「歳食ったもんで、落ち葉を片づけるのが大変なんだわ。家の前の街路樹切ってくれんか。」「腰が痛くて昔のように落ち葉の掃除ができん。うちの前の公園の木を伐採してほしい。」こんなご相談をよくいただく。特に、落ち葉の時期になると、こうした悲痛な叫びは毎日。
「若い頃はなんでもなかったんだが、歳を取ると体が動かんでの~。協力はしたいんだが、まー限界だわ。」45リットル入りの落ち葉がいっぱい詰まったごみ袋を山のように積みあげる老夫婦を前に、本当に申し訳ない気持ちになった。
名古屋市は、高度経済成長期の昭和40年代以降、都市の基盤整備とともに街路樹の植栽を本格的に進めてきた。昭和40年代及び50年代にはアオギリやナンキンハゼなど都市の厳しい環境に耐性があり、成長の早い緑化樹が幹線道路を中心に多く植栽され、昭和60年代以降は生活道路を中心にハナミズキやサルスベリなど小型の花木が好まれるようになっている。
現在、名古屋市における街路樹本数は、約10万4,045本にのぼり、市域面積あたり高木本数(高木密度)の都市間比較では、大都市(人口100万人以上)の中では第1位となっている。
■ 市域面積あたり高木本数(高木密度)
1. 名古屋市 318.7本/㎢
2. 横浜市 305.7本/㎢
3. 神戸市 236.0本/㎢
4. 札幌市 201.4本/㎢
5. 福岡市 156.5本/㎢
一方で、その一部は大木化や老朽化、生育環境の悪化により、倒木や落枝などの事故をはじめ、信号機や交通安全施設への影響、根上がりによる通行への支障など市民生活の安全面に影響を与えている。
そして、前述のような落ち葉の問題は切実だ。とりわけ、超高齢化社会が急速に進展する中にあって、気持ちはあっても、落ち葉の掃除が困難になっている方々は決して少なくない。そして、街路樹は年々巨大化している。若木の頃は問題はなくても、大木の落ち葉の量は尋常ではない。
土木事務所に街路樹の剪定をお願いをすると、「予算が年々削られている。街路樹の剪定は3年に1回。」と苦しい胸の内を明かす。「老夫婦の方の家の前だけでも剪定できないか。」とお願いしても、「1軒だけ剪定すると、周りの家から自分の家の前もと要請され収拾がつかなくなる。」と土木事務所。確かに、近隣もほとんど老夫婦または老人単身世帯であり、土木事務所が指摘する通り、1軒だけでは済まなくなるのは事実だろう。街路樹の剪定の必要を感じながらも、厳しい予算の中で、市民からの要望に応えたくても十分応えることができず、土木事務所の職員もまた疲弊しているのが現状だ。
現在、名古屋市は、計画的な更新・撤去による街路樹再生などの「街路樹リノベーション計画」を進めている。しかし、名古屋市の街路樹の本数は大都市では最多の10万本をこえる。急速に進む高齢化と街路樹の大木化・老朽化問題。「街路樹リノベーション計画」を年限を区切って計画的に進めるなどの対策が急務だが、従来の「予算が足りない」といった説明だけでは、落ち葉ひろいに悪戦苦闘する老夫婦は浮かばれない。