天然ガス・石油パイプラインの国際政治学

 パイプラインを通じて相互依存関係を深めることは戦争の回避に役立つというのが、西欧諸国がソ連・ロシアとエネルギー分野での協力を進めた理由である。 ソ連がヨーロッパへのパイプライン事業を開始したのは1960年代であるが、その後も本格的な準備は着々と進んだ。しかし、1981年に発足したアメリカのレーガン政権は、ヨーロッパがソ連の天然ガスに依存することは安全保障上問題があるとして、パイプライン構想に反対であった。 しかし、ロシアからの輸入を止める代替案をアメリカ用意するわけでもなく、安価なエネルギー資源を求めるヨーロッパにとっては、極めて無責任な主張にしか見えなかったのである。ヨーロッパは、天然ガス貿易のように、ソ連と相互依存関係を築くことが逆に平和に繋がると反論した。こうして、1984年1月1日、西シベリアから西欧への天然ガスの輸送が始まった。 今回のロシアによるウクライナ侵攻は、アメリカの主張が正しかったことを証明するような形になってしまったが、問題はそんなに単純ではない。 ロシアからドイツに海底パイプラインで天然ガスを運ぶ「ノルドストリーム」は2011年11月8日に稼働を開始した。これに加えて、ドイツとロシアは、2015年5月に「ノルドストリーム2」の建設に合意した。アメリカは、この建設計画に対して安全保障上の問題があると反対してきたが、その間も建設は進められ、2021年夏にはほぼ完成した。そのため、バイデン政権は方針を転換し、7月21日完成を容認する米独共同声明を発表した。ドイツとの同盟関係を重視したためである。 ところが、ロシアが東部2州続きをみる

『著作権保護のため、記事の一部のみ表示されております。』