自民党憲法改正推進本部など

 石破 茂 です。

 トランプ・アメリカ合衆国大統領は、どこで、どのようにして新型コロナウイルスに感染したのか、その経緯を可能な限り明らかにすべきだと思うのですが、日本においてそのような論調が(週刊誌以外には)ほとんど見られないのはとても不思議なことです。
 同大統領に対する評価はさておき、合衆国のみならず国際社会においても影響力を持つ重要人物が感染したにもかかわらず、大統領専用機(エアフォース・ワン)の機内では誰もマスクを着用していなかった、ホワイトハウス内では大統領顧問や報道官など10月6日現在で関係者18人が感染するなどほぼクラスター状態、果ては僅か3日で病院を退院してホワイトハウスに戻ったトランプ氏が「コロナ感染は神の恩寵だ」と述べたとされるに至っては、本当にアメリカは大丈夫なのかと案じてしまいます。
 大統領は合衆国の主権者である同国民が選挙において決めることであり、私があれこれ言うべきことではありませんが、アメリカや世界の理想を語り、格調の高かったかつての討論や演説がなぜ無くなってしまったのか、アメリカ社会の抱える問題の根は深いように感じますし、我が国においても夢や理想を語ることが「綺麗ごと」「政治は現実であり大切なのは結果」とばかりに忌避されているような雰囲気もないわけではありません。

 昨8日、衛藤征士郎・元衆議院副議長を本部長として、自民党憲法改正推進本部の陣容が新しくなりましたが、私は引き続き顧問に就くこととなりました。今後、自民党が作成した憲法改正4項目の「イメージ案」(自衛隊明記・緊急事態・合区解消・教育無償化の明記)を条文化し、国会の憲法改正審査会に提案する運びとなるようです。
 憲法は国民の日々の生活にそのまま直接影響するものではありませんし、一般的には細かい知識を持っていないのは当然で、国民から澎湃(ほうはい)として憲法改正の機運が盛り上がることなどないでしょう。だからこそ、特にわれわれ自民党は、物事の本質を誤ることなく、ひたすら丁寧かつ誠実に説明する努力を決して放棄してはなりません。

 「軍隊とは国の独立を守る組織である」
 「領土・国民・統治機構が国家主権の三要素であり、これを満たしているのを独立主権国家という」
 「国の独立を守る、とは国家主権が他国の急迫不正の武力攻撃によって侵されないことである」
 「独立国の国家主権を武力によって侵害する国が、被侵害国の法律を守ることはあり得ない。侵害を排除する際に適用されるのは専ら国際法である」
 「国家における最強の実力組織であるが故に、軍隊に対しては司法・立法・行政による最高度の統制が必要であり、それに相応しい栄誉が与えられる」
 「自己完結性が軍隊の持つ本質的特性であり、それには当然司法も含まれる」
 この「軍隊」を「自衛隊」に読み換えても、本質は全く変わるものではありませんし、これら事項の理解なくして国家も独立も適切に保全しうる憲法をつくることはできません。国民の持つ基本的人権が侵害された時、それを守ることができるのは国家のみなのだと思っております。
 仔細に論ずれば他にも多々論点はありますが、これはイデオロギーや党派性とは全く無関係です。国民の多くに理解されないほどに難解なものとは考えませんし、それを議論し、説得することも政治の役割のはずです。

 自民党は野党であった平成24年秋に、安倍体制のもとで憲法改正草案を完成させ、これを掲げて政権を奪還したのです。この原点を等閑視する姿勢があるとすれば、私には理解出来ません。この憲法改正草案では、第9条だけではなく「政党活動の自由の保障と政党法の必要性」、「国政上の行為の国民に対する説明責務」、「臨時国会召集について20日以内の限度の設定」等々、他党も、国民の多くも賛成するような改正点をいくつも挙げています。そしてこれらの点もまた、民主主義のために必要なものだと信じています。

 現在議論となっている日本学術会議会員の任命についても、党派性によらない憲法的な視点が必要です。
 ・憲法上、思想・良心・表現の自由が規定されているのに、さらに学問の自由を規定した理由
 ・学術会議が内閣総理大臣の所轄であることと、その独立性との整合性
 ・学問と政治とのあるべき関係性(1950〔昭和25〕年、当時の吉田茂総理は日米講和条約に否定的な南原東大総長を「曲学阿世の徒」と評しました。自由党・自民党と学術会議との対立にも長い歴史があります)
 ・法律上、政府は学術会議に諮問し、学術会議は政府に勧告が出来ると定められているが、近年それが少ないことをどう考えるか
 ・運営方法などにおける諸外国との比較
 ・学術会議と文科省所管の学士院との関係
 等々、論点は多岐にわたります。これを機に、建設的な議論と改革がなされるべきであり、私も微力を尽くして参ります。

 不勉強で知らなかったのですが、16世紀のフランスの裁判官・思想家であるエディエンヌ・ド・ラ・ポエシの著した「自発的隷従論」という古典的名著があるそうです(邦訳はちくま学芸文庫刊)。ポエシ18歳の時の著作とのことで、ある方から権力と国民との関係を理解するのに有益との指摘を頂いたのですが、なんだかとても難しそうです。お読みになった方がいらっしゃれば、ご教示くださいませ。

 10日土曜日は新潟県長岡市(泉田裕彦衆院議員国政報告会・午後2時・ホテルニューオータニ長岡)にて講演、午後9時からはテレビ朝日系Web「ABEMA TV」に出演。
 11日日曜日は富山県高岡市(高岡青年会議所主催「全国城下町シンポジウム高岡大会」・午後2時半・射水神社)にて講演の予定です。

 都心はとても涼しい週末となりました。台風も接近中です。皆様お気を付けて、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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石破茂
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