世論の分断など

 石破 茂 です。
 4月28日の衆議院島根1区の補欠選挙については、自民党で行った世論調査や、選挙当日の出口調査などを今後詳細に分析してみなければなりません。選挙は科学だ、とはかつて故・渡辺美智雄先生がよく口にしておられたことですが、年代別、地域別、男女別、職業別、支持政党別に今までと何がどのように変わったのか、それらがわからないままに周到狼狽したり、責任の押し付け合いをしていても何も始まりません。

 自民党の強い地域で思わぬ敗北を喫するのは、支持政党「自民党」と回答する自民党の支持者が、党の現状を憂いてその覚醒を期待して野党に投票するときです。2007(平成19)年、第一次安倍政権下で行われた参議院選挙では、自民党の牙城であった鳥取・島根両県で自民党公認の現職が敗れました。自民党鳥取県連会長、選対本部長を務めていた私は、お詫びの挨拶で県下支部の幹部の方々を廻った際、多くの方から「今回は自民党に立ち直ってもらいたくて、敢えて民主党候補に投票した」と言われて愕然としたものでした。
 社会調査研究センターの調査によれば、今回、島根一区の自民党支持者の3割が野党候補に投票しており、恐らく同じ現象が起こったものと思われます。党の改革を早急に進めてイメージを改めなければ全国的な雪崩現象が起きかねず、これは「表紙を変えればよい」などという甘いものでは断じてありません。

 新聞や地上波テレビなどの従来型メディアに多く接している比較的シニアな層と、それらにほとんど接することの無い若い層とでは、全く反応が異なるような気も致します。アメリカでも社会の分断が深刻になっていますが、この背景にはニューヨークタイムスやワシントンポストなどを読む人が激減し、それぞれが自分好みのネットメディアからの情報にしか接しなくなってしまっているとの事情があり(ニューヨークタイムスの発行部数は2002年の111万部に対して2019年は48万部、ワシントンポストは81万部が36万部と17年間で半減以下)、日本においても同様のことが起こっているように思われます。日本新聞協会の発表によれば、日本における新聞の発行部数は1997年(平成9年)の5376万部をピークとして年々減り続け、ここ数年は年間約200万部減、2023年は2859万部とほぼピークの半分で、単純計算すればあと13年で新聞購読者は消滅することになります。新聞を定期購読しているのは30代で30%、40代で42%、60代で73%、70歳以上で81%、大学生で週3回以上新聞を読むのは僅か3%なのだそうです。これはかなり深刻な事態と言わなければなりません。
 40年以上も前の私が新入社員の頃、出勤時間の満員電車の中で新聞を四つ折り、八つ折りにして読んでいるサラリーマンが多く居たものですが、今ではそのような光景は全く見られなくなってしまいました。スマートフォン等で必要な情報は入手出来ると言いますが、画面スペースの容量から提供される情報量はごく限られたものですし、アルゴリズムによってやがて自分の好む情報にしか接しなくなり、思考の幅が恐ろしく狭くなる危険性も有しています。子供の頃から、インターネットなどの電子媒体だけではなく、本や新聞などの活字媒体に接する習慣を身につけさせるのは決して容易ではありませんが、早急に取り組まなければ日本にも恐ろしい分断社会が出現すると思います。

 報道によれば「今回島根で勝ってしまうと、総理が自信をつけて衆議院を解散してしまうかもしれないので、島根の応援は敢えて手抜きをする」と言い放った自民党の国会議員がいたとのことです。真偽のほどは知る由もありませんが、このような者が仮にいたとすれば、もっての外と言わねばなりません。今国会の会期はもうあと一か月余り、緊張感を持って臨みたいと思っております。

 3日の憲法記念日には憲法改正推進派、反対派双方が毎年恒例の集会を開きました。反対派はともかくも、改正推進派集会に登壇したジャーナリストや元自衛隊制服組最高幹部の方が「9条の改正に当たっては、自衛隊を明記するのみならず、第2項の戦力不保持や交戦権否認の条項の改正が必要だ」旨発言されていたとの報道に接し、そのように思われるのであれば安倍晋三総理のご存命中に言って欲しかった、との思いが強く致しました。別の改正推進派の学者の方も、日本会議の機関誌で「まず半歩前進である自衛隊明記を必ず実現させながら、その過程で9条2項を改正することが、我が国が普通の自由民主主義国になるために絶対必要な道だという点を広く国民に知らせる活動を平行させるべき」と述べておられますが、これについても同様の感慨を持たざるを得ません。

 環境大臣に意見を述べていた水俣病の患者の方々に対して、環境省の事務方が発言時間を制限した上に、時間が経過したらマイクのスイッチを切ってしまった行為は、絶対にあってはならないことでした。世論からの「弱者に冷たい政府」という批判を回避するために、誠心誠意対応する他はありません。国民こそが有権者であり、政治家や官僚は預かっただけの権限や権力を努めて抑制的に扱うべき、という行政の基本を我々はもう一度認識しなければなりません。

連休中では「東大白熱ゼミ 国際政治の授業」(小原雅博著 ディスカバー21 2019年)、「国民の底意地の悪さが日本経済低迷の元凶」(加谷珪一著 幻冬舎新書 2022年)、「ユダヤ・キリスト・イスラム集中講座」(井沢元彦著 徳間書店 2004年)を面白く読みました。

 週末は地元鳥取県八頭町、滋賀県長浜市、大阪府豊中市で講演の予定です。連休が明けて4日が経ちましたが、休みの感覚がいまだに抜けないのは困ったことです。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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