平成11年4月の開館以来、米国ボストン美術館の所蔵する貴重な名品の数々を鑑賞できる場として、名古屋の文化振興に多大な貢献をしてきた名古屋ボストン美術館の閉館(平成30年10月)から、はや1年8か月が過ぎた。その間、ボストン美術館跡地は金山駅直近という好立地にありながら、名古屋市の跡地公募に応ずる事業者はなく、唯一公募に応じた事業者も名古屋市が求めた家賃は払えないとして不調におわっている。
跡地利用が決まらない最も大きな理由は、跡地が不採算な美術館・博物館にしか使用できないことにある。現行の建物は建築基準法上、美術館・博物館用途での活用に限られ、ホテルのバンケットルームや飲食店のテナントなど他用途で活用する場合には、現行法令に合わせた設備改修を美術館等のみならず、ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋や名古屋市都市センターが入るビルも合わせて金山南ビル全体で行う必要があり、試算によればあらたに数十億円もの改修費用が発生する。
このボストン美術館の跡地活用について本会議で取り上げたのは、地元熱田区選出の服部しんのすけ議員(自民)。
観光文化交流局長は、服部しんのすけ議員の質問に対し、名古屋ボストン美術館跡地の賃料や維持管理費が民間の採算ベースに合わず、これ以上公募しても応募する事業者はいないことから、今後は、公募により民間事業者に事業パートナーとして参画していただき、民間事業者の賃料の負担を求めることなく、本市がボストン美術館跡地を活用したイベントを実証実験として行うことを表明した。この中で、試行的な短期貸し付けとともに、恒久的な利活用策の検討をおこなうとしている。
ボストン美術館のすぐれたコレクションが20年にわたり名古屋で展示されてきたことは、金山地区の文化の発展に大きく寄与したことには異論はない。一方、名古屋ボストン美術館の経営を破綻に追いやったのは、「平成の不平等条約」と批判された米国ボストン美術館に対する巨額の寄付金支払い条件が重荷となっていたといえる。
世界の文化・芸術をこの名古屋で見たいと考える市民は多いだろうし、世界の一流の作品を間近に見ることができれば、名古屋の子どもたちの教育にも大きく貢献する。採算のみで文化・芸術を語るのではなく、一定のコストをかけてでも世界の文化に触れる機会を提供する文化都市名古屋であってもいいのでは。