き回るという面白い番組でしたが、番組中にふと見せる田勢さんの温かい眼差しが忘れられません。昭和歌謡にも造詣が深く、海上自衛隊東京音楽隊の有志をバックバンドにした全日本歌謡選手権的な催しも企画しておられました。ここ数年、お目にかかる機会もないままに突然のご訃報に接することとなってしまったのがとても残念です。
 権力に媚びることも、阿ることもしないジャーナリストであった中村慶一郎さんも2020年に物故され、またお二人が旅立たれてしました。寂しい思いがしてなりません。御霊の安らかならんことを切にお祈り申し上げます。

 今週も予算委員会は粛々淡々と進み、中央公聴会の日程までセットされて早くも出口が見えてきました。政府の安定した答弁によるものというより、野党の質問の拙劣さに助けられている面が大きいことを今週もまざまざと見る思いでした。
 核心に迫る良い質問をする野党議員もいるのですが、与えられている時間が短いために議論が深まらないままに終わってしまう光景をこう何度も見せられると、ディベートの勉強を一からやり直した方がよいのではないかと思ってしまいます。顔見世興行ではあるまいし、まだ当選期数の少ない議員が短時間に入れ代わり立ち代わり質疑に立つのはやめたらどうか、若手議員の選挙区向けの顔見世と政権奪取とどちらが大事だと思っているのか、我々政府与党にとってはこの上なく有り難いことですが、日本の民主主義にとっては極めて憂慮すべきことですし、相手のレベルが低いとこちらまでが駄目になってしまうことを恐れています。弱体チームを相手にいくら連戦連勝してもこちらの実力は全く向上しません。

 総理秘書官の失言・更迭をきっかけに、LGBTQについて、また同性婚の是非が議論されています。
 日本国憲法第24条第1項「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」に「両性」とあることを根拠として同性婚を否定的に解する説がありますが、この「両性」に積極的な意味はなく、旧民法下で婚姻の成立に戸主の同意が必要であった例に鑑み、第三者の意思により婚姻の成立や効力が妨げられることはない、というのがその趣旨なのであり、「当事者」と解すべきものではないかと私は思っております。
 憲法制定時に同性婚は想定されていなかったのであり、民法や戸籍法もまた同様であるとするのが政府の立場ではなかったかと記憶していますし、下級審(宇都宮地裁真岡支部)でも同様の判断がなされていたはずです(本事案で最高裁は明確な憲法判断を示していません)。つまり憲法上も明確に禁止はしていないということですが、条文を四角四面に読む限りはこの解釈のままで同性婚を認めるのも困難があるので、最高裁の判決を待つか、法律によって認めるか、ということですが、権利を阻害されている国民が存在する以上、最高裁の判決を待つまでもなく早急な法制化が必要ではないでしょうか。LGBTQとされる方々の数は自己申告に基づいて推定する外はなく、比率も国民の3~10%と言われていますが、その多寡にかかわらず基本的人権は最大限に尊重されねばなりません。
 いわゆる「保守派」の立場の方々は、同性婚を認めるどころかLGBT理解増進法にすら否定的ですが、これは好き嫌いの問題や、政治的な右・左の立場によるものではありません。そもそも日本社会は本来もっと寛容なはずだったのですが、近年特に自分と違う考えや存在を排斥する狭量さが目立つのはとても残念なことです。「保守」の本質も寛容にこそあったと思うのですが。

 近々「JR時刻表」などを発刊している交通新聞社より、「忘れられない鉄道の本」(交通新聞社新書)が発売になります。撮り鉄の前原誠司代議士や高校時代の同級生であるエッセイストの泉麻人氏らとともに、私のインタビューも収録されております。政治から離れた、鉄道や音楽などの趣味の世界は本当に楽しいものですね。

 今日の都心は雪混じりの霙模様となっています。まだまだ寒い日々が続きます折、皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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