岡崎市長選で初当選した中根康浩市長が選挙公約で掲げた「全市民への5万円支給」が各方面に波紋を呼んでいる。
■ 岡崎市
公約の是非論は別にして、数字の上では「実現可能」だろう。
まず、「岡崎市全市民への5万円支給」に必要な財源は、
ひとり5万円×市民38万6,000人=193億円
他に事務費が2億5,000万円程度必要になる。
岡崎市の一般会計における基金残高は249億円(令和元年度末現在)。そのうち「財政調整基金」は120億円(令和2年3月31日現在)。また、条例で使途の定められた「特定目的基金」は総額129億円(令和2年3月31日現在)。財政調整基金は条例上使途に制限はなく、全額投入可能だ。また、「特定目的基金」については条例に定めのある使途の制限の中で取り崩しは可能だろうし、場合によっては条例改正すれば使途の制限はなくなる。繰り返すが施策の是非論ではなく、あくまでも可能性を論じているに過ぎない。
ただ、中根市長は会見で「金融機関からの借り入れなどで賄えないか専門家に確認していきたい」と述べているとのことだが、地方自治体には赤字市債の発行は認められておらず、借金で賄うのは困難だ。
もちろん、財政調整基金は、年度間の財源不足に備えるため、また、万が一の南海トラフ地震などの大規模災害など緊急の支出に備えて積み立てているものであり、全額充当して基金残高がゼロになった場合、災害対策等に支障が出る可能性があることを岡崎市民全員が覚悟する必要がある。さらに、新型コロナ感染症の影響で予定された税収が確保できない可能性が高く、その場合にはさらに実現は困難となる。
■ 豊橋市
豊橋市長選(11月1日告示、8日投開票)に立候補を表明している新人の弁当販売業、鈴木美穂さん(46)が、「全市民に5万円を給付する」ことを市長選の公約に盛り込んだ。報道によると、「岡崎でもできるなら豊橋でもできる。地方債を発行して無駄な建物や事業を取りやめれば約200億は確保できる。年内に配る」と話した。
「豊橋市全市民への5万円支給」に必要な財源は、
ひとり5万円×市民37万7,000人=189億円
他に事務費が2億5,000万円程度必要になる。
豊橋市の「財政調整基金」は60億円(令和元年3月31日現在)。その他「特定目的基金」を入れても79億円(令和元年3月31日現在)しかない。鈴木美穂候補予定者は「岡崎でもできるなら豊橋でもできる。地方債を発行する。」としているが、岡崎市と豊橋市は財政状況が全く違う。さらに、今後、豊橋市においても新型コロナウイルス感染症の影響で税収が予定通り確保できない可能性も否定できず、公約の実現性はゼロに近い。
さらに、南海トラフ地震による津波の影響を受ける可能性が懸念されている地域でもあり、災害対策のために積み立てている財政調整基金を全額取り崩すなどというのは狂気の沙汰と指摘されてもやむを得ない。
■ 名古屋市
来春予定される名古屋市長選挙でも、「全市民への5万円支給」を掲げる候補がいるかもしれない。
「名古屋市民全員への5万円支給」に必要な財源は、
ひとり5万円×市民230万人=1,150億円
他に事務費が必要になる。
現在、名古屋市の基金残高は、「財政調整基金」100億円、「特定目的基金」や「公債償還基金」を合わせると2699億円(令和2年3月31日現在)が積み立てられている。数字の上では可能だが、公債償還基金の取り崩しは名古屋市の格付けに影響を与える可能性が指ある。しかし、財源を市民税減税(個人市民税は年間90億円程度)の廃止に求めれば、今後10年間で900億円の財源が見込め、公約の実現にも信ぴょう性が出てくる。
一方で、名古屋市も令和2年度は予定された税収が確保できない可能性が否定できず、さらに財政調整基金の取り崩しについても災害への備えといった観点から批判が出る可能性もありそうだ。