予算案の撤回。109年にも及ぶ名古屋市政の中でも予算案の撤回は極めて異例のこと。昭和24年には上程前の予算案が撤回されたことはあるが、今回のように議会に上程され、常任委員会において審査が続く中での撤回は過去にも例がない。
ではなぜ、このような事態に至ったのか。
・予算の熟度が低い
一つは、予算の熟度が低いことがある。2022年に天守閣を完成させるとする一方、現天守閣解体時に、また木造天守閣建設時に影響が懸念される石垣の調査に手がつかず、完成時期の見通しも立たない中での予算提案であったこと、さらに、木造復元の見通しがない中での今後さらに伐採・製材される木材問題について説明ができないこと。
・名城公園南広場でなければならない根拠
今回建設予定地とされる名城公園南広場は、多数の市民や近隣の保育園・幼稚園の行事で頻繁に利用されている施設であり、木造復元時期の見通しが立たない中で、10年以上にわたり、いやそれ以上にというかなりの長期間にわたり公園を占有する可能性があり、市民への理解が求めにくいこと、また、木材の倉庫が必ずしも名城公園南広場でなければならない必然性も説明しにくい。もちろん、木材倉庫の大きさの妥当性、民間木材保管施設と比べた優位性、さらに、事業期間の見通しが立たない中での木材倉庫事業の妥当性についても説明ができない。
・所管局である観光文化交流局自身が予算を否定
観光文化交流局長の答弁の中で、名城公園南広場における木材保管庫設置期間が長期にわたる可能性について言及するなど、今回の予算所管局自身が予算を否定する発言をするなど迷走ぶりが目立った。
これら問いに対する議会側の疑念が払しょくされないなかでの予算案の撤回は、市長の決断に一定の評価がある一方、財政当局を含めた予算編成のあり方に不信を抱くものも少なくない。意思決定のあり方、各局任せともいえる財政当局による事業の妥当性評価など、市全体での検証が必要だろう。天守閣木造復元に対する期待は、市民の中にも根強くあり、課題をひとつずつ解決するといった地道な対応を求めたい。