「予防が進まない理由」
超高齢化社会を迎え、重要視されているのが予防医療です。予防医療とは、病気になってから「治療」をするのではなく、病気になることを「予防」するというものです。健康なうちから病気にならないように備えることで、健康寿命を延ばしていくことを目指します。社会全体の高齢化を避けることはできませんが、健康な高齢者を増やしていくことは可能です。
日本における年間およそ40兆円に及ぶ医科診療費。このうちのおよそ1/3は糖尿病・高血圧・心不全・悪性新生物など、生活習慣病関連であることがわかっています。医療を予防分野に活用することで、健康な高齢者を増やし、医療費・社会保障費を抑制することが期待されています。
欧米では予防医療の考えが根付き、国民の健康意識が高まっています。投薬だけでなく、サプリメントや栄養療法、運動療法など、生活習慣病予防が進んでいます。 その点、日本ではまだまだ予防医療は進んでいません。日本は国民皆保険で、病気になったとしても費用負担が少なく医療を受けることができるため、健康意識が低いと言われています。不健康な生活を続けた結果、生活習慣病となったとしても、同じ医療を受けることができます。医療に対する安心感が、国民から健康意識を奪っているという側面があります。
また、予防医療に関しては保険適用されません。医療機関もお金にならない予防医療には注力できません。これらの要因により、日本では予防の意識が育ちにくいと指摘されています。 生活習慣の中には「喫煙」「不健康な食事」「運動不足」「過度の飲酒」という4つのリスクがあります。生活習慣を見直し、これらのリスクを取り除いていくことが必要です。
特に注目したいのが「運動不足」です。欧米では生涯スポーツの文化が根付いています。日本では「スポーツは観るもの」「スポーツは学生がやるもの」「スポーツは勝敗を競うもの」という意識が強く、社会人になってからは日常的にスポーツを行う人は極端に少なくなります。生活習慣予防のためには、運動を生活の中に取り入れるなど、行動変容していく必要があります。全世代が参加できる総合型のスポーツクラブを育成するなど、運動を楽しめる環境づくりを進めるべきです。
また、予防医療の推進のため、ヘルスケアのデータ活用も注目されます。ウェアラブルデバイスを通して運動・食事などの生活習慣のデータ、体重・血圧・血糖値といった健康データを収集・AI解析し、リスクを判断・予防につなげていくことが可能です。生活習慣病予防を行っていた場合は、そうでない場合よりも医療費の自己負担金額が減額されるなどの仕組みがあれば、国民の予防・健康に対する意識づけも変わります。健診結果や薬剤情報などの保健医療情報などもマイナンバー制度と結び付けることで、生活習慣や検査情報をもとに疾患リスクを回避する予防医療を展開することが可能です。
もちろん、予防医療の目的は社会保障費の削減だけではありません。高齢になっても、病気によって生活を制約されることなく、生きがいを持って就労やボランティアなど社会参加を続けることができます。高齢になっても健康に生き生きと自分らしく暮らすことができる、予防医療が目指すのはそんな社会の実現です。