自治体による「忖度」の要求

特別史跡に指定されている名古屋城城郭等の石垣は、わが国における伝統的土木構造物として、世界に誇る代表的な文化遺産であることは言うまでもない。国民共有の大切な文化遺産である石垣を将来にわたってよりよい保存状態を保つために、石垣を管理する自治体は必要な保護を行う義務を名古屋市は負っている。

さて、名古屋城天守閣木造復元にあたり、現天守閣の解体を一刻も早く進めたい名古屋市に対し、文化庁から「現天守閣解体にかかる現状変更許可申請に関する留意事項」が示された。つまり、現天守を解体する理由及び、解体が石垣に与える影響、石垣の保全の計画等について明らかにするよう求めている。

■ 現状変更許可申請提出にあたっての留意事項
1. 現天守を解体する理由(現天守解体の必要性・妥当性)
※ 耐震診断結果の詳細な説明、耐震補強では十分でない理由、現天守に係る沿革と内容に関する情報の整理、現天守の記憶保存等に関する措置  
2. 現天守解体の具体的な工事内容(工事用仮設の具体的な内容を含む。)具体的な工法・工程等
3. 2に関連して、現天守の解体・除去工事が文化財である石垣等に影響を与えない工法であり、その保存が確実に図られること
※ 石垣部会の意見を付すこと
4. 石垣等保全の具体的方針
※ 石垣部会の意見を付すこと
5. 石垣等詳細調査の具体的な手順・方法等(石垣調査計画)
※ 石垣部会の意見を付すこと

通常、要求したすべての要件を自治体が整えたうえで、文化庁が受理するのが一般的。しかし、要求した5項目のうち1項目のみこなしただけで、名古屋市は「現天守解体にかかる現状変更許可」を前代未聞の強行提出。その後、現状変更許可を取得するため、名古屋市はとんでもない行動に出ることになる。

■ 文化庁に国会議員による「圧力」
何が何でも現状変更許可を取得したい名古屋市観光文化交流局は、「現状変更許可」提出後、大臣経験のある国会議員のもとへ走る。「文化庁から現状変更許可をいただきたい。」国会議員から文化庁に問い合わせた結果、観光文化交流局は「現状変更許可」取得に向け大きく前進したと感じたようだ。

しかし、そもそも文化財保護法に基づき、名古屋市に対して資料の提出を求めたにもかかわらず、2022年までに天守閣を完成させるには時間が足りないとして、国会議員の「圧力」によって文化財保護行政を捻じ曲げようとする行動そのものが違法的行為。そればかりか、これだけ社会的に政治家の「忖度」が問題になっているさなか、自治体が「忖度」を求めるなど言語道断。ましてや、こんなつまらない「事件」に巻き込まれた国会議員もいい迷惑。

仮に、文化庁が求めた資料や調査、説明が未提出のまま「現状変更許可」が認められるようなことがあれば、その時点で「事件」に切り替わる可能性があるが、現時点で文化庁に「圧力」に屈する気配は全くない。

行政課題をひとつずつこなし、積み上げながら課題の克服に向け努力するのが本来の地方自治体の姿。文化財保護行政の原点に立ち返り、地道にひとつずつ石垣を積み上げるかのような努力の上にこそ、天守閣木造復元の将来がある。
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横井利明
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