国際連合と联合国など

 石破 茂 です。 
 昨31日の自民党の外交部会・外交調査会合同会議は国連改革がテーマとなりました。
 United Nationsを「国際連合」と訳したことが日本人の国連幻想の原点であり、相当にユニーク(特異)な外交感覚を作ってしまった一因だと思います。
 国連憲章は日本がまだ戦っていた1945年6月26日に調印されたものであり(沖縄戦の終結は同年6月23日)、大戦中に連合国の敵国が起こした「侵略行為」に対しては、国連加盟国は安保理の決議がなくても軍事制裁を科すことが出来る、という敵国条項が入っているのはむしろ当然でした。「敵国」とは、日本政府の見解では日本・ドイツ・イタリア・ブルガリア・ハンガリー・ルーマニア・フィンランドの枢軸国を指すのだそうですが、その後これらの国々が加盟した段階で、国連憲章第2条第1項の「加盟国主権平等の原則」に明確に違背するこの条文を残すこと自体、極めて不当です。既に死文化しているからもはや意味はない、とする見方もありますが、死文化しているのなら何故いまだに憲章の改正が行われないのか。そこにはそれなりの理由が存在しているはずで、今なおロシアは北方領土を占拠している根拠にこの条文を持ち出しますし、台湾有事の際に日本が自衛権の行使として武力を用いた場合に中国がこの条項を使ってくることも予め想定に入れておくべきでしょう。「日本有事は台湾有事」と唱える際には、この点にも留意が必要です。
 ともあれ、国連の本質は今もなお創設時の「第二次世界大戦戦勝国連合機構」のままであり、日本外交の基本方針である国連中心主義とは即ち「第二次世界大戦戦勝国連合機構中心主義」ということになりますが、これは随分と奇妙なことではないでしょうか。中国はUnited Nationsをそのまま「联合国」と訳していますが(中国語は英語、フランス語、ロシア語、スペイン語とともに国連憲章が定める国連の公用語)、この彼我の認識の差は決定的に重要です。国連改革を論じる際には、国連の本質をよく見極めたうえで、これをどのように利用するかという知恵(狡知)を持たねばなりません。

 

 永田町界隈はウクライナ支援・ロシア非難一色で、あたかも「暴露膺懲(ぼうろようちょう)」的な様相を呈しつつありますが、プーチン大統領もロシアも突然変わったわけではありません。北方領土を巡ってロシアに対する経済協力がさかんに語られていた数年前から、こういった危険性を予測すべきであったと、自省することしきりです。
 今のところ軍事的選択肢がない以上、経済制裁を進めるより他はありませんが、その効果については、過去の経済制裁の検証を踏まえる必要があります。「ABCD包囲陣」と呼ばれた米英中蘭の日本に対する経済制裁は、結果として当時の日本に太平洋戦争開戦を決断させました。中国、リビア、イラン、北朝鮮に対する制裁も、軍事活動の停止には至りませんでした。
 今やらねばならないことは、無辜の民が日々命を落としていく戦争を早期に終結させることと、この戦争が核ミサイルが飛び交う第三次世界大戦に移行してしまうことを何としても阻止することに決まっていますが、早期終結への行程は相当に難しいものになりそうです。ウクライナの安全を保障せよ、とのゼレンスキー大統領の主張に、ブダペスト覚書が破綻したことへの教訓を踏まえつつ、実効性を与えるための真摯な努力が今一番求められていると考えています。
 プーチン大統領に対して「殺人者」「戦争犯罪人」「権力の座に留まるべきではない」等との言葉を浴びせかけるバイデン米国大統領の一連の発言は、真意はともあれ、憎悪をかき立てることにしかならないように思われます。

 

 ロシアとは何か、今更ながら勉強しているのですが、「北方の原形 ロシアについて」(司馬遼太郎著・文春文庫・1989年)はとても参考になりました。同じく相当に古い本ですが、「日本人はなぜソ連が嫌いか」(清水速雄著・山手書房・1979年)は、「ソ連」を「ロシア」に置き換えてもそのまま通用する好著で、ネット通販にはまだ少し在庫があるようです。昭和54年、大学を卒業して就職する前に一度読んだだけの本ですが、今読み返してみるととても示唆に富んでいることに驚かされます。
 苦学して学問を修めて内務官僚になった亡父は、貧困を憎み、社会主義に強い思いを抱いていたようですが、鳥取県知事在任中にソ連を二度訪問して、人間が営む社会主義国家に強い失望を感じたそうです。昭和30年代から40年代にかけて、鳥取県の青年の海外視察先には必ずソ連を選び、「君たちは保守を批判し、ソビエトの社会主義を礼賛しているが、人間が作る社会主義国家がどんなものなのか、その実態をよく見てくるように」と言っていたと聞いています。

 

 週末は4月2日土曜日が自民党鳥取県連東部地区支部長・幹事長会議(午前10時・鳥取市内)、参議院議員青木一彦氏鳥取後援会設立役員会(午前11時・同)、自民党鳥取県連中部地区支部長・幹事長・各種団体長拡大会議(午後1時半・倉吉市内)。
 4月3日日曜日は自民党河原支部国政報告会(午前11時半・鳥取市河原町)、どんどろけの会・春の懇親会(午後1時半・鳥取市内)、という日程です。
 来週6日水曜日には「岩瀬恵子のスマートニュース」に出演予定(午前7時17分・ラジオ日本)、7日木曜日には「日経ニュースプラス9」に「脱ロシアで変わるニッポン 防衛・安保はどう変わる」というテーマで出演予定です(午後8時54分・BSテレ東)。

 

 現在発売中の「サンデー毎日」に、京都大学・鎌田浩毅名誉教授との対談「南海トラフ・富士山噴火・首都直下 迫りくる3大天災に政治はどう向き合うか」、「FLASH」に太田光氏との対談「ロシア・ウクライナ問題」が掲載されています。
 鎌田名誉教授は京都大学で講義人気ナンバーワンの先生です。太田さんとはかつて日本テレビの番組「私が総理大臣になったら…秘書田中」で随分とやり合ったものでした。違う世界の逸材との対談からは、いつも新鮮な刺激を受けています。

 

 東京の桜は、今週満開となりました。永田町の近隣では、国会周辺、英国大使館付近、千鳥ヶ淵、靖国神社などが特に綺麗です。心底からお花見を楽しむことが出来た過ぎし遠い日々のことを懐かしく、少し切なく思い出します。
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

 

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