1年半前におこなわれた名古屋市長選挙で争点の一つになっていた名古屋城天守閣木造復元におけるバリアフリーのあり方。私はマニフェストや討論会で以下のように申し上げていた。
「天守閣木造復元におけるバリアフリー対策では、柱や梁(はり)を損なうことなく、その『隙間』を利用してエレベーターを設置する。エレベーターを取り外せば、築城当時そのままの姿となるようにし、歴史的建造物の復元とバリアフリー化を両立する。」
当時、河村市長は私の案に対して真っ向から対立。エレベーターの設置には反対の立場だった。
それが、12月5日に開催された名古屋市会経済水道委員会では、「名古屋城天守閣木造復元にあたっては、柱や梁を損なわない垂直昇降設備を各階に配置し、乗り換えながらのぼる新技術の採用を検討する」との市長の考えが示された。
垂直昇降設備?
広辞苑によればエレベーターとは「垂直や水平に移動する昇降機」のこと。
昇降機って言い換えているだけで、これってエレベーターじゃないのか?
そこで、名古屋市の担当職員に聞いてみた。
横井「垂直昇降設備とエレベーターの違いは?」
市の職員「垂直昇降機とは新技術です。」
横井「垂直昇降設備とは、人が乗ることができる箱が電気を動力として上下するんですよね。」
市の職員「そうです。」
横井「エレベーターと何が違うんですか」
市の職員「人によっては、エレベーターだという人もいるかもしれません。」
横井「私が見たらエレベーターだと感じますか。」
市の職員「エレベーターだと感じるかもしれません。」
まさに言葉遊びをしているとしか思えない。
さて、ではなぜ、バリアフリーが必要なのか。
2018年6月、日本の文化財保護のあり方を規定する文化財保護法が改正され、従来文化財保護の柱であった「保存」に加え、「活用」という視点が新たに加わった。過去の人々の営みを伝える文化財については、その価値を保存し将来に守り伝えるとともに、公開などの活用によりその価値を広く社会に生かすことが求められようになり、法改正によって、これまでの保存重視から活用重視にシフトしたものだ。
名古屋城天守閣木造復元に当たって文化庁から示された3つの課題のうちのひとつが、誰もが「活用」することができる「バリアフリー」の実現だった。
■ 文化庁が示した「文化財の活用のためのバリアフリー化事例集」(2018年3月)
〇 国宝・清水寺
778年に建てられた清水寺は、石段等のため元々バリアフリーではなかった。しかし、障害のある人、高齢者、外国人など、すべての人が、より快適に文化財に親しめるよう、石段の脇にスロープが作られていたり、参道の舗装なども行われ、境内を一周できるようにバリアフリー化がなされた。本堂にも段差があるところには、取り外し可能なスロープを設置し、誰もが参拝できるよう配慮されている。また、本堂脇には多機能トイレも設置した。
今回河村市長が昇降設備という名のエレベーターの設置を提案したことは、天守閣木造復元の実現に向けた大きな一歩だと評価できる。バリアフリーをないがしろにしたまま、天守閣木造復元の現状変更許可申請は通らないからだ。一方で、バリアフリーによって歴史的建造物の復元がないがしろになってしまっては元も子もない。柱や梁など基本的な構造を損なうことがないよう、今一度設計の工夫を進めてほしい。