「400年前に築造した当時の名古屋城を復元するのだから、エレベーターなんかいらんわ。」
確かに市民の皆様の中には、史実に忠実な昔のままの木造天守閣の復元を望んでいる方は多い。私も当時のままの天守閣であってほしいと願っている。しかし、名古屋市が、いや河村市長の一声で採用となった竹中工務店の提案は、決して400年前の史実に完全に忠実であるとは言い難い。
上記の絵は、竹中工務店が平成28年5月に名古屋市に提出した提案書のひとコマ。名古屋城天守閣整備事業提案書28ページに記された施設計画の概要と特徴の説明パースには、ケーソン(鉄筋コンクリートで作った大きな箱型の地下構造物)内に支持層まで到達する杭を打ち、ケーソンの上には鉄筋コンクリート製の底板構造物(跳ね出し架構)を新たに構築し基礎構造物を形成する計画となっている。名古屋城天守閣が鉄筋コンクリート(RC構造)と鉄骨、そして木材を組み合わせたハイブリッド構造であることが理解できる。なお、跳ね出し架構は、コンクリートで基礎を作る過程で、築城当時の地下遺構を破壊するおそれがあるとして、文化庁や石垣部会から指摘されている。
河村市長はこの事業提案書をして「昔のままで寸分たがわぬ史実に忠実な復元」と市民の皆様に説明していたことになり、明らかに市民をミスリードしている。
ただ、竹中工務店が提案した天守閣のハイブリッド構造はやむを得ない提案でもある。
文化庁は、万が一の大きな地震の発生で天守閣が崩壊し内部にいる方々が犠牲になってしまったり、火災の時に、逃げ遅れた人々が多数犠牲となったりすることがないよう、耐震で耐火、バリアフリーの天守閣となるよう要求している。河村市長は「将来、史実に忠実な名古屋城天守閣は国宝になる」といっているが、名古屋市が推し進めるハイブリッド構造の天守が本当に国宝になるのかどうかは私も判断がつかない。なお、文化庁は名古屋市が進める天守閣復元事業は、「復元」ではなく「再現」と表現している。
私は名古屋市には、「昔のままで寸分たがわぬ史実に忠実な復元」といった誤った説明ではなく、どこまでが史実に忠実で、どことどこが史実と違うのか、なぜ史実と違った構造にせざるを得ないのかを正直に正確に説明すべきだと考えている。木造天守が完成した後、市民の皆様から「こんなはずじゃなかった」といわれないためにも...