漁民も主権も守れ

 稚内機船漁協所属の底引き網漁船を、ロシア側が拿捕(だほ)したとの報が。催涙弾が撃たれたとの証言もあり、日本政府は事実の確認を急ぐべきだし、日ロ中間ラインの日本側で漁船が操業していたのに拿捕したのであれば、到底認めるわけにいかない。これまでも北海道の漁師や家族は同じように苦しめられ、銃撃によって命を奪われた歴史もあったのです。

 2年前にも、茂木外相の訪ロに合わせるがごとく根室の漁船5隻が連行されました。安全操業の枠内での漁だったのに臨検を受けたのですから、茂木外相は明確な抗議や解放の要求をしてしかるべきなのに、どれだけ主張したかの事実は定かでありません。今回の臨検も何が理由なのか、ロシア側に厳しく問うているのでしょうか。

 昨日は紋別沖で、ロシア運搬船が毛ガニ漁中の漁船に衝突し、3人が亡くなりました。国交省の事故調査官による究明が始まったタイミングでの拿捕が、もし政治的な理由であるのなら許されません。国の主権問題であり、国民の命と健康にかかわる問題です。毅然とした外交姿勢を日本政府に求めたい。

 「板子一枚下は地獄」。船乗りは危険な仕事だと、漁師をしていた伯父の姿を見ながら、そう私も感じて育ちました。子どものころ、高波の日に漁船で送ってもらわなければいけない事情があり、大きく揺られ続けた船内で、その思いをますます強めたものでした。ただでさえ厳しい環境である海上で、そのうえ不当に連行・拿捕されたのでは、たまったものではありません。

 そもそもは千島諸島全体の領土問題が未解決なうえ、安倍前首相が「2島返還」の方針へと後退させ、プーチン大統領から「領土問題は存在しない」と言われながら明確な抗議さえもしない外交姿勢の足元が、こうやって何度も揺さぶられてきたのではないのか。私が現職の時に質問し、安倍前首相は「お互いの立場を述べ続けても1ミリも前進しない」とむきになっていましたが、現実は後退してしまっているのです。

 領土問題というのは、まさに政治の重要なテーマです。領土拡張や侵略・搾取を目的に戦争となった歴史からも明らかですし、いまだ日ロの間には平和条約も存在していません。島に墓や家が残されたままの方もいます。日本とともに北海道の一部が不法占拠されているのですから、くりかえし声にしなければ既成事実・実効支配とされてしまうのです。北海道に責任を負う者の1人として、私も引き続き訴えたい。

 【今日の句】もう何度 漁民や家族を 苦しめた
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畠山和也
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