石破 茂 です。
安倍元総理の事件は、警備体制がきちんとしていれば当然防ぎ得たのであり、それが杜撰であったからこそ発生してしまったものです。何故そのようになってしまったのか、誰がその責任を負うべきなのか、については「皆一生懸命やったのだ、一番責任を感じている担当者を責めるのは酷だ」などという感情論を排し、二度とこのような凶行を許すことがないように早急かつ徹底的に検証されなくてはなりません。国民の生命・身体・公の秩序を守るために存在している警察であれば当然のことです。
一方で、今回の犯行は民主主義の破壊や言論の封殺を目的としたものでも何でもなく、単なる個人的な怨恨による凶行であって、民主主義の危機とか、自由な言論の弾圧、というのは違うでしょう。だからこそ警察は凶行直後から警備体制を見直し、即座に本来あるべき体制を整えなければならないはずです。
しかし、首都中枢や要人に限らず、警備体制が強化されたようには見えません。どこがどう、とは申しませんが、本当にこれでよいのか、テロリストがその気になれば恐ろしい事態が発生すると思われる個所は私の周りにも多くあります。勿論政治家は常に危険と隣り合わせの職業ですし、国会議員だけを対象とするものではありませんが、迅速な対応という点でかなり疑問に思われる現状が多々見受けられます。
警察は戦前の国家警察から自治体警察になったので、各都道府県ごとにその体制はバラバラになっている、との指摘もありますが、都道府県警察の警視正以上の上級幹部は国家公務員であり、警察庁に人事権がありますし、「調整」の名目で都道府県警察を実質的に指揮できることになっています。奈良県警の能力が低かった、という指摘にはあまり納得がいきません。人の評価、特に政治家のそれは「棺を蓋いて事定まる」というより、むしろ後世の歴史が判断するものだと思います。
自民党が政権復帰する時、安倍総裁のもとで憲法改正草案と安全保障基本法案概要を掲げて総選挙を戦い、国民の信任を得ました。憲法、なかでも第九条の改正には国民の理解と納得を得るために多大の時間とエネルギーを必要とするのであって、その間は安全保障基本法を制定することによって、集団的自衛権行使の制約要件や、専守防衛の概念の明確化を図るべきだ、というのが当時の自民党内のコンセンサスでした。この公約をそのまま実現できていれば、今日のような国際環境にもより的確に対応できたはずなのに、と思うと残念でなりません。
安倍元総理・総裁の本来のお考えも、自衛隊に国際法上認められた権能を与えること、集団的自衛権の行使を国連憲章上認められたものと同じくすること、だったのだと今でも私は信じています。平和安全法制の議論のあたりでお考えが変わられたところがあったのでしょうが、その理由は私には分からないままでした。
当時の内閣改造で、防衛大臣兼安全保障大臣を打診していただいた時、安倍総理は「現行憲法のもとでの集団的自衛権の行使はこれ(平和安全法制)が限界で、これ以上を認めようとすれば憲法の明文改正が必要だ」とおっしゃいました。私は「せめて、現内閣としてはそのように考えている、と仰っていただけませんか」と懇願したのですが、「これ以上を認めたければ、貴方が総理になった時にやればよいのではありませんか」とのお答えに、言葉を失ってしまいました。憲法に対する考え方が根本的に違うのであれば、大臣をお引き受けしても、安倍総理にも内閣にもご迷惑がかかるだけだと思い、お断りせざるを得ませんでした。
日本を真の独立主権国家とするためにこそ、憲法改正に取り組むべきである、との考えは、今も変わりません。かつて河野洋平総裁時代に自民党を離党した時も、新進党を離党した時も、その理由は憲法に対する考え方の相違でした。
安倍晋三元総理が唱えておられた「戦後レジームからの脱却」の核心も、まさしく日本を真の独立主権国家とする、というところにあったのではないでしょうか。いつか真意をお伺いしたい、と思っていたのに、その機会が永遠に失われたことが本当に残念でなりません。
御霊の安らかならんことを切にお祈りいたします。今晩は「プライムニュース」出演(BSフジ・午後8時~・先崎彰容教授との対談)。
23日土曜日は谷公一衆議院議員政経セミナーで講演(午後2時~・豊岡市神鍋高原ブルーリッジホテル)。
24日日曜日は鳥取県鉄道改革に関する勉強会(午前9時45分~・自民党鳥取県連)、「バルコス旅館三朝荘」オープニングレセプション(正午・東伯郡三朝町)、という日程です。
27日より30日まで、超党派の安全保障関係議員で台湾を訪問する予定です。我が国の防衛政策を論じるにあたって、台湾の最新の安全保障情勢を知らないということがあってはならないと考えており、可能な限りの準備をしておきたいと思っております。今週の都心は不順な天候が続きました。来週はまた暑さが戻ってくるようです。
新型コロナウイルスの感染拡大が続いております折、皆様どうかご健勝にてお過ごしくださいませ。