自分の選んだ自治体に寄附(ふるさと納税)を行った場合に、寄附額のうち2,000円を越える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される「ふるさと納税」。例えば、年収700万円の給与所得者の方で扶養家族が配偶者のみの場合、30,000円のふるさと納税を行うと、2,000円を超える部分である28,000円(30,000円-2,000円)が所得税と住民税から控除される。
また、寄付をおこなうと返礼品が贈られることから、返礼品目当ての寄付が多く行われているのが実態だ。つまり「自己負担2,000円のみで特産品がもらえる」仕組みが過熱し、令和3年度の寄付総額は、全国で前年度から2割増の8,300億円となり、過去最高を記録した。一方で、令和4年度の住民税控除額(市税流出額)も過去最高額となる見込みとなっている。
■ ふるさと納税に係る寄附金税額控除額(市税流出額:名古屋市)
令和2年度 88億4,000万円
令和3年度 109億円
名古屋市民の皆様が全国各地の自治体にふるさと納税を行うことにより、本来なら名古屋市民の福祉の向上や子どもたちの教育に使うべき住民税が109億円も他都市に流出していることになる。身近な行政サービスの費用を地域で分かち合う地方税の原則を逸脱しているとともに、高所得者ほど返礼品を多く受け取れる仕組みに疑問を呈する人も少なくない。
ただ、名古屋市も指をくわえて税の流出を眺めていたわけでもない。名古屋市は令和3年10月15日に返礼品を大幅にリニューアル。一気に品目数を25倍にし、ホーロー鍋「バーミキュラ」のフライパンなど人気商品を返礼品リストに盛り込んだ。
その結果、令和3年度、名古屋市に対するふるさと納税額が急増している。なお、返礼品上位を占めているのはやはりバーミキュラの製品だ。
■ 個人から名古屋市への寄付金
令和2年度 7億4,000万円
令和3年度 21億7,000万円
さて、寄附金税額控除額(市税流出額)と個人から名古屋市への寄付額のそれぞれが急増した名古屋市だが、結果的にふるさと納税で儲かったのか、それとも損したのかをみてみると...
■ ふるさと納税に係る収支(令和3年度)
個人からの名古屋市への寄付金(A) 21億7,000万円
募集経費(B) 8億9,000万円
税額控除額(市税流出額)(C)
収支(A)-(B)-(C) 96億2,000万円
ふるさと納税制度によって、本来名古屋市民の福祉の向上に使うべきお金を96億2,000万円、損していることになる。
なお、募集経費の内訳は以下の通り。
〇 募集経費
・返礼品代金5億3,000万円
・配送料4,000万円
・支援業務委託料1億6,000万円
・ポータルサイト利用料 1億6,000万円
合計 8億9,000万円